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反田恭平・小林愛実 ショパン国際ピアノコンクール入賞者の音楽会

投稿日:2021年12月18日 10:30

今週は10月に開催されたショパン国際ピアノコンクールで入賞を果たした反田恭平さんと小林愛実さんをお招きしました。反田恭平さんが第2位、小林愛実さんが第4位。これは快挙です! コンクールさながらの集中度で見事なショパンを披露してくれました。
 今回のショパンコンクールでは、すべての演奏がインターネットで動画配信されました。審査員やメディアだけではなく、世界中の人々に開かれたコンクールとなったことで、いっそう注目度が上がったように思います。1次予選から2次予選、3次予選、さらにファイナルへと段階を進むにつれてコンテスタントがどんどん減っていく形式ですから、予選の結果発表のたびに、応援するピアニストが残っているかどうか、ドキドキしていた方も多いことでしょう。
 反田さんは過度の緊張のあまり「3次予選で空回りしてしまった」とおっしゃっていたのに対して、小林さんは3次予選で前奏曲を弾いていたのが「いちばん楽しめた瞬間」と対照的な感想を述べていたのが印象的でした。
 おふたりのここまでに至る道のりも対照的といっていいかもしれません。小林さんは小学生の頃にすでに「世界一YouTubeで視聴された日本人ピアニスト」として有名になり、早くも中学生でメジャーレーベルへのデビューを実現しました。ショパンコンクールには2度目の出場で、前回もファイナルに進出しています。少女時代の印象が強いので、何歳になっても「あの女の子がこんなに大きくなったなんて!」という感慨を抱かずにはいられません。一方、反田さんはデビュー後あっという間に活躍の場を広げ、実力と人気に対して国際コンクール歴が追い付いていない感がありました。今回めでたく第2位を獲得したのはふさわしい結果というほかありません。おふたりとも今後、日本を代表するピアニストとして目覚ましい活躍をくりひろげてくれることでしょう。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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オーケストラで奏でる「ゲーム音楽」の音楽会

投稿日:2021年12月11日 10:30

今週はオーケストラの迫力あるサウンドでゲーム音楽をお楽しみいただきました。ゲーム音楽ほど近年に発展を遂げた音楽のジャンルはないかもしれません。当初はハードウェアの制限から「ピコピコ音」と形容されていた音楽が、今やなんの制限もなく作曲家たちが創造性を発揮できる分野へと進化しました。
 「モンスターハンター」シリーズの作曲家、甲田雅人さんのお話でおもしろかったのは、「英雄の証」のお蔵入りバージョンについて。今回、そのお蔵入りバージョンと採用されたバージョンを比較することができましたが、オーケストレーションがぜんぜん違います。お蔵入りバージョンは分厚いサウンドで、一度にいろいろな音が聞こえてきます。とてもゴージャスですばらしいのですが、これに魅了されるのは、先に採用バージョンを聴いて知っているからでしょう。初めて聴いたときに強いインパクトを残すのは、すっきりと洗練された採用バージョンだと思います。
 ブルックナーという交響曲の作曲家は、同じ曲に異なるバージョンをいくつも残したことから、どの稿がよいかファンの間でよく議論になるのですが、それを少し思い出しました。まさか「モンハン」の音楽にも初期稿があったとは!
 指揮の佐々木さんも言っていたように、ホルンの活躍は狩を連想させます。もともとホルンは狩の角笛を起源とすることから、ワーグナーやベートーヴェン、ブルックナーら多くの作曲家がこの楽器を狩のシンボルとして使いました。19世紀の音楽では森の動物を狩っていたのに対して、21世紀にはモンスターを狩っているわけです。
 「ファイナルファンタジー」や「グラディウス」「キングダム ハーツ」はゲームとして名作であるのみならず、音楽も名曲ぞろい。特に「ファイナルファンタジー」の「勝利のファンファーレ」を耳にすると、もうそれだけでささやかな達成感を味わえます。ゲーム音楽の枠にとどまらず、純粋にファンファーレとして傑出した音楽だと思います。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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「ウエスト・サイド・ストーリー」“対立”が仕掛けられた音楽会

投稿日:2021年12月04日 10:30

今週は「ウエスト・サイド・ストーリー」の音楽をお楽しみいただきました。作曲者バーンスタインが作品に込めたさまざまな仕掛けに、改めて名作の名作たるゆえんを知った思いがします。
 ミュージカル「ウエスト・サイド・ストーリー」が初演されたのは1957年。もう今から半世紀以上も前なんですね。多くの方は1961年製作の映画で親しんでいることでしょう。スピルバーグ監督によりリメイクでまた新たな話題を呼びそうです。そもそも「ウエスト・サイド・ストーリー」はシェイクスピアの「ロミオとジュリエット」を20世紀のアメリカによみがえらせたもの。モンタギュー家とキャピュレット家の対立が、ジェッツとシャークスの対立に置き換えられています。ですからこの作品自体が古典のリメイクとも言えるのですが、不朽の名作になったのはなんといってもバーンスタインの音楽の力があってこそでしょう。
 バーンスタインの舞台作品のおもしろいところは、ミュージカルでもありオペラでもあるところ。「ウエスト・サイド・ストーリー」に限らず「キャンディード」や「オン・ザ・タウン」なども、ミュージカルとして上演される一方、オペラとして上演されることもあります。作曲者自身が指揮した「ウエスト・サイド・ストーリー」のレコーディングでもオペラ歌手が起用されています。今回の番組でもそうでしたが、オペラ歌手もミュージカルの歌手も歌うのがバーンスタインの音楽。ジャンルの枠に収まらない傑作だと思います。
 そんな野心作だけに「ウエスト・サイド・ストーリー」の最初のオーディションには苦労したと言います。バーンスタインによれば、「マリア」の増4度は誰も歌えなかったし、ミュージカルには音域が広すぎると言われたそうです。「だいたい第1幕が終わってふたつの死体が転がってるミュージカルなんて誰が見たいんだ?」。そう揶揄されたそうですが、結果は歴史的ヒット作となりました。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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きょうだい奏者のウラ側を知る休日

投稿日:2021年11月27日 10:30

今週は吉田兄弟、レ・フレール、村治佳織さんと村治奏一さんの3組のきょうだい奏者のみなさんにお集まりいただきました。
 昔から音楽界にはきょうだいで活躍する例が少なくありません。モーツァルトが少年時代から神童としてもてはやされた話は有名ですが、モーツァルトの姉ナンネルもまた早くから楽才を発揮して、弟の共演者を務めていました。また、早熟の天才として知られるメンデルスゾーンにも才能豊かな姉ファニーがいました。女性が作曲家として活躍するのは困難な時代でしたので、弟のような名声を得ることはありませんでしたが、時代が違えばきょうだいそろって音楽史に名を残していたかもしれません。
 そして、きょうだいにはやはり他人からはうかがい知れない特別な結びつきがあるものだなと、本日ご出演のみなさんのお話をうかがって改めて感じました。演奏が始まるとぴたりと息が合うのは、さすがきょうだいならではだと思います。
 吉田兄弟のおふたりが演奏してくれたのは「モダン」。津軽三味線らしからぬ意外性のある曲名ですが、これは津軽じょんがら節を現代風にアレンジしたから「モダン」なのだとか。スタイリッシュで華やかなテイストがありましたよね。曲が進むにつれて次第に音楽が白熱する様子がとてもスリリングでした。
 レ・フレールが演奏したのは「Joker」。こちらは吉田兄弟とは逆で、楽器が西洋で曲調が和風。連弾スタイルで表現される日本の祭りのイメージは新鮮です。演奏中にふたりのポジションがなんども入れ替わるおなじみのプレイスタイルで盛り上げてくれました。これは文句なしに楽しい!
 村治佳織さんと村治奏一さんが演奏したのは童唄「ずいずいずっころばし」と「ふるさと」。2台のギターが生み出す温かくまろやかな響きが、曲のノスタルジーをいっそう際立たせていたように思います。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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演奏するのが大変な巨大楽器の音楽会

投稿日:2021年11月20日 10:30

今週は4種類の巨大楽器を集めて、めったに聴くチャンスのない低音の世界をお楽しみいただきました。コントラバスサックス、ダブルコントラバスフルート、コントラバスクラリネット、そして巨大なドラ。どれも普段の演奏会では目にすることのない珍しい楽器ばかりです。
 原則として、楽器はサイズが大きいほど低い音を出すことができますので、巨大楽器は超低音楽器でもあります。コントラバスサックスという楽器、初めて聴きましたが最低音はまるでパイプオルガンみたいな音でしたね。田村真寛さんが「道路工事のような音」とおっしゃっていましたが、音というかほとんど振動に近いかも。並の肺活量では吹けそうにありません。「イン・ザ・ムード」の演奏では、この重低音が高音楽器と鮮やかなコントラストを作り出すことで、曲の浮き立つような楽しさを際立たせていました。
 多久潤一朗さんが演奏したのはダブルコントラバスフルート。なんと、全長5メートル。フルートといえば軽やかな音色をまっさきに思い浮かべますが、こちらも地響きのような低音が出てきて、パイプオルガンやコントラバスを連想させます。
 さかなクンが愛用するのはコントラバスクラリネット。パッと見た感じはファゴットのような外見ですが、クラリネットらしいふっくらした音色も感じられます。ズンズンと振動が伝わってくる「クラリネットをこわしちゃった」には、なんともいえないコミカルなテイストがありました。
 木管楽器以外から唯一登場したのは、巨大なドラ。普通のドラ(タムタム)であれば、ラヴェルの「ボレロ」など、ときどきオーケストラでも使われることがありますが、これほど巨大なものは見たことがありません。余韻がすごい! そして神田佳子さんの特殊奏法から繰り出される音は実に多彩。スーパーボールでこすって悲鳴のような音が出てきたのには背筋がゾクッとしました。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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心をつかむセレナーデの音楽会

投稿日:2021年11月13日 10:30

今週はシューベルトからグレン・ミラーまで、さまざまなセレナーデをお楽しみいただきました。
 音楽用語のなかでも「セレナーデ」ははっきりと意味のわからない言葉の筆頭ではないでしょうか。シューベルトの「セレナーデ」を聴くと、切々とした恋の歌のことを指すのかなと思います。でもチャイコフスキーの「弦楽セレナーデ」やモーツァルトが残した多数のセレナーデには、恋愛の要素が感じられません。これは言葉の意味が時代を通して変化しているからなんですね。
 古くはルネサンス時代から、夜に戸外で恋人や貴人のために演奏される曲をセレナーデと呼んでいました。ところがモーツァルトの時代になると、戸外でも演奏できるような小編成で多楽章の合奏音楽をセレナーデと呼ぶようになります。モーツァルトが書いたいちばん有名なセレナーデは「アイネ・クライネ・ナハトムジーク」。ナハトムジークはドイツ語で「夜の音楽」という意味です。それからだんだん戸外のイメージも薄れてきて、チャイコフスキーの「弦楽セレナーデ」のように純然たる演奏会用の楽曲までセレナーデと呼ばれるようになります。
 セレナーデの伝統がジャズに及んだ例がグレン・ミラーの「ムーンライト・セレナーデ」。ここにも月明かりという夜の要素が受け継がれています。もっとも、これは偶然の産物でもあるのです。当初、この曲はNow I Lay Me Down to Weepと題されていましたが、グレン・ミラーがこの曲をフランキー・カール作曲「サンライズ・セレナーデ」のカバーと一緒にリリースする際、「ムーンライト・セレナーデ」と新たな題が付けられたのだとか。レコードのA面が「サンライズ・セレナーデ」なので、B面は対語として「ムーンライト・セレナーデ」にしたらいいんじゃないか、という発想です。おかげで「セレナーデ」本来の語義に含まれていた「夜」のイメージが復活することになりました。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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実は違っていた!?ピリオド楽器でショパンの名曲の秘密を知る休日

投稿日:2021年11月06日 10:30

今週はショパン国際ピリオド楽器コンクール第2位の川口成彦さんをお招きして、ショパンが作曲した当時の楽器を演奏していただきました。作曲者が本来イメージしていたのは、こんな音色だったんですね。現代のピアノとはずいぶん違います。
 ピリオド楽器という言葉が使われるようになったのは比較的近年のことです。以前は古楽器などとも呼ばれていました。ピリオド、つまり時代。ピリオド楽器は、作品が書かれた当時の楽器のことを指しています。過去の大作曲家たちが生きていた時代と現代では、楽器の仕組みや音色、音域など、いろいろな点で違いがあります。作品本来の姿を知るために作曲当時の楽器や奏法を研究しよう。そんな歴史的な視点が広まりつつあるのです。
 そのあらわれのひとつがショパン国際ピリオド楽器コンクール。川口成彦さんは2018年に開催された第1回のコンクールで第2位に入賞しました。このコンクールを主催しているのはポーランドの国立ショパン研究所です。つまり、先頃話題を呼んだあのショパン国際ピアノ・コンクールと同じ。彼らは現代のピアノで世界一注目されるコンクールを開く一方で、ピリオド楽器を使ったコンクールも開いたのです。このコンクールについて日本で記者会見が開かれた際、同研究所のマチェイ・ヤニツキ副所長は「ショパンの音楽と当時の楽器は切り離すことのできない関係にあります。わたしたちはピリオド楽器の魅力を伝えようとしているのではなく、ショパン本来の魅力を知らしめようとしているのです」と語っていたのが印象的でした。
 川口さんの解説から、ピリオド楽器では構造的に高速の同音連打が困難な理由、現代とのピッチの違い、打鍵後の音の減衰速度の速さなど、楽器の特徴がよく伝わってきました。そして、川口さんの演奏するショパンは実にニュアンスが豊か。ショパンの音楽に対する印象が変わりませんでしたか。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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上原ひろみ ザ・ピアノ・クインテットの音楽会

投稿日:2021年10月30日 10:30

今週は上原ひろみさんによるピアノ・クインテット(ピアノ五重奏)の演奏をお届けしました。ピアノと弦楽四重奏を合わせたピアノ五重奏という編成は、クラシック音楽の世界では決して珍しくありません。シューマンやブラームス、ドヴォルザーク、フォーレらがピアノ五重奏曲の名曲を残しています。しかし、ジャズでこの編成はあまりないのではないでしょうか。
 「豆電球がつく」ようにピアノ五重奏のアイディアが浮かんだという上原さん。共演者は新日本フィルのコンサートマスターであるヴァイオリニスト、西江辰郎さんを中心とする、ヴァイオリンのビルマン聡平さん、ヴィオラの中恵菜さん、チェロの向井航さんによる弦楽四重奏です。西江さんはオーケストラでの活動に加えて、ソロや室内楽でも活躍していますので、クラシック音楽ファンにはおなじみでしょう。のびやかな弦楽器の響きとキレ味のあるピアノの音色が一体となって、独自の音楽が生み出されていました。
 1曲目に演奏されたのは『シルヴァー・ライニング・スイート』より「アイソレーション」。「どの雲にも銀の裏地(シルヴァー・ライニング)がついている」という英語の諺から、「シルヴァー・ライニング」には「逆境にあっての希望の光」という意味があります。コロナ禍における孤立を題材に掲げつつ、テーマを弦楽器とピアノの間で受け渡しながら発展する様子に、一歩ずつ着実に前に進んでゆくようなポジティブなエネルギーを感じます。クラシカルな雰囲気のある曲でしたよね。
 2曲目は「サムデイ」。チェロのウッドベースのような使い方が特徴的で、こちらはよりジャズのテイストが前面に出ていたと思います。進むにつれてじわじわと白熱し、最後は輝かしい高揚感に包まれました。
 3曲目はスペインのワインの醸造地にちなんで題された「リベラ・デル・ドゥエロ」。民族音楽風の情熱的な曲想とメンバーそれぞれのソロが熱かったですよね。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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すぎやまこういちの音楽会 ~そして伝説へ

投稿日:2021年10月23日 10:30

今週は番組放送内容を変更して、9月に亡くなったすぎやまこういちさんの追悼企画をお届けしました。いずれも作曲者自身の指揮による自作自演で、貴重な映像ばかり。堂々として明快な指揮ぶりが印象的でした。
 作曲家すぎやまこういちの代表作を挙げるとすれば、やはり「ドラゴンクエスト」シリーズの音楽ということになるでしょう。「序曲」は「ドラクエ」シリーズ全体のテーマ曲というべき名曲。映画のオープニングテーマやオペラの序曲と同じように、音楽で物語の世界観を伝える大切な役目を担っています。「ドラクエ」の舞台は騎士、戦士、僧侶、魔法使いがいる古いヨーロッパ風のファンタジー世界。この世界にふさわしいクラシカルなテイストを持ったオーケストラ音楽が鳴り響きます。初代ファミコンの音源再生能力は現代からすると信じられないほど貧弱なものでしたが、それでもプレーヤーたちはイマジネーションを膨らませて、すぎやまさんの音楽にオーケストラのサウンドを聴き取っていたはずです。
 もっとも「ドラクエ」発売当時は、すぎやまこういちの名を意外に感じた人が多かったと思います。というのも、当時はファミコンゲームといえばまだまだマイナーな世界。すでに歌謡曲で数々のヒット曲を飛ばした有名作曲家が曲を書いてくれるなんて、本当かな……と感じたものです。
 番組最後に演奏されたのは「ドラゴンクエストIII」より「そして伝説へ」。これは名曲ですよねえ。シリーズ中でもドラクエIIIを最高傑作に挙げる人は少なくないのでは。ゲームをクリアして、音楽を聴きながらこれまでの冒険の軌跡を思い出し、その世界から別れがたい気分に浸る。これこそロールプレイングゲームの醍醐味でしょう。すべては架空の世界の物語なのに、音楽が強烈なノスタルジーを喚起します。もしすぎやまこういちの音楽がなかったら、「ドラゴンクエスト」はまったく別のゲームになっていたにちがいありません。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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藤井フミヤとクラシックの音楽会

投稿日:2021年10月16日 10:30

今週は藤井フミヤさんをゲストにお招きして、クラシックの超名曲を歌っていただきました。「最近は家で聴く音楽の8割はクラシック」というフミヤさんが選んだのは、シューベルトの「セレナーデ」、そしてベートーヴェンのピアノ・ソナタ第8番「悲愴」第2楽章でした。
 シューベルトといえば数々の名曲で知られる歌曲王。なかでも歌曲集「白鳥の歌」に収められたこの「セレナーデ」はよく知られています。通常はレルシュタープが書いたドイツ語の原詩で歌われますが、今回フミヤさんが歌ったのは松本隆さんによる現代日本語訳。以前、当番組の「シューベルトの歌曲を現代日本語訳で聴く音楽会」で松本隆さんの訳詞をご紹介しましたが、松本さんの訳詞はとても自然で、聴き取りやすいんですよね。そして、今の私たちの感性にぴたりと寄り添ってくれます。フミヤさんが歌うと、ますます現代的になると言いましょうか、ほとんどポップスのような身近な音楽として感じることができます。きっとシューベルトだって身近な人々のために曲を書いていたはず。当時の聴衆が受けた印象と私たちがフミヤさんの歌から受ける印象は案外近いのかもしれません。
 ベートーヴェンのピアノ・ソナタ第8番「悲愴」の第2楽章は、ビリー・ジョエルの「This Night」など、これまでにくりかえしカバーされてきた人気曲です。原曲はピアノ曲ですので歌詞はありませんから、フミヤさんはオリジナルの歌詞を付けて、「青いメロディー」と題しました。原曲が持つ淡いノスタルジーを保ちながらも、すがすがしく爽やかなポエジーで満たされいて、古い曲という感じがまったくしません。
 最後に演奏されたフミヤさんの「TRUE LOVE」は、尺八の藤原道山さん、箏のLEOさんが加わった豪華メンバーで。和楽器と弦楽器とボーカルが無理なくひとつに溶け合って、独特の透明感が生み出されていました。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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