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題名のない音楽会年鑑2021 前編

投稿日:2022年03月05日 10:30

今週は2021年度の音楽界を振り返る「題名のない音楽会年鑑2021」前編。コロナ禍に翻弄された音楽界ですが、それでも2021年度は話題の豊富な一年だったと思います。
 なによりも大きなニュースはショパン国際ピアノ・コンクール。第2位の反田恭平さん、第4位の小林愛実さんをはじめ、日本勢の健闘ぶりが目立ちました。特に反田さんは日本人としては1970年の内田光子さん以来となる過去最高位の第2位。反田さんがコンクールの第2位について「パスポート」と表現していたのが印象的でした。世界中のどこのコンサートホールであれどこのオーケストラであれ、「ショパン・コンクール第2位のピアニスト」には必ず敬意を払ってくれるでしょう。
 これまで番組で反田さんが演奏してくれた場面はどれも懐かしいものばかり。「カルメン幻想曲」の切れ味の鋭さには改めて驚かされます。
 小林愛実さんの「今まで生きてきた中でいちばん濃い一年」という言葉にも実感がこもっていました。小林さんは前回のショパン・コンクールでファイナルまで進出していただけに、今回それを上回る第4位入賞を果たしたことには大きな意味があると思います。小林さん、反田さん、藤田真央さんの3人の共演によるグリンカの「ルスランとリュドミラ」序曲はゴージャスの一語。原曲のオーケストラ版以上に華やかな雰囲気がありました。
 エリザベート王妃国際音楽コンクールもトップレベルのコンクールとして知られています。このコンクールにはさまざまな部門があるのですが、2021年は5年ぶりにピアノ部門が開催されました。そこで務川慧悟さんが第3位に、阪田知樹さんが第4位に入賞しました。たまたまショパン・コンクールと開催年が重なり、しかもどちらでも日本人が上位入賞を果たしたわけです。さらにミュンヘン国際音楽コンクールのヴァイオリン部門第1位に岡本誠司さん、ジュネープ国際音楽コンクールのチェロ部門第1位に上野通明さんが輝き、昨年度はまれに見る入賞ラッシュの一年になりました。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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タイトルを新解釈!もしもの音楽会

投稿日:2022年02月26日 10:30

今週は曲名と中身が異なった名曲を集めて、タイトルから新解釈してみました。「お祭りマンボ」「東京ブギウギ」「マツケンサンバ」「お嫁サンバ」「恋のロンド」などなど、どれも特定のリズムや音楽形式を連想させつつも中身は別。でも、本当にそのタイトル通りの曲にしたらどうなるのか……? そんな素朴な疑問から実現したのが、ブギウギ化された「東京ブギウギ」と、マンボ化された「お祭りマンボ」。なんだかものすごくカッコいい曲に生まれ変わったように感じたのですが、いかがでしたか。和風なような無国籍なような、レトロなような新しいような、不思議なテイストがありました。
 ボレロは舞曲の一種ですが、ふたつの系統があることから、しばしば混乱を招きます。クラシック音楽の世界でボレロといえば、なんといってもラヴェルの「ボレロ」が有名。ここで言うボレロとはスペイン舞曲の一種で、「もとは舞曲セギディーリャのテンポをゆるめ、優美さを加えたもの」(「新編音楽中辞典」より)。3拍子の舞曲です。ところが、キューバ、プエルトリコ、メキシコなど、ラテン・アメリカ大衆歌謡にもボレロと呼ばれる音楽があり、こちらは4拍子。そこで、もしもラヴェルの「ボレロ」が南米のボレロだったらと想像して、南米のリズムにアレンジしたのが今回の演奏です。いろいろなリズムの移り変わりを楽しめるカラフルな「ボレロ」で、ラテン的な心地よいムードが漂っていました。
 「ダンシング・クイーン」はスウェーデンのコーラス・グループABBAが1976年にリリースしたヒット曲。日本でも大ブームを巻き起こしました。この曲をさらにパワーアップさせるため、世界中から踊りのクイーンが集まったという設定で、サンバ、フラメンコ、ウィンナ・ワルツ、盆踊りの要素が盛り込まれました。どんなダンスでもフレキシブルに受け入れてしまう「ダンシング・クイーン」。やはりこの曲はダンスの女王です。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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クセが強いのにクセナキスの音楽会

投稿日:2022年02月19日 10:30

今週は今年生誕100年を迎えた作曲家、ヤニス・クセナキスの音楽をお届けしました。クセナキスは20世紀後半を代表する作曲家のひとり。アテネ工科大学で土木工学を学び、あの有名な建築家ル・コルビュジエのもとで技師や設計士として働いたという経験の持ち主です。1958年のブリュッセル万博ではフィリップス館の設計に携わっています。従来の作曲家たちとはまったく異なるバックボーンを持ち、数学的なアイディアをもとに独創的な音楽語法を作り上げました。
 数学を駆使した曲を書いたというと、聴く人を遠ざけるような難解で冷たい音楽をイメージするかもしれないのですが、お聴きいただいたように、実際の作品はとてもハートに訴えかける力の強い音楽です。どんなに複雑なプロセスで曲が書かれていようが、どんなに難しい超絶技巧を要求しようが、聴衆の魂を揺さぶる何物かがなくては、作品が時代を超えて生き残ることは難しいでしょう。今回の3曲、「カッサンドラ」「ディクタス」「オコ」、いずれの作品にも耳を捉えて離さない強靭な生命力が宿っていました。
 ギリシャ人のクセナキスには、ギリシア神話を題材とした作品がたくさんあります。そのひとつが一曲目の「カッサンドラ」。カッサンドラは悲劇の予言者として知られています。アポロンに愛され、予言の能力を授かったにもかかわらず、求愛を拒んだことから怒りを買い、予言が決して信じてもらえない呪いをかけられてしまいます。トロイの滅亡を正しく予言したのに、だれもカッサンドラの言葉に耳を貸さず、破滅への道を歩んでしまう。よく、耳が痛いけれど正しいことを言っている人のことをカッサンドラにたとえることがありますが、真実が見えるからこその悲哀というものがあると思います。そんな切なさが、クセナキスの音楽からも感じられたのではないでしょうか。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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名曲なのに作曲者不明!誰が作ったのかを探る休日

投稿日:2022年02月05日 10:30

とても有名な曲なのに、作者の名前が誤って伝わっている、あるいは本当の作者がわからない。今週はそんな名曲をご紹介いたしました。
 「おもちゃの交響曲」はかつてテレビの子供番組で知ったという方も多いのではないでしょうか。ハイドンなのか、弟のミヒャエル・ハイドンなのか、モーツァルトの父レオポルトなのか、それとも無名の神父の作なのか。CDではレオポルト・モーツァルトの作曲とされていることが多いと思います。かわいらしいオモチャを使った曲は教育熱心なレオポルトのイメージにぴったり。だから、レオポルトだったらいいな……という願望を抱いてしまうのですが、諸説あって本当のところはよくわかりません。
 「モーツァルトの子守歌」はだれもが知っている曲でしょう。曲はあまりモーツァルトらしくないのですが、なにしろモーツァルト研究者のケッヘルが、モーツァルト作品目録の決定版ともいえる「ケッヘル目録」にこの曲を含めてしまったので、誤った「お墨付き」が付いてしまいました。ケッヘル番号はK.350。ただし後の版の「ケッヘル目録」では疑作として扱われています。
 「カッチーニのアヴェ・マリア」は、日本では1980年代に突如として現れた「名曲」です。それまで誰もそんな曲を知らなかったのに、海外のアーティストが歌い出して、あっという間にメジャーな曲になってしまいました。当時は今ほど古楽への関心が高まっていなかったので、本来のカッチーニの作風や作品についてあまり気にする人がいなかったせいもあるでしょう。
 「アルビノーニのアダージョ」もバロック音楽らしからぬロマンティックな曲なのですが、これも「カッチーニのアヴェ・マリア」と同様に、古楽についての情報が少ない時代に広まってしまった作品だと言えます。
 それにしても偽バロック音楽を、本物のスペシャリスト集団であるバッハ・コレギウム・ジャパンが演奏してくれるとは! 実に痛快でした。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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知っているようで知らない「チャイム」の音楽会

投稿日:2022年01月29日 10:30

今週は「チャイム」の魅力にさまざまな角度から迫ってみました。「チャイム」と言われて即座に楽器を思い浮かべる方は少数派だと思います。しかし、オーケストラでこの楽器を耳にする機会は決して少なくありません。別名はチューブラー・ベル。tubularとは「管状の」。つまり「管状の鐘」という意味です。日本ではなんといっても「NHKのど自慢」の楽器として親しまれていますが、オーケストラでは教会の鐘の音を表現する場面でよく登場します。
 「チャイム」が登場する有名曲といわれて、まず思い出すのはベルリオーズの「幻想交響曲」。教会の鐘の音として登場します。でも、実際にはこの曲が作曲された1830年時点では、まだ「チャイム」は発明されていません。ベルリオーズが指定したのは「鐘」で、もし鐘を調達できない場合はピアノで代用することを想定していました。実際にインマゼール指揮アニマ・エテルナが鐘をピアノで代用した演奏を聴いたことがありますが、これは少数派。現代では「チャイム」を使うのが一般的です。
 ほかにもチャイコフスキーの祝典序曲「1812年」、ムソルグスキー(リムスキー・コルサコフ編曲)の交響詩「はげ山の一夜」、ムソルグスキー(ラヴェル編曲)の組曲「展覧会の絵」、レスピーギの交響詩「ローマの祭り」など、チャイムは華やかで色彩的なオーケストレーションが施された楽曲で活躍することが多いと思います。
 今回はそんなチャイムにソロ楽器としての活躍の場を与えるべく、「展覧会の絵」の「バーバ・ヤーガの小屋」をチャイムとエレキギターで演奏するなど、新しいアイディアが試されました。「バーバ・ヤーガ」とはロシアの民話に登場する子供を喰らう怪異で、日本風に言えば山姥のこと。臼に乗り、片手に持った杵で臼を急き立てながら追いかけるという怖い山姥なのですが、エレキギターとチャイムの組合せはまさにバーバ・ヤーガにふさわしいド迫力。こんな曲が聞こえてきたら逃げ出すしかありません。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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前代未聞の演奏!もしもの音楽会

投稿日:2022年01月22日 10:30

音楽を聴いていて、ふと「もしこんなことをやってみたらどうなるのかな……」という素朴な疑問が浮かぶことがあります。そんな疑問に日本のトップレベルの音楽家たちが本気でこたえてくれたのが今回の企画。これはびっくりしましたよね。
 「もしもボレロの小太鼓を他の打楽器で演奏してみたら」には意表を突かれました。本来、ラヴェルのボレロはずっと小太鼓が同じリズムを刻む曲。そこにいろんな楽器が交代で同じメロディを奏でて、どんどん音色が移り変わるのが聴きどころ。だったら小太鼓が別の打楽器に変わったらどんな曲になるのか。ドラムセット、カスタネット、アゴゴベル、銅鑼、しまいには相撲太鼓まで登場して超ジャンル横断的「ボレロ」が誕生しました。
 「もしもメチャクチャ細かい指示が書いてある楽譜を演奏したら?」では、古今の作曲家たちがくりかえし変奏曲の題材にとりあげてきたパガニーニの主題をもとに、川島素晴さんが変奏曲を作曲。「甘く歌うように」とか「とても表情豊かに」というのはわかるのですが、「キュンです ♡ 」とは? 服部百音さんの熱演がすごい! おしまいに登場する蚊が痒そうでした。
 圧巻は「もしも漫才の掛け合いを音楽にしたら」。こちらも川島さんの作曲です。サンドウィッチマンの漫才と音楽がぴたりと合致しているのも驚きですが、漫才抜きで聴いてもちゃんと曲に聞こえるんですよね。もともとの漫才にある対話性が音楽として転写されている、ということなのでしょうか。楽器と楽器の対話から音楽が生まれると思えばこれも納得!?
 「もしも名曲を逆さまに演奏したら」では、有名な「乙女の祈り」が登場。これを上下反転してみると、すっかり乙女感はなくなり、別の音楽に。まるで乙女が勇敢な戦士に変身したかのよう。意外といい曲になったと思いませんでしたか。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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トリオの名曲でぶつかり合う3人の音楽会

投稿日:2022年01月15日 10:30

今週は藤田真央さん、佐藤晴真さん、服部百音さんの新世代ソリストたち3名によるトリオをお楽しみいただきました。国際的に注目される若き実力者たちの共演は聴きごたえ十分。ピアノ・トリオの名曲に3人が相談して題名を付けてくれましたが、楽曲のイメージがよく伝わってきたのではないでしょうか。
 最初の曲はモーツァルトのピアノ・トリオ第1番 K.254の第1楽章。作曲は1776年ですので、モーツァルトはまだ20歳です。トリオの中心にいるのはピアノ、その相手役となるのがヴァイオリン、両者をそっと支えるのがチェロといった役どころ。リラックスして会話を楽しんでいるようなアットホームな雰囲気があります。3人の奏者で話し合って付けた題名は「少年の戯れ」。若き日のモーツァルトの天真爛漫な楽想にぴったりです。
 2曲目はブラームスのピアノ・トリオ第1番の第1楽章。ピアノ・トリオの名作ですが、若き日にいったん完成させた曲を、円熟期になってから改訂したという少し珍しい作品です。そこで3人で付けた題名が「青春の回想」。3人のパッションがひしひしと伝わってくるような熱い演奏でした。ブラームスならではの濃密なロマンに胸がいっぱいになります。
 最後に演奏されたのはショスタコーヴィチのピアノ・トリオ第2番の第2楽章。ショスタコーヴィチはソ連時代の作曲家でしたので、自由な創作活動は許されていませんでした。芸術家が当局の方針に従うことを求められる社会体制のなかで、自分が本当に表現したいことを表現するにはどうしたらいいのか。そんな葛藤から、ショスタコーヴィチは多様な解釈が可能な二面性を持った作品を書くようになりました。この楽章もユーモラスなようなグロテスクなような、楽しんでいるような怒っているような、一言では語れない複雑な表情を持っています。服部百音さんが題した「束の間の可愛くて攻撃的な遊び心」には、そんなショスタコーヴィチの作風が反映されていると思います。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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奄美のシマ唄を歌い継ぐ休日

投稿日:2022年01月08日 10:30

今週は元ちとせさん、里アンナさんのおふたりをお招きして、奄美のシマ唄をお楽しみいただきました。
 言葉も違えば、歌唱法も独特で、強烈に異文化を感じさせる音楽なのですが、それにもかかわらずどこか懐かしさを感じさせるのがシマ唄の不思議なところ。心の琴線に触れる歌声をたっぷりと味わうことができました。訳詞を見なければ意味がわからないという点では、クラシックの歌曲やオペラを聴くときと同じ心構えを要するのですが、シマ唄には言葉を超越してダイレクトに伝わってくる生々しい感情表現が込められているように思います。
 「シマ唄」という言葉、てっきり「島唄」だと思っていたら、実は集落やテリトリーを意味する「シマ」の唄ということだったんですね。日々の生活の中から唄が生まれ、譜面ではなく口伝で歌い継がれてゆくという成り立ちはほとんどの民謡に共通する特徴だと思いますが、それが土地に根差した形で現代まで歌い継がれているのは稀有なことだと思います。
 おもしろいなと思ったのは昭和のシマ唄、「ワイド節」。古い曲を歌い継ぐだけではなく、新曲も書かれているんですね。曲名から広々とした光景を歌った曲を想像してしまいましたが、「ワイド」とは徳之島の方言で「がんばれ」「やった」の意。徳之島には闘牛の文化があり、その掛け声なんだそうです。スペインの闘牛でいうところの「オーレ!」みたいなものでしょうか。曲調から人々の熱気が渦巻いている様子が伝わってきます。闘牛というと、ついビゼーの「カルメン」を連想してしまうのですが、情熱的な表現はどこか一脈通じるところがあるような気もします。
 最後に演奏された「豊年節」は、アコーディオン、ギター、パーカッションが加わった現代的なアレンジで。これは古くて新しい音楽、ローカルでありながらユニバーサルな音楽だと思います。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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クラシック奏者が演奏したいアニメソングの音楽会

投稿日:2021年12月25日 10:30

今週はクラシック音楽の名奏者たちが思い入れのあるアニメソングをスペシャルアレンジで演奏してくれました。かつてはアニメソングといえば子供でも歌えるような平易な曲が中心でしたが、アニメが世代を超えた文化として定着するにしたがって、アニメソングも音楽文化としての成熟度を格段に深めてきました。クラシックの奏者たちが演奏したくなるのも自然なことだと思います。
 最初に演奏されたのは『東京リベンジャーズ』より「Cry Baby」。ストーリー中で大きな役割を果たすタイムリープをたびたびの転調で表現したという曲ですが、なるほど、どこに連れていかれるのかわからなくなるような曲調はそのためだったんですね。ヴァイオリン、チェロ、フルートを中心にした編成が生み出すサウンドは、パワフルでありながらもエレガント。ほのかなノスタルジーが漂います。
 日本音楽コンクールヴァイオリン部門第1位の俊英、荒井里桜さんが選んだのは『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』より「炎(ほむら)」。荒井さんのつややかなヴァイオリンの音色が、エモーショナルな曲想にぴたりとマッチしていました。この曲は泣かせますね。
 超絶技巧と自由な発想力で新たなフルート奏者像を築く多久潤一朗さんは、『BEASTARS』より「怪物」を選んでくれました。草食獣と肉食獣が共存する学園生活を描いたという『BEASTARS』。主人公が自身の感情を恋なのか食欲なのかと葛藤するという展開が実に斬新ですが、多久さんの演奏もまったく想像のつかない斬新さでした。まさかフルートでオオカミの遠吠えを表現できるとは。
 ロストロポーヴィチ国際チェロコンクールに優勝し、国際的な活動をくりひろげる宮田大さんが選んだのは『呪術廻戦』より「廻廻奇譚(かいかいきたん)」。宮田さんのキレキレのチェロがオーケストラと一体となって荘厳なサウンドを作り出していました。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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反田恭平・小林愛実 ショパン国際ピアノコンクール入賞者の音楽会

投稿日:2021年12月18日 10:30

今週は10月に開催されたショパン国際ピアノコンクールで入賞を果たした反田恭平さんと小林愛実さんをお招きしました。反田恭平さんが第2位、小林愛実さんが第4位。これは快挙です! コンクールさながらの集中度で見事なショパンを披露してくれました。
 今回のショパンコンクールでは、すべての演奏がインターネットで動画配信されました。審査員やメディアだけではなく、世界中の人々に開かれたコンクールとなったことで、いっそう注目度が上がったように思います。1次予選から2次予選、3次予選、さらにファイナルへと段階を進むにつれてコンテスタントがどんどん減っていく形式ですから、予選の結果発表のたびに、応援するピアニストが残っているかどうか、ドキドキしていた方も多いことでしょう。
 反田さんは過度の緊張のあまり「3次予選で空回りしてしまった」とおっしゃっていたのに対して、小林さんは3次予選で前奏曲を弾いていたのが「いちばん楽しめた瞬間」と対照的な感想を述べていたのが印象的でした。
 おふたりのここまでに至る道のりも対照的といっていいかもしれません。小林さんは小学生の頃にすでに「世界一YouTubeで視聴された日本人ピアニスト」として有名になり、早くも中学生でメジャーレーベルへのデビューを実現しました。ショパンコンクールには2度目の出場で、前回もファイナルに進出しています。少女時代の印象が強いので、何歳になっても「あの女の子がこんなに大きくなったなんて!」という感慨を抱かずにはいられません。一方、反田さんはデビュー後あっという間に活躍の場を広げ、実力と人気に対して国際コンクール歴が追い付いていない感がありました。今回めでたく第2位を獲得したのはふさわしい結果というほかありません。おふたりとも今後、日本を代表するピアニストとして目覚ましい活躍をくりひろげてくれることでしょう。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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