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ひねりすぎたピアノを楽しむ休日

投稿日:2021年01月30日 10:30

好評の「ひねりすぎシリーズ」、今回はさまざまな角度から「ひねりすぎた」ピアノをご紹介いたしました。どれもびっくりするようなピアノばかりでしたが、大きく分けると、既存のピアノを普通ではない方法で用いたものと、楽器そのものを進化させたものがあったと思います。
 普通ではないピアノの使い方で、もっともインパクトがあったのは、「ピアノ・ヴァーティカル」(垂直ピアノ)。スイスのアラン・ロシュさんは、クレーンで高所に吊るされたグランドピアノを演奏して話題を呼ぶ作曲家・ピアニストです。安全対策は施されているのでしょうが、映像で見ているだけでも落ち着かない気分になります。奏者自身が特殊な環境に身を置くことで、聴衆と音楽の関わり方が変化するというのが狙いなのでしょう。なにげないフレーズの反復からもひりひりするような緊迫感が漂ってきます。
 山下洋輔さんは「燃えるピアノ」をこれまでに2度、演奏しています。1度目は1973年。グラフィック・クデザイナーの粟津潔さんの依頼で燃えるピアノを演奏し、その様子は実験映像「ピアノ炎上」として作品化されました。それから35年の時を経て、金沢21世紀美術館の「荒野のグラフィズム:粟津潔展」を機に、粟津潔さんゆかりの地である能登の海岸で、ふたたび燃えるピアノと対峙したのが今回ご紹介した映像です。その記録映像は「ピアノ炎上2008」として、同美術館の収蔵作品となりました。一連の行為そのものがアートとして残されているんですね。
 ローランドの「ファセット・グランド・ピアノ」やスタインウェイ&サンズの「スピリオ」は、ピアノの進化形といってもいいかもしれません。ピアノはもともと技術の発展とともに姿を変えてきた楽器です。ベートーヴェンやショパンの時代には、音域の拡大や音量の増大など、数々の改良が施されてきました。現代のITを駆使することでピアノがさらなる進化を遂げても不思議ではないでしょう。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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和楽器でビートルズに挑戦する音楽会

投稿日:2021年01月23日 10:30

今週はビートルズの名曲を和楽器による独自のアレンジでお楽しみいただきました。ビートルズが解散して昨年で50年。もうそんなになるんですね。半世紀を経ても色褪せない名曲は、もはや20世紀のクラシックと呼んでもいいかもしれません。
 「イエスタデイ」で用いられたのはメタル尺八でした。なぜ普通の尺八ではなくメタル尺八なのか、藤原道山さんの説明を聞いて納得。竹でできた尺八は一本一本が異なるのに対し、メタル尺八であれば5本で正確なハーモニーを生み出すことができます。編曲者のザック・ジンガーはニューヨーク在住の尺八奏者。実はサックスやクラリネット、フルートも演奏するというマルチ楽器奏者です。メタル尺八の音色はフルートやリコーダーを思わせつつも、やはり日本的な情緒があって、清涼感と幽玄さが一体になった独特のテイストを生み出していました。
 「オブ・ラ・ディ、オブ・ラ・ダ」は珍しい箏五重奏で。編曲は冷水乃栄流(ひやみず・のえる)さん。昨年の芥川也寸志サントリー作曲賞で最終候補に残るなど、近年注目を集める若手作曲家です。箏からこんなに軽やかで、色彩感豊かな響きが生まれてくるとは。
 「デイ・トリッパー」は笙と十七絃のためのアレンジ。日本人ならだれもが耳にしたことのある笙ですが、じっくりと曲を聴く機会はなかなかありません。十七絃との組合せからは意外にもモダンな音色が聞こえてきます。編曲は三宅一徳さん。カッコよかったですよね。
 「ヘイ・ジュード」は11人の和楽器奏者によるアンサンブル。こちらも編曲は三宅一徳さん。ほとんどオーケストラと言ってもよいくらいの厚みのある編成から、カラフルなサウンドが生み出されていました。いろいろな楽器がソロを務めるところは、バロック音楽の合奏協奏曲を連想させます。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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こんな楽器でも7人制吹奏楽!ブリーズバンドの音楽会

投稿日:2021年01月16日 10:30

今週は7人だけの小編成吹奏楽「ブリーズバンド」の第2弾。吹奏楽の魅力は大編成だけではありません。わずか7人でも多彩な表現が可能、しかも7人全員が主役になれるのがブリーズバンド。前回の放送に寄せられた反響をふまえ、今回のテーマは演奏の難度を下げること、そして普段メロディを奏でる機会の少ない楽器も主役になれること。それぞれ異なる編成の3曲から、ブリーズバンド独自の魅力が伝わってきました。
 一曲目は Make you happy。ピッコロ、アルトサックス、バスクラリネット、ホルン2、ユーフォニアム、パーカッションという7人編成から生まれる音色はとても色彩感豊か。しかも柔らかい雰囲気があったと思います。フルートではなくピッコロというのが、かわいいですよね。パステルカラーの色鉛筆を連想させるような、爽やかなテイストがありました。
 二曲目は「ソーラン節」。フルート、オーボエ、クラリネット2、ファゴット、バリトンサックス、ピアノという、木管楽器中心の編成でした。これはカッコいい! たしかにソーラン節なのですが、ゆったりとたゆたうような前半からしてモダンでスタイリッシュ。後半はピアニストの一声でがらりと雰囲気が変わって、疾走感あふれる「ソーラン節」に。鮮やかでした。
 三曲目は吹奏楽の古典、ホルスト作曲の吹奏楽のための組曲第1番。イギリスの作曲家ホルストといえば、オーケストラのための組曲「惑星」が有名ですが、吹奏楽のためにも作品を残しており、特にこの組曲第1番は広く親しまれています。今回はこれをフルート、アルトサックス、トランペット2、トロンボーン、テューバ、パーカッションの7人で。原曲の持つ格調高さと輝かしさをそのまま保ちながら、少人数ならではの軽快さ、小気味よさが加わっていたと思います。足技が登場するのも楽しいですね。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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石丸幹二が忘れられない名演ベストパフォーマンス

投稿日:2021年01月09日 10:30

今週は石丸幹二さんが選ぶ2020年の「忘れられない」ベストパフォーマンスをお届けしました。村治佳織さん他によるヴィヴァルディと、藤田真央さんの自作自演は今回が初公開。名演がずらりとそろいました。
 高嶋ちさ子さんはデュカスの名曲「魔法使いの弟子」で手品を披露。この曲はディズニー映画「ファンタジア」で使われ、ミッキーマウスが見習い魔法使いを演じたことで、一躍人気を高めました。ミッキーマウスは魔法に失敗してひどい目にあってしまうのですが、高嶋さんのマジックは大成功でしたね。
 村治佳織さんが鈴木優人さん指揮東京フィルとともに演奏したのは、ヴィヴァルディの「四季」より「冬」第1楽章。以前の放送では「秋」をお楽しみいただきましたが、「冬」も負けず劣らず名曲です。曲の冒頭で静かに「ブルッ、ブルッ、ブルッ、ブルッ」とくりかえされる部分が、いかにも寒さにぶるぶると震えているかのよう。ほかにも寒さで歯がカタカタと震えている部分が出てきたりと、冬は意外とリズミカルです。こういった冬の情景を舞曲的な躍動感に結び付けるあたりに、ヴィヴァルディの卓越した創意を感じます。
 藤田真央さんが演奏したのはご自身が作曲した「パガニーニの主題による変奏曲」。ここでいう「パガニーニの主題」とは、パガニーニが「24の奇想曲」の終曲で用いた主題を指しています。パガニーニ以降、この主題で変奏曲を書くことが一種の流行のようになり、ブラームスやリスト、ラフマニノフをはじめ数多くの作曲家たちが「パガニーニの主題による変奏曲」を書いています。藤田真央さんもその伝統にのっとって、ジャズの語法を盛り込んだ現代的な感性にもとづく変奏曲を書きあげました。それにしてもこれが高校時代の作品とは。
 最後を飾ったのは、Toshlさんがフルオーケストラをバックに歌った「ボヘミアン・ラプソディ」。これは文句なしの名演でしょう。圧巻でした!

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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