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タイトルを新解釈!もしもの音楽会

投稿日:2022年02月26日 10:30

今週は曲名と中身が異なった名曲を集めて、タイトルから新解釈してみました。「お祭りマンボ」「東京ブギウギ」「マツケンサンバ」「お嫁サンバ」「恋のロンド」などなど、どれも特定のリズムや音楽形式を連想させつつも中身は別。でも、本当にそのタイトル通りの曲にしたらどうなるのか……? そんな素朴な疑問から実現したのが、ブギウギ化された「東京ブギウギ」と、マンボ化された「お祭りマンボ」。なんだかものすごくカッコいい曲に生まれ変わったように感じたのですが、いかがでしたか。和風なような無国籍なような、レトロなような新しいような、不思議なテイストがありました。
 ボレロは舞曲の一種ですが、ふたつの系統があることから、しばしば混乱を招きます。クラシック音楽の世界でボレロといえば、なんといってもラヴェルの「ボレロ」が有名。ここで言うボレロとはスペイン舞曲の一種で、「もとは舞曲セギディーリャのテンポをゆるめ、優美さを加えたもの」(「新編音楽中辞典」より)。3拍子の舞曲です。ところが、キューバ、プエルトリコ、メキシコなど、ラテン・アメリカ大衆歌謡にもボレロと呼ばれる音楽があり、こちらは4拍子。そこで、もしもラヴェルの「ボレロ」が南米のボレロだったらと想像して、南米のリズムにアレンジしたのが今回の演奏です。いろいろなリズムの移り変わりを楽しめるカラフルな「ボレロ」で、ラテン的な心地よいムードが漂っていました。
 「ダンシング・クイーン」はスウェーデンのコーラス・グループABBAが1976年にリリースしたヒット曲。日本でも大ブームを巻き起こしました。この曲をさらにパワーアップさせるため、世界中から踊りのクイーンが集まったという設定で、サンバ、フラメンコ、ウィンナ・ワルツ、盆踊りの要素が盛り込まれました。どんなダンスでもフレキシブルに受け入れてしまう「ダンシング・クイーン」。やはりこの曲はダンスの女王です。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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クセが強いのにクセナキスの音楽会

投稿日:2022年02月19日 10:30

今週は今年生誕100年を迎えた作曲家、ヤニス・クセナキスの音楽をお届けしました。クセナキスは20世紀後半を代表する作曲家のひとり。アテネ工科大学で土木工学を学び、あの有名な建築家ル・コルビュジエのもとで技師や設計士として働いたという経験の持ち主です。1958年のブリュッセル万博ではフィリップス館の設計に携わっています。従来の作曲家たちとはまったく異なるバックボーンを持ち、数学的なアイディアをもとに独創的な音楽語法を作り上げました。
 数学を駆使した曲を書いたというと、聴く人を遠ざけるような難解で冷たい音楽をイメージするかもしれないのですが、お聴きいただいたように、実際の作品はとてもハートに訴えかける力の強い音楽です。どんなに複雑なプロセスで曲が書かれていようが、どんなに難しい超絶技巧を要求しようが、聴衆の魂を揺さぶる何物かがなくては、作品が時代を超えて生き残ることは難しいでしょう。今回の3曲、「カッサンドラ」「ディクタス」「オコ」、いずれの作品にも耳を捉えて離さない強靭な生命力が宿っていました。
 ギリシャ人のクセナキスには、ギリシア神話を題材とした作品がたくさんあります。そのひとつが一曲目の「カッサンドラ」。カッサンドラは悲劇の予言者として知られています。アポロンに愛され、予言の能力を授かったにもかかわらず、求愛を拒んだことから怒りを買い、予言が決して信じてもらえない呪いをかけられてしまいます。トロイの滅亡を正しく予言したのに、だれもカッサンドラの言葉に耳を貸さず、破滅への道を歩んでしまう。よく、耳が痛いけれど正しいことを言っている人のことをカッサンドラにたとえることがありますが、真実が見えるからこその悲哀というものがあると思います。そんな切なさが、クセナキスの音楽からも感じられたのではないでしょうか。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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名曲なのに作曲者不明!誰が作ったのかを探る休日

投稿日:2022年02月05日 10:30

とても有名な曲なのに、作者の名前が誤って伝わっている、あるいは本当の作者がわからない。今週はそんな名曲をご紹介いたしました。
 「おもちゃの交響曲」はかつてテレビの子供番組で知ったという方も多いのではないでしょうか。ハイドンなのか、弟のミヒャエル・ハイドンなのか、モーツァルトの父レオポルトなのか、それとも無名の神父の作なのか。CDではレオポルト・モーツァルトの作曲とされていることが多いと思います。かわいらしいオモチャを使った曲は教育熱心なレオポルトのイメージにぴったり。だから、レオポルトだったらいいな……という願望を抱いてしまうのですが、諸説あって本当のところはよくわかりません。
 「モーツァルトの子守歌」はだれもが知っている曲でしょう。曲はあまりモーツァルトらしくないのですが、なにしろモーツァルト研究者のケッヘルが、モーツァルト作品目録の決定版ともいえる「ケッヘル目録」にこの曲を含めてしまったので、誤った「お墨付き」が付いてしまいました。ケッヘル番号はK.350。ただし後の版の「ケッヘル目録」では疑作として扱われています。
 「カッチーニのアヴェ・マリア」は、日本では1980年代に突如として現れた「名曲」です。それまで誰もそんな曲を知らなかったのに、海外のアーティストが歌い出して、あっという間にメジャーな曲になってしまいました。当時は今ほど古楽への関心が高まっていなかったので、本来のカッチーニの作風や作品についてあまり気にする人がいなかったせいもあるでしょう。
 「アルビノーニのアダージョ」もバロック音楽らしからぬロマンティックな曲なのですが、これも「カッチーニのアヴェ・マリア」と同様に、古楽についての情報が少ない時代に広まってしまった作品だと言えます。
 それにしても偽バロック音楽を、本物のスペシャリスト集団であるバッハ・コレギウム・ジャパンが演奏してくれるとは! 実に痛快でした。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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