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もっと有名作曲家のひねりすぎた曲名を楽しむ休日

投稿日:2020年09月26日 10:30

今週は先週に続いて「もっと有名作曲家のひねりすぎた曲名を楽しむ休日」をお届けいたしました。
 フランス音楽界きっての異端児エリック・サティこそは「ひねりすぎた曲名」の王様にちがいありません。「犬のためのぶよぶよした前奏曲」を出版社に持ち込んで断られたら、今度は「犬のためのぶよぶよした本当の前奏曲」を書いて持ち込んだ。そんなエピソードからもうかがえるように、一筋縄ではいかないひねくれ者がサティ。ほかにも「梨の形をした3つの小品」や「官僚的なソナチネ」など人を食ったようなタイトルの曲をたくさん書いています。サティの基本姿勢は反権威。偉そうにしている連中を笑い飛ばすようなところがあります。
 そんなサティの作品のなかでも、近年話題を呼んだのが、短いメロディを840回もくりかえす「ヴェクサシオン」。今年5月、世界最高峰のピアニスト、イゴール・レヴィットがこの曲にチャレンジして話題を呼びました。演奏にかかった時間は、なんと約20時間。さすがに途中で食べたり、トイレ休憩をはさんだりしていたようですが、それでも最後はすっかり嫌気がさしてしまったそうです。サティにしてみれば「あの曲を真に受けて本当に弾く人間がいるなんて!」といったところでしょうか。
 ベートーヴェンも風変わりな作品をいくつか書いています。ダジャレをもとにした「ホフマンよ、決してホーフマンになるなかれ」や、先週の「お願いです、変ホ長調の音階を書いてください」などは、仲間内の戯れから生まれてきた曲なのでしょう。これらは小曲ですが、ベートーヴェンの場合、交響曲や協奏曲といったシリアスな大作のなかにも、ユーモアの要素が少なからずあるのではないでしょうか。前例のない革新的なアイディアを実現して「ガハハハハ」と高笑いをする作曲者の姿が、楽曲から思い浮かびます。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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有名作曲家のひねりすぎた曲名を楽しむ休日

投稿日:2020年09月19日 10:30

今週は古坂大魔王さんの「ひねりすぎ」シリーズ第4弾、「有名作曲家のひねりすぎた曲名を楽しむ休日」をお届けいたしました。大作曲家たちの意外な側面が垣間見えたのではないでしょうか。
 モーツァルトの「俺の尻をなめろ」は、おそらく仲間内でのおふざけとして書かれたのでしょう。そこに居合わせた6人の音楽家たちが酔っ払って口々に悪態をついたところ、じゃあ、どうせだったら悪態でカノンを書いてやろうとモーツァルトが思いついたのかもしれません。
 もちろん、こんな曲がモーツァルトの生前に出版されるはずがありません。死後に楽譜が出版される際も、偉大なモーツァルトにこんな下品な曲があってはならないと思われたのでしょう、「愉快にやろうね!」という上品な歌詞に差し替えられてしまいました。「俺の尻をなめろ」と「愉快にやろうね!」では大違いです。本来の歌詞が広く知られるようになったのは、20世紀後半になってから。モーツァルトが羽目を外していたのは、この曲に限りません。ガールフレンドに宛てた手紙では下ネタやダジャレを連発しています。
 一方、ロッシーニはいかにも愉快な曲を書きそうな作曲家です。ロッシーニはオペラで大ヒットを連発して、大儲けをしたあげく、早々に作曲から引退してグルメの道をまっしぐらに進んだというキャリアの持ち主。道楽をとことん突き詰めるタイプだったんですね。ですから、「2匹の猫の滑稽な二重唱」のような楽しい曲をロッシーニが書いていても不思議はありません。本当は他人の曲だったのですが、みんながロッシーニの作品として納得してしまったわけです。
 ベートーヴェンの「お願いです、変ホ長調の音階を書いてください」もおかしな曲でした。これも仲間内のジョークのような曲だと思いますが、きっとその場にいた人間だけにわかる笑いの要素があったのではないでしょうか。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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辻井伸行がベートーヴェンの「月光」完全版を弾く音楽会

投稿日:2020年09月12日 10:30

今週は先週に続いて辻井伸行さんにベートーヴェンの傑作ソナタを演奏していただきました。今回はピアノ・ソナタ第14番「月光」。実はこの曲、出版時にはピアノ・ソナタ第13番と2作セットで発表されました。その際、ベートーヴェンはこの2作に「幻想曲風ソナタ」と名付けました。
 言葉だけを見ると、幻想曲とはなんらかの空想を描いた曲のことかと思ってしまうかもしれませんが、そうではありません。ここでいう幻想曲とは、既存の様式や形式にこだわらずに、自由な創意にもとづいて書かれた曲のこと。カチッとした形式があるのではなく、即興風の曲だというようなニュアンスも持っています。ですから、本当ならベートーヴェンのピアノ・ソナタ第13番も第14番も両方とも「幻想曲風ソナタ」と呼ばれていいはずなのですが、番組内でもご紹介したように第14番には「月光」の愛称が定着しました。ベートーヴェンは「月光」のイメージなど一切持っていなかったでしょうが、みんなが「なるほど、これは月光だ」と納得したわけです。ちなみに愛称の付かなかった第13番のほうは、今でもよく「幻想曲風ソナタ」の名で呼ばれています。
 辻井さんが「月光」に与えた愛称は「かなしみ」。たしかに第1楽章には一貫して静かな「かなしみ」の感情が流れているように思います。そこから軽やかな第2楽章を経て、最後の第3楽章で感情を爆発させ、荒々しい波が押し寄せるというストーリー性は、ベートーヴェンにふさわしいものでしょう。最後はとても盛り上がって情熱的に曲を閉じるのですが、それでもどこか満たされない思いが残っているようにも感じます。
 辻井さんの演奏は端正で力強く、説得力に満ちていました。「かなしみ」とは題したものの、過度に感情に溺れることなく、格調高い本格派のベートーヴェンを披露してくれました。これぞ名曲、名演だったと思います。
(※辻井伸行さんの姓の「辻」は正式には、点がひとつの「辻」です)

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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辻井伸行がベートーヴェンの三大ソナタを弾く音楽会

投稿日:2020年09月05日 10:30

今年はベートーヴェン生誕250年ということもあって、一段とベートーヴェンに注目が集まっています。今週は辻井伸行さんにベートーヴェンの大傑作ソナタ、「悲愴」と「熱情」を演奏していただきました。ベートーヴェンのピアノ・ソナタのなかでも、「悲愴」「熱情」「月光」の「三大ソナタ」はとりわけ高い人気を誇っています。
 ベートーヴェンのピアノ・ソナタはぜんぶで32曲ありますが、「悲愴」「熱情」「月光」といったようにタイトルの付いた曲は決して多くありません。当時の楽曲はピアノ・ソナタであれ、交響曲であれ、このようにタイトルが付いていないほうが一般的だったのです。たとえば、ベートーヴェンが最初に書いたピアノ・ソナタは、ピアノ・ソナタ第1番ヘ短調作品2-1。番号や調、作品番号などが記されているだけで、具体的な曲のイメージを伝えるタイトルはありません。それが普通だったんですね。
 でも、それでは不便だということで、人気の高い曲は愛称で呼ばれるようになりました。現代的な価値観からすると「他人が曲の名前を付けるなんておかしい」と思われるかもしれませんが、愛称とはもともと本人ではなく他人が付けるものだと考えれば、不思議なことではないでしょう。
 辻井さん独自の解釈で愛称を付けるとすれば、「悲愴」ソナタは「怒りと慰め」。第1楽章に怒りや苛立ちがあって、第2楽章では慰めがあり、第3楽章で両方の感情が重なり合うという解説がありました。こんなふうにストーリー性があると、作品がいっそう身近に感じられますよね。「熱情」ソナタは「幻想曲、嵐」。「熱情」という言葉は人間の感情にのみ焦点を当てていますが、「嵐」という言葉からは感情も自然現象も含めたさまざまなイメージが湧いてきます。辻井さんの真摯な演奏から、力強く雄大な音のドラマが伝わってきました。次週の「月光」も楽しみです。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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