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きょうだい奏者のウラ側を知る休日

投稿日:2021年11月27日 10:30

今週は吉田兄弟、レ・フレール、村治佳織さんと村治奏一さんの3組のきょうだい奏者のみなさんにお集まりいただきました。
 昔から音楽界にはきょうだいで活躍する例が少なくありません。モーツァルトが少年時代から神童としてもてはやされた話は有名ですが、モーツァルトの姉ナンネルもまた早くから楽才を発揮して、弟の共演者を務めていました。また、早熟の天才として知られるメンデルスゾーンにも才能豊かな姉ファニーがいました。女性が作曲家として活躍するのは困難な時代でしたので、弟のような名声を得ることはありませんでしたが、時代が違えばきょうだいそろって音楽史に名を残していたかもしれません。
 そして、きょうだいにはやはり他人からはうかがい知れない特別な結びつきがあるものだなと、本日ご出演のみなさんのお話をうかがって改めて感じました。演奏が始まるとぴたりと息が合うのは、さすがきょうだいならではだと思います。
 吉田兄弟のおふたりが演奏してくれたのは「モダン」。津軽三味線らしからぬ意外性のある曲名ですが、これは津軽じょんがら節を現代風にアレンジしたから「モダン」なのだとか。スタイリッシュで華やかなテイストがありましたよね。曲が進むにつれて次第に音楽が白熱する様子がとてもスリリングでした。
 レ・フレールが演奏したのは「Joker」。こちらは吉田兄弟とは逆で、楽器が西洋で曲調が和風。連弾スタイルで表現される日本の祭りのイメージは新鮮です。演奏中にふたりのポジションがなんども入れ替わるおなじみのプレイスタイルで盛り上げてくれました。これは文句なしに楽しい!
 村治佳織さんと村治奏一さんが演奏したのは童唄「ずいずいずっころばし」と「ふるさと」。2台のギターが生み出す温かくまろやかな響きが、曲のノスタルジーをいっそう際立たせていたように思います。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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演奏するのが大変な巨大楽器の音楽会

投稿日:2021年11月20日 10:30

今週は4種類の巨大楽器を集めて、めったに聴くチャンスのない低音の世界をお楽しみいただきました。コントラバスサックス、ダブルコントラバスフルート、コントラバスクラリネット、そして巨大なドラ。どれも普段の演奏会では目にすることのない珍しい楽器ばかりです。
 原則として、楽器はサイズが大きいほど低い音を出すことができますので、巨大楽器は超低音楽器でもあります。コントラバスサックスという楽器、初めて聴きましたが最低音はまるでパイプオルガンみたいな音でしたね。田村真寛さんが「道路工事のような音」とおっしゃっていましたが、音というかほとんど振動に近いかも。並の肺活量では吹けそうにありません。「イン・ザ・ムード」の演奏では、この重低音が高音楽器と鮮やかなコントラストを作り出すことで、曲の浮き立つような楽しさを際立たせていました。
 多久潤一朗さんが演奏したのはダブルコントラバスフルート。なんと、全長5メートル。フルートといえば軽やかな音色をまっさきに思い浮かべますが、こちらも地響きのような低音が出てきて、パイプオルガンやコントラバスを連想させます。
 さかなクンが愛用するのはコントラバスクラリネット。パッと見た感じはファゴットのような外見ですが、クラリネットらしいふっくらした音色も感じられます。ズンズンと振動が伝わってくる「クラリネットをこわしちゃった」には、なんともいえないコミカルなテイストがありました。
 木管楽器以外から唯一登場したのは、巨大なドラ。普通のドラ(タムタム)であれば、ラヴェルの「ボレロ」など、ときどきオーケストラでも使われることがありますが、これほど巨大なものは見たことがありません。余韻がすごい! そして神田佳子さんの特殊奏法から繰り出される音は実に多彩。スーパーボールでこすって悲鳴のような音が出てきたのには背筋がゾクッとしました。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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心をつかむセレナーデの音楽会

投稿日:2021年11月13日 10:30

今週はシューベルトからグレン・ミラーまで、さまざまなセレナーデをお楽しみいただきました。
 音楽用語のなかでも「セレナーデ」ははっきりと意味のわからない言葉の筆頭ではないでしょうか。シューベルトの「セレナーデ」を聴くと、切々とした恋の歌のことを指すのかなと思います。でもチャイコフスキーの「弦楽セレナーデ」やモーツァルトが残した多数のセレナーデには、恋愛の要素が感じられません。これは言葉の意味が時代を通して変化しているからなんですね。
 古くはルネサンス時代から、夜に戸外で恋人や貴人のために演奏される曲をセレナーデと呼んでいました。ところがモーツァルトの時代になると、戸外でも演奏できるような小編成で多楽章の合奏音楽をセレナーデと呼ぶようになります。モーツァルトが書いたいちばん有名なセレナーデは「アイネ・クライネ・ナハトムジーク」。ナハトムジークはドイツ語で「夜の音楽」という意味です。それからだんだん戸外のイメージも薄れてきて、チャイコフスキーの「弦楽セレナーデ」のように純然たる演奏会用の楽曲までセレナーデと呼ばれるようになります。
 セレナーデの伝統がジャズに及んだ例がグレン・ミラーの「ムーンライト・セレナーデ」。ここにも月明かりという夜の要素が受け継がれています。もっとも、これは偶然の産物でもあるのです。当初、この曲はNow I Lay Me Down to Weepと題されていましたが、グレン・ミラーがこの曲をフランキー・カール作曲「サンライズ・セレナーデ」のカバーと一緒にリリースする際、「ムーンライト・セレナーデ」と新たな題が付けられたのだとか。レコードのA面が「サンライズ・セレナーデ」なので、B面は対語として「ムーンライト・セレナーデ」にしたらいいんじゃないか、という発想です。おかげで「セレナーデ」本来の語義に含まれていた「夜」のイメージが復活することになりました。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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実は違っていた!?ピリオド楽器でショパンの名曲の秘密を知る休日

投稿日:2021年11月06日 10:30

今週はショパン国際ピリオド楽器コンクール第2位の川口成彦さんをお招きして、ショパンが作曲した当時の楽器を演奏していただきました。作曲者が本来イメージしていたのは、こんな音色だったんですね。現代のピアノとはずいぶん違います。
 ピリオド楽器という言葉が使われるようになったのは比較的近年のことです。以前は古楽器などとも呼ばれていました。ピリオド、つまり時代。ピリオド楽器は、作品が書かれた当時の楽器のことを指しています。過去の大作曲家たちが生きていた時代と現代では、楽器の仕組みや音色、音域など、いろいろな点で違いがあります。作品本来の姿を知るために作曲当時の楽器や奏法を研究しよう。そんな歴史的な視点が広まりつつあるのです。
 そのあらわれのひとつがショパン国際ピリオド楽器コンクール。川口成彦さんは2018年に開催された第1回のコンクールで第2位に入賞しました。このコンクールを主催しているのはポーランドの国立ショパン研究所です。つまり、先頃話題を呼んだあのショパン国際ピアノ・コンクールと同じ。彼らは現代のピアノで世界一注目されるコンクールを開く一方で、ピリオド楽器を使ったコンクールも開いたのです。このコンクールについて日本で記者会見が開かれた際、同研究所のマチェイ・ヤニツキ副所長は「ショパンの音楽と当時の楽器は切り離すことのできない関係にあります。わたしたちはピリオド楽器の魅力を伝えようとしているのではなく、ショパン本来の魅力を知らしめようとしているのです」と語っていたのが印象的でした。
 川口さんの解説から、ピリオド楽器では構造的に高速の同音連打が困難な理由、現代とのピッチの違い、打鍵後の音の減衰速度の速さなど、楽器の特徴がよく伝わってきました。そして、川口さんの演奏するショパンは実にニュアンスが豊か。ショパンの音楽に対する印象が変わりませんでしたか。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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