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楽器は役者!熱くドラマチックなオーケストラの音楽会 前編

投稿日:2022年05月28日 10:30

6月3日より公開される水谷豊監督の映画「太陽とボレロ」では、アマチュアオーケストラを巡るさまざまな人間模様が描かれます。今回はこの映画で主演を務める檀れいさんと水谷豊監督をゲストにお招きして、オーケストラの魅力を指揮者の小林研一郎さんとともにお届けしました。
 小林研一郎さんといえば「炎のマエストロ」の愛称でおなじみ。今や大巨匠となったマエストロですが、その情熱は衰えることがありません。音楽は熱い一方で、お人柄は誠実で謙虚とあって、絶大な人気と尊敬を集めています。「オーケストラのみなさまは天才の集団なのです。そういう方々のじゃまをしないのが指揮者の役割です」とにこやかに話していましたが、これほどの大家にしてこの言葉。なかなか聞けるものではありません。
 最初に演奏されたのはビゼーの組曲「アルルの女」より「ファランドール」。この曲はアルフォンス・ドーデの戯曲を上演するにあたってビゼーが作曲したものです。田舎の富農の息子が都会の見知らぬ女(アルルの女)に恋をしたことから身の破滅を招くという悲しい物語なのですが、「ファランドール」は元気いっぱいの踊りの音楽。ビゼーが早世した後、親友のギローがオーケストラ用の組曲に仕立てました。2種類の民謡が組み合わされて、熱狂的なクライマックスへと至る様子は迫力満点です。
 「ベルサイユのばら」より「薔薇は美しく散る」は、檀れいさんと石丸幹二さんのデュエットで。オーケストラの厚みのあるサウンドとおふたりの声がきれいに溶け合って、とてもゴージャスなサウンドが生まれていました。マエストロもなんだか嬉しそうに見えましたよね。
 最後はマエストロの十八番、ベートーヴェンの交響曲第7番より第2楽章。かつてワーグナーはこの楽章を「不滅のアレグレット」と称えましたが、その逸話を思い出させるような絶美の名演だったと思います。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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ピアノの連弾を楽しむ休日

投稿日:2022年05月21日 10:30

今週はピアノの連弾の魅力をお伝えいたしました。連弾といえば、プロのコンサートよりも家庭やピアノ教室などで楽しむイメージが強いと思いますが、名手たちの連弾ともなるとこんなにも華やかで迫力があるものなのかと改めて感じます。
 レ・フレールの手を交差させる奏法や「千手観音」「椅子取り」といった奏法は、耳のみならず目も楽しませてくれます。ふたりの演奏による「ルパン三世のテーマ’78」は実にゴージャス。アニソンの古典ともいえる名曲ですが、ピアノの広い音域を使い切った厚みのあるサウンドが意外なほど曲調にマッチしていました。小林萌花さんが話していたように、オーケストラを連想させますね。
 芝田奈々さんと佐藤和大さんが演奏してくれたのは、ブラームスのハンガリー舞曲とドヴォルザークのスラヴ舞曲。この両曲はオーケストラによる演奏で親しんでいる方のほうが多いかもしれませんが、原曲はピアノの連弾曲です。ブラームスはロマの民族音楽を素材に用いて、ピアノ連弾用にハンガリー舞曲を作曲したところ、これが爆発的なヒット作になりました。当時は現代と違って録音再生技術がありませんので、曲が売れるとは楽譜が売れるということ。ピアノの普及に伴い、ピアノ連弾用の楽譜の需要が高まっていたんですね。
 今でこそ大作曲家として知られるドヴォルザークですが、ドヴォルザークの才能を見出したのはブラームスです。無名時代のドヴォルザークは生計のために奨学金に応募していたのですが、その際に審査員を務めていたのがブラームス。ブラームスは親切にも出版社にドヴォルザークを紹介します。ブラームスのハンガリー舞曲集で一儲けした出版社は、ドヴォルザークにも同様の曲を書いてほしいとリクエストしました。そこで誕生したのがスラヴ舞曲集。この「2匹目のどじょう」狙いはまんまと成功し、ドヴォルザークの名は一躍知られることになりました。出版社としても、なかなか演奏されない交響曲よりも、みんなが弾きたがる連弾曲のほうがビジネスになったのです。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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不思議!歌がないのに言語を感じる音楽会

投稿日:2022年05月14日 10:30

今週は音楽と言語のつながりをテーマにお届けいたしました。言葉のない器楽曲であっても言語を意識して演奏するというお話が興味深かったですよね。日本語だけではわからない西洋音楽の奥深い世界を垣間見たように思います。
 ブラームスですばらしい演奏を聴かせてくれたのは岡本誠司さん。昨年、第1位をなかなか出さないことで知られるミュンヘン国際音楽コンクールのヴァイオリン部門で、見事第1位に輝きました。不思議に思われる方もいるかもしれませんが、クラシックの音楽コンクールではあえて第1位を出さず、第2位を最高位とすることがあります。そのコンクールの第1位とするふさわしい才能が見出せなかった場合に、やむを得ず第1位を空白にするわけです。たとえば、あのショパン国際ピアノ・コンクールでも、1990年と1995年は2回連続で第1位が出ませんでした。
 せっかく若手にチャンスを与えるために開催しているのに、第1位を出さないのではなんのためのコンクールなのかわからない。そんな批判的な見方もあるでしょう。昨今の趨勢としては、なるべく第1位を出す傾向が強くなっていると感じますが、それでもミュンヘンのヴァイオリン部門はなかなか第1位を出してくれません。なにしろ第1位が出た回より、出なかった回のほうが多いのです(!)。前回2017年も、前々回2013年も第1位が出ませんでした。2009年以来、12年ぶりに与えられた第1位が岡本誠司さんだったのですから、これは快挙というほかありません。
 その岡本さんが演奏してくれたのはブラームスの2曲。最初の「F.A.E.ソナタ」は3人の作曲家が楽章ごとに分担して作曲するという珍しいアイディアにもとづく作品ですが、現代ではブラームスが書いた第3楽章が単独で演奏されることがほとんどだと思います。エネルギッシュな「F.A.E.ソナタ」、そして最後に演奏された滋味豊かなヴァイオリン・ソナタ第3番、ともにブラームスの魅力がたっぷり詰まっていたと思います。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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歌う楽器・フルートの音楽会

投稿日:2022年05月07日 10:30

今週は新進フルート奏者Cocomiさんをお招きして、フルートの魅力をたっぷりとお届けしました。いずれもよく耳にする名曲ばかりでしたが、共通するキーワードは「歌」。Cocomiさん、髙木竜馬さん、佐藤晴真さん、金子三勇士さんにより、歌心あふれる演奏がくりひろげられました。
 バッハ~グノーの「アヴェ・マリア」は、シューベルトと双璧をなす「アヴェ・マリア」の名曲として広く親しまれています。原曲は鍵盤楽器のために書かれた平均律クラヴィーア曲集第1巻の前奏曲ハ長調。グノーはこのバッハの前奏曲に「アヴェ・マリア」の歌詞を乗せて歌曲に仕立てました。分散和音が連続する原曲に伸びやかなメロディラインを見出したグノーの柔軟な発想力が、新たな名曲を生み出しました。
 プーランクの「愛の小径」はもともとは劇の付随音楽として作曲され、初演当初より評判を呼んで、単独で歌われるようになった楽曲です。シャンソンのような曲調ですので、ジャンルを超えて多くの歌手により歌われています。器楽曲に編曲される機会も多く、今回はフルート、チェロ、ピアノによるトリオで。三人の音色がひとつに溶け合って、ニュアンスに富んだ音楽になっていました。
 メキシコの作曲家ポンセの「エストレリータ」も本来は歌曲ですが、ヴァイオリン曲としてなじんでいる方のほうが多いかもしれません。歴史的大ヴァイオリニスト、ヤッシャ・ハイフェッツのヴァイオリン編曲で一躍世に知られることになりました。こちらも多くの楽器用に編曲されています。
 ラフマニノフの「ヴォカリーズ」も原曲は歌曲。今回はフルートとピアノでの演奏でしたが、この曲もありとあらゆる楽器のために編曲されている思います。これほど美しい旋律を歌手だけのものにするのはあまりにもったいない。そんなふうに器楽奏者たちが考えるのも無理はありません。ラフマニノフならではの寂寞とした味わいはフルートからも存分に伝わってきました。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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