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辻井伸行と三浦文彰がベートーヴェンを弾く音楽会

投稿日:2021年07月17日 10:30

先週のモーツァルトに続いて、今週はベートーヴェンの名曲を辻井伸行さんと三浦文彰さんに演奏していただきました。
 一曲目はベートーヴェンのヴァイオリン・ソナタ第5番「春」より第1楽章。ベートーヴェンのヴァイオリン・ソナタのなかでも「クロイツェル」と並んで、もっともよく演奏される人気曲です。この時代ではごく一般的なことですが、作曲家は曲に具体的な題名を付けていません。だれか他人が「春」という愛称を付け、いつの間にかその呼び名が定着したのです。同じベートーヴェンのヴァイオリン・ソナタでも、たとえば第6番や第7番に愛称はありません。題名が付いていないほうが多数派なのです。
 三浦文彰さんがヴァイオリン・ソナタ第5番「春」に与えた題名は、なんと、「みどりの窓口」。これには意表を突かれました。でも、たしかにこの曲には「旅のはじまり」を連想させる期待感があります。辻井さんが「ふたりで会話しているようなワクワクするような旅のはじまり」とおっしゃっていましたが、まさにそんな心浮き立つ様子が目に浮かびます。加えて、おふたりの演奏からはベートーヴェンならではのパッションが伝わってきました。三浦さんのシャープで端正なヴァイオリンに辻井さんが力強く応答する、ドラマティックなベートーヴェンだったと思います。
 ベートーヴェンのピアノ協奏曲第5番は「皇帝」の愛称で親しまれています。こちらも他人による命名で、ベートーヴェンは作曲にあたって皇帝をイメージしていたわけではありません。だから、なにかもっと別の愛称があってもいいはずなのですが、辻井さんは「皇帝」以外に思いつかないと言います。この曲の場合、あまりにも曲想と愛称が合致しているということなのでしょう。辻井さんのピアノは輝かしく荘厳。推進力にあふれた雄大なベートーヴェンを堪能しました。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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辻井伸行と三浦文彰がモーツァルトを弾く音楽会

投稿日:2021年07月10日 10:30

今週は辻井伸行さんと三浦文彰さんをお招きして、モーツァルトの名曲に独自の題名をつけて演奏していただきました。
 モーツァルトのピアノ協奏曲第21番の第2楽章は、かつてスウェーデン映画「みじかくも美しく燃え」に使われたことから世界的に有名になりました。といっても1967年の映画ですから、今では知らない方がほとんどでしょう。海外のCDではたまにこの曲に「エルヴィラ・マディガン」という題が付いていることがありますが、これが「みじかくも美しく燃え」の原題なんですね。
 辻井さんはこの曲に静かな夜のイメージを感じ取って、「ノクターン」と題してくれました。清澄で抒情的なメロディで人気の高い名曲ですが、明るいばかりではなく、どこか内省的な雰囲気が漂っています。曲の陰影の豊かさが伝わってくる命名だと思いました。
 三浦文彰さんがソロを務めたのは、ヴァイオリン協奏曲第3番の第3楽章。三浦さんの命名は、みんなで乾杯するような音楽であることから「シャンパーニュ」。たしかにこの曲には浮き立つような、祝祭的な雰囲気が感じられます。この曲は少し風変わりな構成になっていて、途中でがらりと曲想が変わって、弦楽器のピッツィカートを伴奏に独奏ヴァイオリンがしっとりとしたメロディを奏でます。三浦さんの表現によれば「中休み」。優雅な舞曲風にも聞こえます。その後、「ふたたび乾杯して盛り上がる」部分で、民謡調のメロディが登場します(当時、ポピュラーだった「シュトラスブルガー」という民謡だと考えられています)。そして、また最初のメロディが帰ってきます。
 モーツァルトはどうしてこんな異質な曲想を途中に挟んだのでしょうか。たぶん、当時の人々には通じる何らかのユーモアが込められているのかなと想像するのですが、本当のところは知りようがありません。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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ドアの向こうの音楽会 ~夏~

投稿日:2021年07月03日 10:30

旅行をしたい。そんな思いを募らせている方も多いことでしょう。今週は音楽と絶景を組み合わせた「ドアの向こうの音楽会 ~夏~」。この曲はこんな場所で演奏したいという音楽家たちの願いが仮想空間で実現しました。
 村治佳織さんが演奏したのはアンドリュー・ヨークの「サンバースト」。サンバーストとは雲間をついて急に差し込む強い日差しのこと。まさにカリフォルニアのビーチにぴったりの爽快な音楽でした。村治さんのギターが、心地よい風を運んでくれるかのよう。
 クロマチックハーモニカの山下伶さんとアコーディオンの吉岡りささんは、セーヌ川が流れるパリで、ミシェル・ルグランの「キャラバンの到着」を共演。映画「ロシュフォールの恋人たち」に用いられた曲で、テレビCMなどにも使用される人気曲です。ハーモニカとアコーディオンの音色がパリの街並みと調和して、旅情をかきたてます。
 バーンスタイン作曲の「ウエスト・サイド・ストーリー」より「マリア」を夜のニューヨークのタイムズスクエアで歌ってくれたのは、バリトンの大西宇宙さん。オペラやオーケストラとの共演など、現在国際的に活躍する新世代のスターです。クラシック音楽ではどうしてもイタリア語やドイツ語のレパートリーが中心になるため、日本人歌手の多くはヨーロッパに留学するのですが、大西さんはニューヨークのジュリアード音楽院で学んで、アメリカのオペラハウスで実績を積んでいます。バーンスタインを歌うのにこれほどふさわしい人もいません。伸びやかで、深くて温かみのあるしよ声がすばらしかったですね。
 宮田大さんは夜の満月が見える湖畔で「フライ・ミー・トゥ・ザ・ムーン」を演奏。そういえばこの曲は「新世紀エヴァンゲリオン」テレビアニメ版のエンディングテーマだったんですね。野外でチェロを聴く機会はなかなかありませんが、月夜のしっとりとしたムードにチェロの音色がよく似合っていました。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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