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話題の映画音楽を今こそ大オーケストラで聴く音楽会

投稿日:2023年06月24日 10:30

今週は話題の映画音楽を鈴木優人さん指揮東京フィルの演奏でお届けしました。80人編成のオーケストラによるサウンドは迫力があって、色彩感豊か。そして優人さんの解説のおかげで、名曲の秘密に一歩近づけたように思います。
 映画「ハリー・ポッター」の「ヘドウィグのテーマ」を作曲したのは巨匠ジョン・ウィリアムズ。「ヘドウィグのテーマ」では、チェレスタが印象的に用いられていました。チェレスタは鍵盤楽器ながら鉄琴のようなキラキラとした音色を持っています。この楽器の魅力にいち早く気づいた大作曲家がチャイコフスキー。チャイコフスキーはチェレスタをバレエ音楽「くるみ割り人形」の「こんぺい糖の踊り」で効果的に用いました。そして「くるみ割り人形」が大ヒット作になったことから、世界中のオーケストラでチェレスタが使われるようになりました。もしチャイコフスキーが「くるみ割り人形」を書いていなかったら、ジョン・ウィリアムズの「ヘドウィグのテーマ」が書かれることはなかったかも?
 映画「リトル・マーメイド」の「パート・オブ・ユア・ワールド」はアラン・メンケンの作曲。「美女と野獣」や「アラジン」などで知られるディズニー映画には欠かすことのできない作曲家です。ブロードウェイのミュージカル出身の作曲家で、90年代以降のディズニーの音楽に黄金期をもたらした立役者といってよいでしょう。
 映画「シング・フォー・ミー、ライル」の「Take A Look At Us Now」は、ベンジ・パセックとジャスティン・ポールの作曲。パセック&ポールはミュージカル界の気鋭のコンビで、ミュージカル映画「グレイテスト・ショーマン」や「ラ・ラ・ランド」で知られています。
 おしまいはジョン・ウィリアムズの「レイダース・マーチ」。まもなくシリーズ最新作の映画「インディ・ジョーンズと運命のダイヤル」が公開されますが、シリーズ1作目の「インディ・ジョーンズ」公開時より、この曲は大評判を呼びました。この曲を聴くとテンションがあがりますよね。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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ウィーン チェロ・アンサンブル5+1の音楽会

投稿日:2023年06月17日 10:30

今週はウィーン・フィルの往年の名チェリストであるゲルハルト・カウフマンさんが2008年に設立したアンサンブル、ウィーン チェロ・アンサンブル5+1のみなさんにご出演いただきました。5人のチェリストたちはいずれも名手ぞろい。カウフマンさんに加えて、ウィーン・フィルのメンバーであるセバスティアン・ブルーさん、ベルンハルト直樹ヘーデンボルクさん、ウィーン室内管弦楽団のミラン・カラノヴィチさん、ブラームス・コンクール第1位のフローリアン・エックナーさんで構成されています。さらに「+1」として、ウィーン・フィルのフルート奏者カリン・ボネッリさんが参加。華やかで多彩なアンサンブルが実現しました。
 最初に演奏されたヨハン・シュトラウス2世の「クラップフェンの森にて」は、お正月のウィーン・フィル・ニューイヤー・コンサートでもよく演奏される人気曲。オーケストラでは打楽器奏者が鳥笛を担当しますが、ここではカウフマンさんが鳥笛を担当。フルートのボネッリさんになんども言い寄るけれども、袖にされるという愉快な演出が付いていました。続いてレハールのオペレッタ「ほほえみの国」より「君はわが心のすべて」が演奏されると、ボネッリさんはエックナーさんの奏でるチェロにすっかり心を許してしまいます。最後のカウフマンさんのとぼけた表情には爆笑! こういった笑いのセンスもどこかウィーン風だと感じます。
 ラヴェルの「ボレロ」では4人で1台のチェロを弾くという離れ業にびっくり。ボレロはスペイン舞曲の一種ということで、スペイン風のコスチュームで登場してくれました。
 最後のチャイコフスキーの「ロココ風の主題による変奏曲」は、本来はチェロとオーケストラのための楽曲。名チェリストならだれもが弾く名曲ですが、独自の編曲により作品から新たな魅力を引き出していました。まるでふたりのソリストが音楽で会話を楽しんでいるようでしたね。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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みんな大好き!カプースチンの音楽会

投稿日:2023年06月10日 10:30

今年2月に放送した「辻井伸行が挑むカプースチンの音楽会」に続き、今回はカプースチン企画の第2弾「みんな大好き!カプースチンの音楽会」をお届けいたしました。ニコライ・カプースチン(1937~2020)はウクライナ出身の作曲家。一見、ジャズのような作風ですが、アドリブの要素はなく、すべての音が楽譜に記されています。本人はあるインタビューで「私が興味をひかれるのはクラシックの形式とジャズのイディオムの融合だ」と語っていました。
 カプースチン自身がピアニストでしたので、作品にはやはりピアノ曲が多いのですが、さまざまな楽器のための室内楽曲や協奏曲も残されています。今回、チェロの宮田大さんが演奏してくれたのは「ブルレスク」と「エレジー」の2曲。「ブルレスク」とは「ふざけた」「いたずらっぽい」という意味。コミカルな要素とシリアスな要素が一体となった曲に用いられる題です。宮田さんは「仲良しなふたりのケンカ」をイメージしていると語っていましたが、まさにそんな相反する要素が同居しているのが「ブルレスク」。カッコいい曲でしたよね。
 「エレジー」は「哀歌」という意味で、哀悼の音楽、悲しみの音楽を指しています。チェロのための「エレジー」というと、フランスの作曲家フォーレの名曲がまっさきに思い出されますが、カプースチンの「エレジー」はフォーレのように慟哭するのではなく、しみじみと過去を振り返るような趣を醸し出しています。
 一方、上野耕平さんはサクソフォン四重奏で聴くカプースチンという新しい世界へと誘ってくれました。「8つの演奏会用エチュード」より第1曲「プレリュード」、「24の前奏曲」より第9番、いずれもピアノ曲が原曲ですが、ザ・レヴ・サクソフォン・クヮルテットの演奏で聴くと、もともとサクソフォンのために書かれたのではないかと錯覚してしまいそうになります。原曲の切れ味はそのままに、サクソフォンの柔らかく豊かな音色を楽しませてくれました。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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クラシックはなぜ眠くなる?の音楽会

投稿日:2023年06月03日 10:30

昔からクラシック音楽を聴くと眠くなると言われています。そう言われると「いやいや、クラシック音楽の名曲はどれもエキサイティングな曲ばかりだから、眠くならない!」と反論したくなる気持ちもわいてくるのですが、演奏会の客席でうとうとする光景は決して珍しくありません。CDなどでも「ぐっすり眠れるクラシック」といったタイトルの安眠を促すコンピレーションアルバムが根強い人気を誇っています。
 加藤昌則さんのお話にも出てきたバッハの「ゴルトベルク変奏曲」は、眠りにまつわる名曲の代表格。この曲には「バッハが不眠症の伯爵のために作曲した」という有名なエピソードがあるんですね。それが不眠を解消するためなのか、あるいは夜の退屈を慰めるためのものなのかは、なんとも言えませんが……。
 どうしてクラシックで眠くなるのか。ゲストのみなさんからは「一定したテンポのくりかえしが眠気を誘う」「上下に動く音の揺れが安心感を誘う」「激しい曲からゆっくりの曲になると心拍数が落ち着き眠くなる」といった意見が出てきました。なるほど、眠くなる曲には一定の傾向があるように思います。特に宮田大さんと大萩康司さんが演奏してくれたファリャの「ムーア人の織物」から「ナナ」に移る流れは効果てきめん。「ナナ」が始まると、すっかり体の力が抜けてしまいました。
 加藤さんの指摘する眠くなる曲の3要素は「行き着く先がわからない音楽」「ゆっくりと変化のない曲」「下行形で終わるメロディ」。これも納得です。特に長大なオーケストラ曲では「行き着く先がわからない」ために眠くなることがよくあると思います。起承転結といいますか、音楽の文脈が追えなくなってしまうと、眠気に負けてしまうんですよね。長い曲の場合は、先に録音などで軽く曲を予習しておくと、眠気防止になるかもしれません。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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