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第30回 出光音楽賞 受賞者ガラコンサート

投稿日:2021年09月25日 10:30

今週は第30回出光音楽賞受賞者ガラコンサートの模様をお届けいたしました。会場は東京オペラシティコンサートホール。本来であれば昨年開催されるところでしたが、コロナ禍により、一年延期して無観客での開催となりました。受賞者の服部百音さん、佐藤晴真さん、藤田真央さんは、いずれもすでに華々しい活躍をくりひろげている実力者ばかりです。
 服部百音さんが演奏したのは、タルティーニ作曲のヴァイオリン・ソナタ「悪魔のトリル」より。タルティーニはイタリア・バロック期の作曲家、ヴァイオリニスト。夢のなかで悪魔がヴァイオリンで美しい曲を弾くのを聴き、目覚めてからこれを楽譜に書き留めたという逸話が知られています。技巧的なトリルが頻出する難曲ですが、百音さんの鮮やかなテクニックと高い集中力が印象的でした。
 佐藤晴真さんは2019年に難関として知られるミュンヘン国際音楽コンクールのチェロ部門で優勝し、国際的に脚光を浴びました。今回演奏したのはチャイコフスキーの人気曲、「ロココ風の主題による変奏曲」より。ほとんどのチェリストは、この曲を初演者が演奏効果を高めようと改変した版で演奏しているのですが、佐藤さんは原典版で演奏しています。チャイコフスキー本人の意図を尊重することで作品の核心に迫ろうという狙いがあるのでしょう。音楽に対する誠実で知的な姿勢と、とても情感の豊かな演奏を両立しているのが佐藤さんの魅力だと思います。
 藤田真央さんはクララ・ハスキル国際ピアノ・コンクール優勝、チャイコフスキー国際コンクール第2位の経歴を誇り、世界に向けて大きく羽ばたきつつある才能です。今回演奏したのはモーツァルトのピアノ協奏曲第24番。この曲には作曲者がカデンツァ(終結部直前のソロの部分)を残していません。そこで真央さんは自作のカデンツァを披露してくれました。18歳で書いたそうですが、まさに才気煥発といった様子ですばらしいですよね。これぞ協奏曲の醍醐味だと感じ入りました。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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セカンド奏者のすごさを知る休日

投稿日:2021年09月18日 10:30

今週はセカンド奏者のみなさんをお招きして、ファースト奏者を支える献身ぶりについてお話しいただきました。同じ楽器の奏者でもファーストとセカンドではずいぶんと役割が違うものですね。
 一般的なオーケストラでは、同じフルート奏者であってもファーストは常にファーストのパートを吹き、セカンド奏者は常にセカンドのパートを吹きます。ファーストの人が定年や移籍で楽団を去ったからと言って、セカンドの人がファーストに昇格するわけではありません。入団オーディションの時点で、ファーストはファーストとして、セカンドはセカンドとして別々に募集されるのが普通です。たとえ経験の少ない若い奏者であっても、ファーストとして採用されれば最初からファーストです。それくらい立場がはっきり違います。ファーストとセカンドでは奏者のメンタリティもずいぶん違っていることが番組からよく伝わってきたと思います。
 オーケストラの木管楽器で特徴的なのは、楽器の持ち替えがあるところでしょう。たとえばフルートであれば、ファースト奏者はフルートのみを吹きますが、セカンド奏者はピッコロに持ち替えることがあります。ピッコロはひときわ甲高い音を出しますので、どんな場面でも目立つ楽器。難波薫さんが持ち替えを実演してくれましたが、普段は目立たない奏者がいきなり大活躍することになります。
 オーボエの場合はセカンド奏者がイングリッシュホルンも吹くことになります。ドヴォルザークの交響曲第9番「新世界より」第2楽章に登場する有名なメロディを演奏するのはイングリッシュホルン。普段はサポート役のセカンド奏者が、一気に主役に躍り出ることもあるのです。
 最後のセカンド奏者だけで演奏するベートーヴェンの交響曲第7番は新鮮でした。ファースト不在でもこれはまぎれもなくベートーヴェンの7番。いつもは表から見ている作品を裏側からのぞくようなおもしろさがありました。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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オーケストラを設立!夢に挑む反田恭平の音楽会

投稿日:2021年09月11日 10:30

今回は反田恭平さんとジャパン・ナショナル・オーケストラのみなさんをお招きいたしました。「世界に通用する音楽学校を作りたい」と語る反田さん。その夢の実現に向けての第一歩として、将来の教授陣を担う楽員たちを集めてオーケストラをご自身で結成しました。まったく型破りなアイディアで、日本の音楽界でこんなことをできるのは反田さんしかいないでしょう。
 ジャパン・ナショナル・オーケストラのメンバーは若き精鋭たち。ソリストとしても活動する奏者たちを集めただけあって、表現意欲にあふれたヴィヴィッドな演奏を披露してくれました。チェロ以外はみんなで立奏するというスタイルも、音楽の躍動感がいっそう増すようで新鮮です。小編成のオーケストラというよりはむしろ室内楽のような、ひとりひとりのキャラクターが際立つ演奏でした。
 今、日本のクラシック音楽界では、若くて優秀な奏者たちが次々と頭角を現していますが、彼らは高い技術や表現力を持つだけではなく、音楽家としての活動の在り方についても新しい発想をもたらしているように感じます。先頃開催されたジャパン・ナショナル・オーケストラの設立記者会見で、反田さんは「世界的に大変な時代に突入しているなかで、より音楽に没頭したい、音楽に人生を捧げたいと考える人を集めて、そのお手伝いをしたい」と語っていました。そのための手段のひとつがオーケストラの設立であり、オーケストラの株式会社化です。
 現状ではプロのオーケストラは公益財団法人等、公益を目的とした法人として運営されており、株式会社としての継続例を知りません。オーケストラは演奏会のチケットセールスだけで利潤を生み出すのは困難とされていますが、反田さんはオンライン・サロンの開設など、新しい試みを行っています。いったい次はどんなことが起きるのか、反田さんのチャレンジから目が離せません。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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7人制吹奏楽!ブリーズバンドの音楽会 第4弾

投稿日:2021年09月04日 10:30

今週は好評のブリーズバンド企画の第4弾。ブリーズバンドとは7人制吹奏楽という番組発の合奏スタイルです。コロナ禍のなか、従来のように大勢が集まって練習や演奏をするのは難しいだろうという発想から生まれた合奏スタイルですが、その本質は7人全員が主役であること。オーケストラと室内楽には別の楽しみがあるように、ブリーズバンドには大人数の吹奏楽にはない別の魅力があると思います。
 今回は上野耕平さんがおっしゃったように「よりエンターテインメント色を強めた」アレンジによる3曲が演奏されました。いずれも当ホームページより譜面をダウンロードできます。
 1曲目は「うっせぇわ」。篠田大介さんによるブラスロック・アレンジでお楽しみいただきました。トップレベルの奏者たちによる演奏はキレがあって、パワフル。原曲にはとてもインパクトのある歌詞が付いているわけですが、言葉なしでアグレッシブさを表現しているのがこのアレンジの聴きどころ。「アナーキーな即興」の部分がカッコよかったですよね。
 2曲目はチャイコフスキーの名作バレエをひとひねりした川島素晴さん編曲による「白鳥たちの湖」。本来の「白鳥の湖」では、悪魔の呪いで白鳥に姿を変えられたオデット姫と王子ジークフリートとの悲恋が描かれるわけですが、まさかの学園ドラマ仕立て。ヨソ者役の白鳥にサン=サーンスの「白鳥」がやってくるという、二大「白鳥」名曲の共演(?)が実現しました。上野さんのチャイコフスキー「白鳥」とMatt Roseさんのサン=サーンス「白鳥」の間を、フルートの多久潤一朗さんが取り持っている場面がおかしすぎます。
 最後は映画「ピノキオ」より「星に願いを」を挾間美帆さんによるリズム変奏曲アレンジで。ボサノヴァ、ハバネラ、サンバ、スウィングと、あたかも耳で楽しむ世界旅行のよう。パーカッションの不在をまったく感じさせない躍動感がありました。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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