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一流音楽家が自ら持参!人生に影響を与えたレコードを聴く音楽会 後編

投稿日:2020年11月28日 10:30

今週は先週に引き続き、各分野で活躍するトップレベルの音楽家のみなさんに、レコードの思い出を語っていただきました。名盤がいくつも登場して、懐かしかったですね。
 宮田大さんが選んだのは、シンセサイザーの第一人者、冨田勲の組曲「惑星」。これは歴史的名盤といってもいいでしょう。初期のアナログ・シンセサイザーの可能性を極限まで追求した先駆的な野心作です。原曲はイギリスの作曲家ホルストのオーケストラ曲。ホルストがイメージしていたのは占星術的な意味での惑星でしたが、冨田勲さんのシンセサイザーによってSF的なイメージの楽曲に生まれ変わっていました。チェリストの宮田さんが「このアルバムから物語性を踏まえた音楽表現を心がけるようになった」とおっしゃるのには納得。冨田さんの「惑星」には、まるで宇宙空間を旅するようなストーリー性があるんですよね。
 村治佳織さんの「ハイフェッツ・オン・TV」、こちらも名盤です。完璧な技巧により神格化されていたハイフェッツですが、すでに第一線を退いていたところにフランスのテレビ局からのオファーを受けて、70歳にしてこの演奏が実現しました。テレビ収録と並んで、このレコードが制作されたので「ハイフェッツ・オン・TV」というタイトルが付けられています。
 服部隆之さんが挙げたのは映画「アンタッチャブル」サウンドトラック。これが「半沢直樹」に影響を与えていたとは! 作曲は「ニュー・シネマ・パラダイス」で知られるエンニオ・モリコーネ。服部さんの「ハーモニカにマカロニウエスタンの味が少し出ている」という解説には目から鱗が落ちました。
 最後に演奏された「テーマ・オブ・半沢直樹~Main Title~」は、この日のためのスペシャルアレンジ。日本を代表する名手たちがずらりと顔をそろえました。このクォリティの高さ、カッコよさ、そして格調の高さ。最高の「半沢直樹」でした。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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一流音楽家が自ら持参!人生に影響を与えたレコードを聴く音楽会 前編

投稿日:2020年11月21日 10:30

今週は第一線で活躍する音楽家のみなさんをお招きして、レコードについての思い出を語っていただきました。
 今年9月、アメリカレコード協会は上半期の売上げについて、アナログレコードがCDを上回ったと発表しました。このニュースにはびっくりしましたね。背景にはストリーミングサービスなどの音楽配信が優勢になって、CDで音楽を聴く人が減ってしまったことがあるわけですが、レコードには依然として根強い支持があることがわかります。やはりレコードにはCDにない趣味性があるということなのでしょう。
 服部隆之さんが持参したLPレコードは、ミシェル・ルグラン作曲の映画「火の鳥」サウンドトラック。「40年ぶりにLPレコードをかけた」とおっしゃる服部さんですが、レコードに針を落とす場面に懐かしさを覚えた方も多いのでは。レコードをかけるときって、緊張するんですよね。よく見ないと、思わぬところに針を落としてしまいます。自動で針を落としてくれるプレーヤーもありますが、やはりこの「儀式」のようなひと手間こそが、レコードの魅力でしょう。
 レコードはCDよりもずっと手のかかるメディアです。盤面に埃が付いていたり傷があったりすると「パチパチパチパチ……」というスクラッチノイズが乗ってしまいます。棚にしまうときも注意しないと盤が反ってしまいます。なにかと手がかかるわけですが、それだけに一枚一枚への愛着がわいてきます。
 石丸さんの「ヤマト愛」もひしひしと伝わってきました。1978年に公開された映画「さらば宇宙戦艦ヤマト 愛の戦士たち」サウンドトラック。これは懐かしいですね。そして、アルバムには収録されていなかったと石丸さんを落胆させた、テレビ版のエンディングテーマ「真赤なスカーフ」を、石丸さん、村治佳織さん、宮田大さんの演奏でお届けしました。なんともいえない寂寥感が漂ってくる、すばらしいアレンジ、そしてすばらしい演奏だったと思います。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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トップギタリストたちが集まる休日

投稿日:2020年11月14日 10:30

今週はジャンルの異なる3人のトップギタリストのみなさんをお迎えしました。ギターほどあらゆるジャンルで使われ、なおかつ歴史のある楽器もないでしょう。文献や図像では13世紀にはすでににギターらしき楽器が登場すると言います。弦の数や材質など、時代とともに形を変えて、19世紀には現代のようなアコースティック・ギターが誕生しますが、この楽器の特徴はそこからさらにエレキギターへの発展を遂げたことでしょう。もともと音の小さな楽器だったギターが、電気的な増幅によりパワフルな楽器に生まれ変わり、ポピュラー音楽の急速な発展に寄与しました。エレキギターは20世紀の象徴的な楽器のひとつといってもよいと思います。
 村治佳織さん、押尾コータローさん、マーティ・フリードマンさんの三人が共演する機会など、普通であればまずなさそうなもの。マーティさんは「サックスとピアノくらい違う」とおっしゃっていましたが、同じギターといっても、ずいぶん奏法が違うことに改めて驚きます。特にマーティさんのお話でおもしろかったのは、使用楽器「ジャクソン マーティ・フリードマン・モデル」について。全世界どこに行ってもまったく同じものが手に入るので、楽器を持ち歩く必要がないというのですから、これには目から鱗。アコースティックな楽器と違って、寸分たがわぬ同一の楽器が量産できてしまうんですね。クラシックの楽器とは事情がまるで違います。
 三人がいっしょに演奏したのは、ラヴェルの名曲「ボレロ」。もともとボレロとはスペイン舞曲の一種ですから、この曲がスペインゆかりの楽器であるギターにアレンジされることには納得。おなじみのメロディがギターで奏でられると、ぐっと南欧的な雰囲気が漂ってきます。原曲でも斬新で色彩的なオーケストレーションが聴きどころですが、今回の異種ギター共演からも、ふだんは耳にすることのない新鮮な響きが聞こえてきました。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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ヴィヴァルディ「四季の秋」を楽しむ音楽会

投稿日:2020年11月07日 10:30

今週はヴィヴァルディの「四季」より「秋」をお楽しみいただきました。「四季」といえばなんといっても「春」が有名ですが、「秋」にも親しみやすく美しいメロディがたくさんあります。
 この「四季」とは、ヴィヴァルディのヴァイオリン協奏曲集「和声と創意の試み」に収められた全12曲の協奏曲のうち、最初の4曲「春」「夏」「秋」「冬」のこと。ちなみに残りの協奏曲は「海の嵐」や「喜び」など、季節感とは関係のない作品が続きます。これらも十分にすばらしい作品ではあるのですが、やはり「四季」の4曲はとびきりの傑作です。
 ヴィヴァルディは生涯に600曲を超える協奏曲を書きました。大変な多作家だったんですね。ほとんどの作品は協奏曲のお約束通り、「急─緩─急」のテンポからなる3つの楽章で構成されています。どれも一定のパターンに従っていることから、20世紀の大作曲家ストラヴィンスキーは「ヴィヴァルディは600曲の協奏曲ではなく、同じ協奏曲を600回書いたのだ」と揶揄しました。しかし、現代ではこの意見に賛同する人は少数派でしょう。むしろ約束事に従いながら、これだけ多彩な表情を持った楽曲を600曲も書いたことに並外れた創意を感じずにはいられません。
 ヴィヴァルディは生まれ故郷のヴェネツィアで活躍しました。ということは、「四季」で表現されるのはヴェネツィアの季節感のはず。でも、意外と日本の季節感と変わりがありません。そのせいもあってか、この曲は昔から日本での人気が高く、昭和の高度成長期にはステレオ装置の急速な普及にともなって「四季」のレコードが爆発的に売れました。以来、「四季」はバロック音楽屈指の人気を誇っています。
 今回は村治佳織さんが加わったギター入りアレンジによる「四季」。なじみ深い名曲から新鮮な魅力を引き出してくれました。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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豪華3人が集結!トリプルピアノを楽しむ音楽会

投稿日:2020年10月31日 10:30

今週は反田恭平さん、藤田真央さん、小林愛実さんの3名によるトリプルピアノをお楽しみいただきました。2台ピアノはよくありますが、グランドピアノが3台並ぶ光景はなかなか見られるものではありません。
 今回、なにより驚きだったのは反田さん、藤田さん、小林さんたちは子供の頃から交流があったこと。幼なじみがそれぞれ違った道を通って音楽家を目指し、やがて大人になってトップレベルのピアニストとして共演する……。まるで音楽マンガのストーリーみたいですよね。
 反田さんがおっしゃっていたように、小林さんは少女時代から有名で、演奏動画がYouTubeで爆発的な再生数を記録したことから、一頃は「世界一YouTubeで視聴された日本人ピアニスト」としてメディアを賑わしていました。14歳でメジャーデビューを果たしてサントリーホールの記者会見にあらわれた姿を覚えていますが、あの女の子が今やショパン・コンクールのファイナリストとなって活躍していると思うと、なんとも感慨深いものがあります。
 3人が共演したモーツァルトの「2台ピアノのためのピアノ・ソナタK.448」は絶品。この曲は2台ピアノ用のレパートリーの最高峰といってもよい傑作ですが、これを3人で演奏したことで一段と楽しさが増していました。よく歌う、そして遊び心にあふれたモーツァルトだったと思います。小林さんの描く端正なモーツァルトに対して、藤田さんがぐっと陰影に富んだモーツァルトを打ち返し、それに反田さんが応えてさらに表情に深みが加わるといった様子で、まさに丁々発止の掛け合い。3人のキャラクターがよくあらわれていたのではないでしょうか。
 最後に演奏されたグリンカの「ルスランとリュドミラ」序曲はオーケストラの人気曲。こういう曲こそトリプル・ピアノの厚みが生きてきます。フルオーケストラに負けない迫力がありました。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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7人制吹奏楽の誕生!ブリーズバンドの音楽会

投稿日:2020年10月24日 10:30

新型コロナウイルスは依然として音楽界に大きな影響を与えています。三密回避の観点から、以前のように大勢の人数が一堂に会することが難しくなっています。全国の吹奏楽部員たち憧れの場である全日本吹奏楽コンクールも中止になってしまいました。
 しかし、大編成ばかりが吹奏楽ではないはず。今回新たに提案されたのは7人だけの小編成吹奏楽「ブリーズバンド」。わずか7人でも、アレンジ次第でこんなにカッコいい演奏ができるんですね。いずれも楽譜は無料公開されていますので、「演奏してみたい!」と思った方はぜひダウンロードしてみてください。
 編成は楽曲ごとに異なります。「鬼滅の刃」主題歌として人気の「紅蓮華」は、エリック・ミヤシロさんによる金管楽器+ドラムスの編成。テューバにもソロが用意されていて、山田和樹さんの言葉通り、「7人全員が主役」。パワフルで重厚な響きは7人の演奏とは思えません。
 2曲目は、吹奏楽の定番「宝島」。伊賀拓郎さんのアレンジで、7人中4人がパーカッションという意外性のある編成でした。こちらはとても楽しい雰囲気で、パーカッションの見せ場がたっぷり用意されています。
 3曲目の主役は木管楽器。モンティの「チャールダーシュ」が挾間美帆さんの編曲で生まれ変わりました。もともとはヴァイオリンが活躍する曲として有名ですが、このアレンジでは木管楽器同士のスリリングで遊び心に富んだやり取りが魅力。ひなびた調子の原曲が、すっかり都会的な雰囲気に。コントラバスのソロにはぐっと来ますよね。
 現在はプロのオーケストラの演奏会でもコンパクトな編成の楽曲が中心になっています。厳しい制約ではあるのですが、これを逆手にとって、ふだんはあまり演奏されない小編成の曲に光を当てる意欲的なプログラムも目立っています。制約から新たな可能性が生まれることは、決して珍しいことではありません。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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一流の音楽家が夢のマッチング ドリーム・デュオ第3弾

投稿日:2020年10月17日 10:30

今週はドリーム・デュオ企画の第3弾。名手たちによる多彩なデュオが実現しました。
 最初の一組は遠藤真理さんのチェロと金子三勇士さんのピアノによる正統派デュオ。チェロとピアノのための曲はたくさんありますが、今回はドビュッシーの「月の光」をデュオで演奏していただきました。本来「月の光」はピアノのみで演奏される曲。それをあえて、チェロとピアノのデュオで演奏したわけです。原曲ではピアノのきらきらとした音色が月光を思わせますが、伸びやかなメロディを奏でるチェロが加わって、ぐっと温かみのある曲想に感じられました。
 2組目は、なんと津軽三味線とパイプオルガンのデュオ。これは通常なら絶対にありえない組合せと言ってもいいでしょう。日本の世俗的な楽器と西洋の教会の楽器では、接点がまるでありません。しかし、オルガニストの石丸由佳さんは、津軽三味線の音色にクラヴィコードやチェンバロといった古楽器との共通性を感じるといいます。そこで選ばれたのがヴィヴァルディ~バッハのオルガン協奏曲。ヴィヴァルディの2つのヴァイオリンのための協奏曲op.3-8をバッハがオルガン独奏用に編曲したものを、さらに津軽三味線とオルガン用に再編曲しています。さらにディープ・パープルの「スモーク・オン・ザ・ウォーター」では、重厚なオルガンの響きにシャープな津軽三味線の音色が加わって、独特の効果が生まれていました。
 3組目はエリック・ミヤシロさんのトランペットと中川英二郎さんのトロンボーンという強力デュオによる「ティアーズ・イン・ヘヴン」。トランペットとトロンボーンの共演はごく一般的なことですが、このふたつの楽器のみのデュオはかなり珍しいと思います。エリックさんは複数の楽器を持ち替えながらの演奏。とりわけフリューゲルホルンのまろやかでニュアンスに富んだ音色が印象に残りました。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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昭和ポップス!“ニッポンの秋”協奏曲の音楽会

投稿日:2020年10月10日 10:30

もしもクラシックの大作曲家たちが昭和ポップスを協奏曲にアレンジしたら……。そんな発想でお届けしたのが、今回の協奏曲シリーズ第3弾。秋を感じさせる昭和の名曲を、3人の豪華ソリストたちとともに協奏曲のスタイルでお届けいたしました。
 第1楽章は、「もしもラフマニノフが山口百恵の『秋桜』を作ったら」?。冒頭でオーボエがラフマニノフの名曲「ヴォカリーズ」を奏でると、そこに独奏チェロが「秋桜」のメロディで重なり合います。次は役割を交代して、独奏チェロが「ヴォカリーズ」を演奏し、オーケストラが「秋桜」を奏でるという趣向。ふたつのメロディが調和して、立体感のある音楽を生み出していました。
 カデンツァの部分では、チェロの宮田大さんが渾身のソロを披露してくれました。カデンツァではオーケストラが沈黙し、ソリストがひとりで弾くのが協奏曲のお約束。協奏曲ではこんなふうにソリストの見せ場が用意されています。
 第2楽章は「もしもドビュッシーが松田聖子の『風立ちぬ』を作ったら?」。これは意外な組合せでした。ドビュッシーと松田聖子というだけでもびっくりなのですが、まさか独奏楽器が尺八とは! 尺八独奏によるドビュッシーの「亜麻色の髪の乙女」で開始され、柔らかく繊細なハーモニーの移ろいの中で「風立ちぬ」が奏でられました。
 第3楽章は「もしもモーツァルトが小泉今日子の『木枯しに抱かれて』を作ったら?」。モーツァルトというと春めいた曲想を連想する人が多いと思います。実際、モーツァルトの作品の大半は長調で書かれており、明るい曲想が多いのですが、一方でわずかな数の短調作品はどれも極め付きの傑作ばかり。ピアノ協奏曲第20番ニ短調やピアノ協奏曲第24番ハ短調、交響曲第40番ト短調、交響曲第25番ト短調など、木枯らしの季節にぴったりの名曲をモチーフに、「木枯しに抱かれて」がモーツァルト風に生まれ変わりました。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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『ニュー・シネマ・パラダイス』を作ったエンニオ・モリコーネの音楽会

投稿日:2020年10月03日 10:30

今年7月6日、イタリアが生んだ映画音楽の巨匠エンニオ・モリコーネが、91歳で世を去りました。長きにわたって映画の音楽を作曲してきたモリコーネだけに、その作品数は膨大です。「荒野の用心棒」「夕陽のガンマン」「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ」「ニュー・シネマ・パラダイス」「海の上のピアニスト」などなど、挙げればきりがありません。
 なかでも名曲の誉れが高いのが、ジュゼッペ・トルナトーレ監督の「ニュー・シネマ・パラダイス」。シチリアの小村を舞台に少年と映画技師との交流が描かれます。モリコーネの音楽は物語にふさわしく強烈なノスタルジーを喚起しますが、映画を離れて純粋に音楽だけを聴いても、やはりしみじみとした郷愁を感じさせます。モリコーネの音楽と宮田大さんの温かみのあるチェロの音色がとてもよくマッチしていました。
 「マカロニウエスタン・メドレー」では、口笛、口琴、トランペットといった楽器の使い方から、モリコーネの創意工夫が伝わってきました。原田さんのお話にもあったように、クラシック音楽ではよくトランペットが祝祭感を出すための楽器として用いられます。歴史的に軍楽隊の楽器だったトランペットは、華やかなファンファーレの効果をもたらします。でも、モリコーネはトランペットに哀愁を帯びたメロディを奏でさせました。モリコーネ自身、プロの奏者だった父親からの影響でトランペットを吹いていましたから、楽器への思い入れもあったことでしょう。
 「ガブリエルのオーボエ」は映画音楽の枠を超えた新時代の名曲です。もともとは南米におけるキリスト教の布教活動を描いた映画「ミッション」で使われたものですが、今では映画本編よりもこの曲のほうが親しまれているのではないでしょうか。オーボエ奏者はもちろんのこと、さまざまな演奏家がこの曲をアレンジしてレパートリーに加えています。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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もっと有名作曲家のひねりすぎた曲名を楽しむ休日

投稿日:2020年09月26日 10:30

今週は先週に続いて「もっと有名作曲家のひねりすぎた曲名を楽しむ休日」をお届けいたしました。
 フランス音楽界きっての異端児エリック・サティこそは「ひねりすぎた曲名」の王様にちがいありません。「犬のためのぶよぶよした前奏曲」を出版社に持ち込んで断られたら、今度は「犬のためのぶよぶよした本当の前奏曲」を書いて持ち込んだ。そんなエピソードからもうかがえるように、一筋縄ではいかないひねくれ者がサティ。ほかにも「梨の形をした3つの小品」や「官僚的なソナチネ」など人を食ったようなタイトルの曲をたくさん書いています。サティの基本姿勢は反権威。偉そうにしている連中を笑い飛ばすようなところがあります。
 そんなサティの作品のなかでも、近年話題を呼んだのが、短いメロディを840回もくりかえす「ヴェクサシオン」。今年5月、世界最高峰のピアニスト、イゴール・レヴィットがこの曲にチャレンジして話題を呼びました。演奏にかかった時間は、なんと約20時間。さすがに途中で食べたり、トイレ休憩をはさんだりしていたようですが、それでも最後はすっかり嫌気がさしてしまったそうです。サティにしてみれば「あの曲を真に受けて本当に弾く人間がいるなんて!」といったところでしょうか。
 ベートーヴェンも風変わりな作品をいくつか書いています。ダジャレをもとにした「ホフマンよ、決してホーフマンになるなかれ」や、先週の「お願いです、変ホ長調の音階を書いてください」などは、仲間内の戯れから生まれてきた曲なのでしょう。これらは小曲ですが、ベートーヴェンの場合、交響曲や協奏曲といったシリアスな大作のなかにも、ユーモアの要素が少なからずあるのではないでしょうか。前例のない革新的なアイディアを実現して「ガハハハハ」と高笑いをする作曲者の姿が、楽曲から思い浮かびます。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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