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もうすぐ60周年!私の音楽人生に影響を与えた名演の音楽会 前編

投稿日:2024年03月16日 10:30

 「題名のない音楽会」はこの4月で60周年を迎えます。今回と次回にわたり、第一線で活躍する音楽家たちのみなさんをお招きして、番組の思い出ともう一度見たい名演について語ってもらいました。
 高嶋ちさ子さんは2001年の「期待の若き音楽家たち」に初出演して以来、48回にわたって出演。これまでに高嶋さんならではの楽しい企画がたくさんありました。高嶋さんがもう一度見たい名演として挙げたのが、2018年放送の2CELLOS「スムーズ・クリミナル」。2CELLOSはYouTubeをきっかけに一世を風靡したデュオです。チェロのデュオでこんなにカッコいい音楽ができるのかという新鮮な驚きがありました。
 反田恭平さんは子どもの頃から番組を見て、視聴者参加企画に出演し、大人になってピアニストとして番組に帰ってきました。こんなことがあるんですね。反田さんが思い出に残る回として挙げてくれたのは、青島広志さんがハイドンに扮して大活躍をする回。交響曲第94番「驚愕」第2楽章にある聴衆をびっくりさせる仕掛けが解説されていました。ジョーク好きのハイドンにふさわしい楽しい趣向でした。
 作曲家の服部隆之さんのお話で印象的だったのは、番組はオーケストラの指揮を学ぶ貴重な機会だったということ。だれよりも作品を熟知している作曲家が自作を指揮をするのはごく自然なことですが、一方で作曲家も経験を積まなければ十分な指揮ができないことに気づかされます。服部さんが挙げた名演は、2007年放送のミシェル・ルグランと羽田健太郎の共演による「シェルブールの雨傘」。演奏中の羽田さんの至福に満ちた表情と高揚感あふれる音楽がすばらしいかったですよね。
 箏奏者のLEOさんのもう一度見たい名演は、現代邦楽の第一人者として箏の世界を切り拓いた沢井忠夫の箏と歌(!)による「ラブ・ミー・テンダー」。こんな映像があったとは。びっくりしました。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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みんなで奏でる!ドラえもん交響楽(シンフォニー)の音楽会

投稿日:2024年03月09日 10:30

 今週は現在公開中の『映画ドラえもん のび太の地球交響楽(シンフォニー)』とのコラボレーション企画をお送りいたしました。映画では「音楽」をテーマに、ドラえもんとのび太くんたちが大冒険をくりひろげます。
 石丸幹二さんも「ワークナー」役で声で出演。オペラ口調で話す役柄なのですが、オペラの大作曲家ワーグナーをもじっているんですね。ほかにもベートーヴェン風の「ヴェントー」、モーツァルト風の「モーツェル」、滝廉太郎風の「タキレン」といった作曲家にちなんだ名前の登場人物が出てきます。
 歌姫ミーナ役の声優を務めるのは芳根京子さん。この映画をきっかけに全国から参加者を募集して結成された子ども楽器隊「ドラドラ♪シンフォニー楽団」といっしょに、フルートを演奏してくれました。曲は「夢をかなえてドラえもん」。元気いっぱいに演奏する子どもたちの姿を見ると、元気がわいてきます。
 映画では、のび太くんが苦手なリコーダーを練習しているところに、不思議な少女ミッカがあらわれます。そこで今回の収録では、客席のみなさんにリコーダーを持参してもらい、栗コーダーカルテットといっしょに「リコーダーの課題曲「白鳥のエチュード」」を演奏していただきました。子どもたちにとっては学校の授業でおなじみのリコーダーですが、大人にとっては懐かしい楽器。もうすっかり指使いを忘れてしまったという方も多かったことでしょう。なんと、東京交響楽団のみなさんもリコーダーで参加してくれました。大人数で吹いたリコーダーの音色はすごく爽やかで温かみがありますね。
 ミッカ役は平野莉亜菜さん。透き通るような清澄な声がすばらしい! おしまいの「地球交響楽〜1楽章」では、作曲者服部隆之さん自身の指揮のもと、東京交響楽団の重厚なサウンドに、平野さんの歌、栗原正己さんのリコーダー、林周雅さんのヴァイオリンなど、さまざまなソロが加わって、雄大な楽想を堪能させてくれました。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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小林愛実が“即興曲”を弾く音楽会

投稿日:2024年03月02日 10:30

 今週は演奏家が名曲に題名をつけて演奏する好評シリーズ企画の第6弾として、ピアニストの小林愛実さんをお招きしました。小林さんは2021年のショパン国際ピアノ・コンクールで第4位に入賞。同じコンクールで第2位に入賞した反田恭平さんと結婚し、出産を経て、ステージに帰ってきました。
 今回、小林さんが選んだ3曲は、すべて「即興曲」です。クラシック音楽の世界で「即興曲」といえば、主にロマン派の時代に好まれた性格的小品(キャラクター・ピース)の一種で、即興的な性格を持った小品を指します。実際に即興をするのではなく、決まった形式を持たない自由な発想で書かれた作品という意味合いなんですね。
 その即興曲の分野で名曲を残したのがシューベルト。小林さんはシューベルトの即興曲Op.90-2に対して、「7歳の思い出」と名付けました。これは小林さん個人の思い出にちなんでいるわけですが、ピアノ学習者の方には、7歳とは言わずとも、発表会等でこの曲に思い出を持っている方も少なくないことでしょう。
 ショパンの「幻想即興曲」も広く親しまれている名曲です。「即興曲」の前に「幻想」と付いていますが、これは作曲者の死後に他人が付けた題名です。クラシックの名曲ではよくあることですが、他人が付けた題名がそのまま定着しました。小林さんがこの曲に付けた題名は「オルゴール」。オルゴールのふたを開けて感じる懐かしさに、作品に込められたショパンの祖国への思いを重ね合わせたところからの連想でした。たしかにこの曲にはノスタルジーを感じます。
 3曲目はシューベルトの即興曲Op.142-2。小林さんが付けた題名は「包まれて」。これはよくわかりますよね。冒頭のメロディから聴く人を包み込むような優しさが伝わってきます。出産後は「どの作品を弾いても子どものことを思い出してしまう」と語る小林さんの言葉通り、慈愛に満ちたシューベルトでした。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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第32回出光音楽賞受賞者ガラコンサート

投稿日:2024年02月24日 10:30

 今週は第32回出光音楽賞受賞者ガラコンサートの模様をお届けいたしました。出光音楽賞は1990年に「題名のない音楽会」の放送25周年を記念して制定された、すぐれた若手音楽家たちに贈られる賞です。今回の受賞者はピアノの亀井聖矢さん、阪田知樹さん、ソプラノの森野美咲さんの3名でした。
 亀井聖矢さんはまだ22歳という若さながら、今もっとも勢いのあるピアニストとして熱い注目を集めています。今回は数あるピアノ協奏曲のなかでもいちばんの傑作と亀井さんが語るプロコフィエフのピアノ協奏曲第3番を演奏してくれました。この曲はプロコフィエフならではのモダンでアグレッシブなテイストに、リリシズムやユーモアが渾然一体となっているところが魅力。亀井さんの切れ味鋭い演奏から、作品の多面的な魅力が伝わってきました。
 森野美咲さんが選んだ曲は、リヒャルト・シュトラウスのオーケストラ伴奏付きの歌曲「明日!」と「アモール」の2曲。「明日!」はシュトラウスが結婚の記念に妻となるソプラノ歌手のパウリーネに贈った曲だけあって、とても甘美な曲です。一方、「アモール」とは愛の神キュービッドのこと。翼が燃えてしまい、泣きながら羊飼いの娘に飛び込んだら、娘に恋の炎が燃え上がった……というウィットに富んだ恋の歌です。森野さんの柔らかく豊かな声を堪能しました。
 阪田知樹さんが演奏したのは、ラヴェルの「左手のためのピアノ協奏曲」。ラヴェルは2曲のピアノ協奏曲を書いています。両手のために書かれたピアノ協奏曲ト長調は多くのピアニストが好む人気曲であるのに対して、「左手のためのピアノ協奏曲」は、阪田さんの言葉にもあったように、傑作のわりにはあまり演奏されません。戦争で右腕を失ったピアニストに依頼されて、ラヴェルは左手のみで弾ける作品を書いたのですが、曲想は両手の協奏曲以上に雄大で荘厳です。阪田さんの輝かしく力強いソロが最高にカッコよかったですよね。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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名前を覚えてもらえない作曲家の音楽会~学校で習ったのに編

投稿日:2024年02月17日 10:30

 今週は「名前を覚えてもらえない作曲家の音楽会」の第2弾「学校で習ったのに」編。曲は知ってるけど、作曲家の名前が出てこない……。そういうことって、よくありますよね。
 「ボレロ」の作曲家ラヴェルの名前を覚えていたのは50人中7人。少ないといえば少ないですが、でも大健闘ともいえるのでは。ラヴェルは20世紀前半のフランスを代表する作曲家で、カラフルなオーケストレーションが特徴的です。
 「白鳥」はサン=サーンスの人気曲。組曲「動物の謝肉祭」のなかの一曲です。サン=サーンスはラヴェルの一世代前のフランスの作曲家で、交響曲第3番「オルガン付き」など、多数の傑作を残しています。名前を覚えてくれていたのは50人中6人。大健闘です。
 「威風堂々」を作曲したのはイギリスのエルガー。この曲は以前からテレビCMでひんぱんに使われています。エルガーの曲は「威風堂々」といい「愛のあいさつ」といい、なぜかCMで好まれる傾向があります。近年では入学式、卒業式の音楽としても使われます。エルガーとわかった方は50人中4人。もう少し多いかと思ったのですが……。
 運動会でおなじみ、「トランペット吹きの休日」の作曲家はルロイ・アンダーソン。アメリカ軽音楽の巨匠と呼ばれ、「そりすべり」「タイプライター」「ワルツィング・キャット」など数々の名曲を残しました。こちらの正解者は50人中2人のみ。まさに曲はだれでも知っているけど、作曲家の名前は出てこない典型だと思います。難問でした。
 最後の「ラデツキー行進曲」も運動会でよく使われます。ヨハン・シュトラウス1世の作曲と答えられたのは50人中1人のみですが、無理もありません。なにしろ息子のヨハン・シュトラウス2世のほうが有名なので、つい混乱してしまいます。ウィーン・フィルのニューイヤー・コンサートでは毎年アンコールに息子の「美しく青きドナウ」が演奏され、次に父親の「ラデツキー行進曲」が演奏されて幕を閉じます。もっぱらお正月と運動会で耳にする名曲といってもいいかもしれませんね。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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冬から連想する音楽会

投稿日:2024年02月10日 10:30

 今週は好評の「四季を感じる音楽会」シリーズの「冬」編。冬から連想する言葉を数珠つなぎにして、その言葉からイメージされる曲をゲスト奏者のみなさんに演奏していただきました。
 まずは「冬」といえば「雪」。「アナと雪の女王」より「レット・イット・ゴー〜ありのままで〜」を、石上真由子さんのヴァイオリン、大井駿さんのチェレスタ、中村滉己さんの津軽三味線でお届けしました。ふつうではありえない楽器の組合せから、独特の味わいを持った「レット・イット・ゴー」が誕生しました。津軽三味線が醸し出す和のテイストが効いていましたよね。日本の雪景色が目に浮かんできます。
 「雪」から大井駿さんが連想したのは「雪だるま」。曲はチャイコフスキーのバレエ音楽「くるみ割り人形」より「金平糖の精の踊り」。子ども時代に雪だるまを作って手がキーンとかじかんだ思い出から、チェレスタの音色をイメージしたといいます。チェレスタといえばこの曲。チャイコフスキーは当時まだ知られていなかったチェレスタの音色を耳にして、いち早く「くるみ割り人形」に取り入れました。バレエが人気作になったことからチェレスタも世界中に広がったといいますから、チャイコフスキーはこの楽器を広めた立役者といってもよいでしょう。
 中村滉己さんが「雪だるま」から連想した言葉は「孤独」。少し意外でしたが、説明を聞いて納得。人がいなくなった後の雪だるまって、孤独ですよね。そして「孤独」からイメージした曲が、上京したての孤独な頃に演奏していたという青森県民謡「ホーハイ節」。スカッと突き抜けるような声が爽快でした。
 石上真由子さんが「孤独」から連想した言葉は「人間」。孤独だった大学受験時代に、音楽を聴いて「人間」を感じたことからの連想です。そして「人間」からイメージした曲は、チャイコフスキーの「なつかしい土地の思い出」より「メロディ」。石上さんの伸びやかで温かみのあるヴァイオリンが郷愁を誘います。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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役柄は声の高さで決まる!オペラの音楽会

投稿日:2024年02月03日 10:30

 今週はオペラの役柄と声の関係を探ってみました。オペラの世界ではもっぱら声の高さによって役柄が決まっています。多くの場合、主役は高い音域を担いますので、ヒロインはソプラノ、ヒーローはテノールの役になります。となると、そのライバルや悪役はコントラストをつけるために、より低いメゾソプラノやバリトンが歌うことになります。さらに低い声、男声であればバス、女声であればアルトになると、特殊な役柄を歌うことが多くなります。賢者や権力者、神様、老人、魔女など。
 プッチーニの「トスカ」ではヒロインの歌姫、トスカの役をソプラノが歌い、その恋人である画家の役をテノールが歌います。そして、悪役のスカルピアはバリトン。今回、大西宇宙さんがスカルピアを歌ってくれましたが、この役は数あるオペラのなかでも悪役中の悪役といえるでしょう。血も涙もない冷血漢で、このオペラを観るたびにムカムカしてくるのですが、そういう役にもプッチーニは見せ場を作ってるんですよね。ストーリー上は心底嫌なヤツなのに音楽で魅了してくるという……。悪役にもすばらしい音楽が用意されるところがオペラの魅力かもしれません。
 同じくプッチーニの人気作「トゥーランドット」では、流浪の王子役カラフが歌う「だれも寝てはならぬ」がよく知られています。フィギュアスケートでもおなじみですね。本来はテノールが歌う曲ですが、今回は実験的にバリトンで歌ってもらいました。やっぱりそこはかとなく悪役感が漂ってきます。
 バリトンが主役を務めることもありますが、その場合はアンチ・ヒーロー的な物語がほとんど。常軌を逸したプレイボーイを描く「ドン・ジョヴァンニ」(モーツァルト)、王を殺して王位を簒奪する「マクベス」(ヴェルディ)、大酒飲みの好色な老騎士の物語「ファルスタッフ」(ヴェルディ)など。どれも一癖も二癖もある役柄です。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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3曲でクラシックがわかる音楽会~モーツァルト編~

投稿日:2024年01月27日 10:30

 今週は新シリーズ「3曲でクラシックがわかる音楽会」のモーツァルト編。モーツァルトの天才性はどこにあるのか、鈴木優人さんに解説していただきました。優人さんが注目したのは短調の作品。モーツァルトの曲の大半は長調で書かれているのですが、数少ない短調の曲はとびきりの名曲ばかり。そんな短調の傑作を集めてみました。
 モーツァルトはたくさんのピアノ・ソナタを残していますが、短調の曲は2曲だけ。その内の1曲が、優人さんがフォルテピアノで弾いてくれたピアノ・ソナタ第8番イ短調です。ピアノ学習者の方には、この曲を練習したことのある方もいらっしゃるでしょう。とても悲劇的なムードで始まるのですが、さっと明るい光が差し込むようなところもあり、さまざまな表情が生まれてきます。短調と長調の間を自在に行き来しながら、陰影に富んだ音楽を作り出すのがモーツァルトならでは。
 オペラ「魔笛」の「夜の女王のアリア」では、限界を超えるような高音が求められます。「魔笛」で描かれるのはメルヘンの世界。こういったアリアから、夜の女王がふつうの人間とは違う存在だということが伝わりますよね。夜の女王は、娘が邪悪なザラストロにさらわれてしまったと主人公に助けを求めるのですが、やがて主人公はザラストロが賢者であることを知ります。そしてザラストロの神殿で試練を乗り越えることで、夜の女王の娘と結ばれます。物語の背景には夜の女王とザラストロの対立関係があり、前者を夜、闇、陰、後者を昼、光、陽のシンボルとして解釈することもできるでしょう。モーツァルトの音楽はこういった独特の世界観を反映しています。
 交響曲第40番ト短調はモーツァルトが晩年に書いた傑作です。晩年といっても、モーツァルトは35歳で世を去っていますので、まだ32歳と若いのですが、簡潔なモチーフからこんなにも豊かな感情表現を伴う作品が生まれるとは。これはもう熟練した巨匠の技というほかありません。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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クイズ!有名作曲家のひねりすぎた名曲の音楽会

投稿日:2024年01月20日 10:30

 今週は古坂大魔王さんと川島素晴さんのコンビによる「ひねりすぎシリーズ」をクイズ形式でお届けしました。有名作曲家の意外な一面に触れることができたのではないでしょうか。
 ハイドンの交響曲第94番は「驚愕」のニックネームで知られています。このニックネーム自体がある意味ネタバレとも言えるのですが、わかっていてもやっぱりびっくりするのが第2楽章。静かでゆったりとした曲調から突然、フォルティッシモの一撃が鳴り響きます。一般的に交響曲は4つの楽章で構成され、第2楽章には遅いテンポの穏やかな曲がくるもの。そのお約束を逆手に取った趣向なんですね。ハイドンはこういった聴衆を喜ばせる趣向が大好きな作曲家でした。
 サン=サーンスの名は組曲「動物の謝肉祭」でよく知られています。少年期より神童ぶりを発揮し、19世紀フランス音楽界で主導的な役割を果たしました。音楽以外の教養もたいへんに豊かだったそうですが、「動物の謝肉祭」を聴くとやや辛辣なユーモア・センスの持ち主だったのかなという印象も受けます。オッフェンバックの「天国と地獄」を超スローモーションバージョンにして「亀」と名付けたり、「ピアニスト」と題してあえてヘタに演奏させてみたり。ちなみにサン=サーンス本人は卓越したピアニストとして知られていました。若き日のアルフレッド・コルトー(後の大巨匠)に「君の楽器は?」と尋ね、コルトーが「ピアノです」と答えたところ、「その程度でピアニストになれるの?」と返した逸話が知られています。
 フランチェスコ・フィリデイは、1973年、イタリア生まれの現代の作曲家です。「錯乱練習第1番」では風船が破裂する音にドキドキしましたね。
 ハインツ・ホリガーは1939年、スイス生まれ。オーボエ、指揮、作曲、そのすべての分野で実績を残す音楽界の巨人です。ホリガーの「Psalm(プサルム)」は息だけで表現される作品。口から漏れる摩擦音や不規則な吐息、言葉にならない音から、閉塞感や切迫感が伝わってきました。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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裸足のピアニスト〜アリス=紗良・オットの音楽会

投稿日:2024年01月13日 10:30

 今週はドイツのミュンヘン出身のピアニスト、アリス=紗良・オットさんをお招きしました。ドイツと日本にルーツを持つアリスさんは、クラシック音楽界で早くから注目を集め、世界各地で意欲的な活動を展開しています。これまでに来日公演も多数行っていますので、ライブでお聴きになったことのあるかたもいらっしゃるかと思います。クラシックの老舗レーベル、ドイツ・グラモフォンの専属アーティストとして、さまざまなアルバムをリリースしてきました。
 古典から現代まで多彩なレパートリーに挑むアリスさんですが、独自の切り口を持ってプログラムを組み立てるのがアリスさんの魅力。特にアルバム「エコーズ・オブ・ライフ」にはその特徴がよくあらわれています。ショパンの「24の前奏曲」の合間にさまざまな現代曲がおりこまれているのです。これら現代曲には、今回演奏してくれたチリー・ゴンザレスのようなジャンルを超越した音楽家の作品もあれば、20世紀の前衛を代表するリゲティだったり、映画音楽の巨匠ニーノ・ロータや、日本の武満徹の作品も含まれていて、時代も地域も実に多彩。それでいて、アルバム全体がひとつの作品のように感じられるのが、おもしろいところでしょう。
 今回は、そのチリー・ゴンザレスの前奏曲とショパンの前奏曲「雨だれ」が続けて演奏されました。「雨だれ」は有名な曲ですが、先にチリー・ゴンザレスを聴くことで、また普段とはちがった新鮮な気持ちで聴くことができたのではないでしょうか。チリー・ゴンザレスの前奏曲は、バッハの平均律クラヴィーア曲集第1巻の前奏曲ハ長調に触発されています。実はショパンもバッハの平均律クラヴィーア曲集に触発されて前奏曲集を書きました。両曲にはバッハという共通項があるんですね。
 アリスさんは「雨だれ」を自然へのオマージュととらえ、「暗い雲と嵐が襲って来るけれど、嵐が去った後に現れるのは、もとの世界ではない」と語っていました。短い小品のなかにとても大きなドラマが描かれていたと思います。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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