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2700回放送記念! 3週連続SP・第2週

投稿日:2021年02月27日 10:30

今週は番組2700回放送を記念する3週連続スペシャルの第2弾。「演奏家や楽器を新たな組み合わせで楽しむ」をテーマに、ふだんは聴けない新鮮なデュオをお届けいたしました。
 最初の曲はToshlさんと村治佳織さんによる「ネッラ・ファンタジア」。「クラシックギター一本で歌うのは初めて」とおっしゃるToshlさんでしたが、のびやかでパワフルな歌唱と情感豊かなギターが無理なくひとつに溶け合っていました。エンニオ・モリコーネが作曲した「ネッラ・ファンタジア」の原曲は、映画「ミッション」で使用された「ガブリエルのオーボエ」。もともとは器楽曲なんですね。これに歌詞を付けてサラ・ブライトマンが「ネッラ・ファンタジア」の題で歌ったことから、曲はさらなる人気を獲得し、以来、多数の歌手によってカバーされています。ひとつの楽曲がさまざまに形を変えながら広まってゆくのは名曲の証でしょう。
 2曲目はソプラノの森麻季さんとチェロの宮田大さんによる「ジュピター」。声とチェロの組み合わせは絶品でした。この曲も「ネッラ・ファンタジア」と同様に、同じ曲が形を変えながら親しまれています。原曲はイギリスの作曲家ホルストが書いたオーケストラ曲、組曲「惑星」の第4曲「木星」。ホルストはこのメロディに歌詞を添えて、祖国を讃える賛歌に編曲しました。その後、この曲はイギリスで賛美歌集にも収録され、原曲を離れていろいろな場面で歌われるようになります。日本では平原綾香さんがカバーしたことで、いっそうの人気を獲得しました。
 反田恭平さんは同世代のピアニスト、務川慧悟さんと共演。務川さんは2019年ロン=ティボー=クレスパン国際コンクール第2位をはじめ、数々の国際コンクールで受賞歴を誇る気鋭です。ラフマニノフの組曲第2番は、あの有名なピアノ協奏曲第2番と同時期の作品。ラフマニノフ得意の鐘の音を思わせる荘厳な響きによる輝かしい行進曲でした。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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2700回放送記念! 3週連続SP・第1週

投稿日:2021年02月20日 10:30

番組放送2700回を記念した3週連続スペシャル、その第1週となる今回は「クラシック音楽を新たなアングルから楽しむ」がテーマ。人気シリーズ「もしも大作曲家たちが日本のポップスをアレンジしたら……」のスペシャル・バージョンとして、Toshlさんのヴォーカル、原田慶太楼さんの指揮、反田恭平さんのピアノ、宮田大さんのチェロ、上野耕平さんのソプラノサクソフォンという豪華メンバーの共演が実現しました。
 曲は「もしもリストがMISIAのEverything をアレンジしたら?」。このシリーズでは毎回、萩森英明さんの巧みなアレンジに耳を奪われてしまうのですが、今回もリストとMISIAが自然に融合して、新たな世界を作り出していました。リストの「愛の夢」のメロディで始まって、スムーズにEverythingへ。Toshlさんの輝かしい声に、ピアノ、チェロ、サクソフォンの音色が絶妙のバランスで重なり合います。
 後半はドニゼッティ作曲のオペラ「ランメルモールのルチア」から、第1幕の二重唱の場面をお聴きいただきました。森麻季さんが主人公のルチア、西村悟さんはその恋人役のエドガルドです。ふたりは結婚を誓いますが、これは許されざる恋。領主であるルチアの兄は、家の安泰のためにルチアを政略結婚させようと考えていたのに、ルチアは一家の宿敵エドガルドと愛し合ってしまった……という筋立てのオペラなのです。だから、ふたりの二重唱には甘い思いだけではなく、葛藤や決意など、いろいろな感情が入り混じっていました。
 ちなみにこのオペラ、ふたりの運命はどうなるのかと言いますと、とても辛い結末が待っています。ルチアの兄が「エドガルドが心変わりをした」というニセの手紙を捏造したため、ルチアは政略結婚を受け入れてしまうのです。しかし、結婚式当日の夜、ルチアは悲しみのあまり錯乱し、夫を刺し殺した末に、自らも世を去ります。名作ですので、機会があればぜひご覧ください。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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題名プロ塾 ~プロデビュー編

投稿日:2021年02月13日 10:30

昨年、「題名プロ塾」の葉加瀬太郎さんによるオーディションで見事に合格を果たしたヴァイオリニスト、林周雅さんがついに葉加瀬さんのコンサートツアーでデビューを果たしました。NHKホールで記念すべき第一歩を踏み出した林周雅さん。演奏後に見せてくれた達成感にあふれた表情が実に印象的でした。これからのさらなる活躍に期待が高まります。
 音楽大学を出てもプロの音楽家として食べていけるのは、ほんの一握りだけ。葉加瀬さんがプロを目指すための実践的なアドバイスをいくつも話してくれましたが、至るところに金言が散りばめられていたと思います。葉加瀬さんが重視するのは「クラシックだけではなくポップスも演奏できること」。同じヴァイオリンであっても、クラシックとポップスでは求められるものがずいぶん違うのだなと感じます。リハーサルが1時間しかなかったり、当日の集合先で初めて譜面を渡されたりといったことは、リハーサル段階での完成度を重視するクラシックの世界では、なかなか経験しがたいことだと思います。
 リハーサルの場面で羽毛田丈史さんが要求していた「一定のテンポからあえてはみ出してバンドの音のうねりに乗って演奏する」というお話も興味深いものでした。ポップスの場合、クリックと呼ばれるメトロノーム音をイヤホンで聞きながら演奏しているので、常に全員がこれにぴたりと合わせているのかと思いきや、そうではないんですね。葉加瀬さんは「クリックと遊ぶ」と表現していましたが、こういった即興性から音楽のうねりが生まれてくるのでしょう。演奏を通じてプレーヤー同士が対話するという点では、ポップスもクラシックも同じと言えるかもしれません。
 「題名プロ塾」第2弾も、引き続き葉加瀬さんの講師で開催されます。次はいったいどんな才能とキャラクターを持った若者があらわれるのか、楽しみですね。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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ドアの向こうの音楽会 ~冬~

投稿日:2021年02月06日 10:30

長引くウイルス禍のなか、旅を恋しく感じている方も多いことでしょう。今回は日本を代表する演奏家のみなさんによる、音楽と絶景の旅の第2弾。ドアの向こうに広がる架空の旅に誘ってくれました。
 「紅蓮華」を弾いたのはNHK交響楽団でも活躍するヴァイオリニスト、大宮臨太郎さん。普通であればピアノの伴奏が付くところでしょうが、舞台はだれもいない深い森。無伴奏によるたったひとりの「紅蓮華」はとても技巧的で、超然とした雰囲気がありました。カッコよかったですよね。
 尺八の藤原道山さんとハープの景山梨乃さんは、スウェーデンのアイスホテルを舞台に「レット・イット・ゴー ~ありのままで~」を共演。「アナと雪の女王」に出てきたエルサの氷の城を思い出さずにはいられません。このアイスホテルはスウェーデン北部のラップランドにある実在するホテルです。凍った川から掘削した氷と雪を用いて建設されています。毎年12月に新しく建てられ、4月には溶けてなくなるのだとか。氷のベッドの上で寝袋に入って寝るそうなのですが、どんな体験になるのか、想像もつきません。
 村治佳織さんが演奏したのは自作の「島の記憶~五島列島にて~」。五島列島を訪れた旅の経験から生まれた作品です。頭ヶ島天主堂を背景に、清澄で心地よい音楽が奏でられました。ほのかなノスタルジーも漂ってきて、旅情をそそります。
 チクワを吹く動画がSNSで爆発的に拡散されたのが、フルートの多久潤一朗さん。今回は本職のフルートでウィンナワルツの名曲「春の声」を演奏してくれました。しかしそこは多久さん、並の演奏ではありません。スラップ・タンギング、重音奏法、フラッター・タンギングといった特殊奏法が満載。ついにはフルートを縦にして吹くという、まさかの荒業が! フルートって、あんなところから吹けるんですね……。ヨハン・シュトラウス2世も草葉の陰で喜んでいることでしょう。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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