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ドアの向こうの音楽会

投稿日:2020年06月27日 10:30

ある曲が特定の場所のイメージと結びつくことは珍しいことではありません。作曲家が曲に土地の印象を刻み込むという場合もあれば、テレビCMや映画などメディアを通して曲と場所が結びつくこともあるでしょう。今回は4人の音楽家たちが、それぞれ曲にふさわしい映像を伴って、音楽の旅に誘ってくれました。
 LEOさんが箏で演奏してくれたのは「マイ・フェイヴァリット・シングス」。この曲、本来はミュージカル「サウンド・オブ・ミュージック」の一曲です。オーストリアのザルツブルクを舞台にしたミュージカルですが、JR東海のキャンペーン「そうだ 京都、行こう。」でこの曲が用いられて以来、京都を連想させる曲にもなっています。そんなこともあってか、箏で奏でてもまったく違和感がありません。
 村治佳織さんが演奏してくれたのは、スペインを代表する作曲家アルベニスの「グラナダ」。アルベニスはスペインの様々な土地を題材に曲を書いています。作曲者自身は幼いころから神童ピアニストとして知られ、この曲も本来はピアノのために書かれています。ピアノでギターを模したようなフレーズを奏でているのですが、「だったらギターでも弾けるのでは」ということで、ギター編曲版も盛んに演奏されるようになりました。
 松永貴志さんが選んだのはディズニー映画「リトル・マーメイド」から「アンダー・ザ・シー」。となれば、曲のイメージは海です。海ならぬ水族館で奏でられるピアノによる「アンダー・ザ・シー」。とても幻想的な光景でした。松永さんがすごく楽しそうに弾いていたのが印象的でしたね。
 大の鉄道好きとしても知られるサクソフォン奏者の上野耕平さんは「銀河鉄道999」を演奏してくれました。ゴダイゴが歌って大ヒットした名曲です。まさか蒸気機関車が走り出す効果音まで入れてくれるとは。サクソフォンならではの華やかさと歌心にあふれた演奏でした。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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ポップスをサックスで楽しむ音楽会

投稿日:2020年06月20日 10:30

今週は指揮者の原田慶太楼さんの持ち込み企画で「ポップスをサックスで楽しむ音楽会」。指揮者が演奏する楽器といえば、多くの場合ピアノ、あるいはヴァイオリンですが、原田さんがサックスを吹くとは意外でした。
 ソロ楽器として活躍するイメージの強いサックスですが、今回はソプラノサックス、アルトサックス、テナーサックス、バリトンサックス、バスサックスの5種類の楽器が集まったアンサンブル。こんなふうに同属楽器だけで、厚みのある華やかなサウンドを出せるのがサックスの魅力です。「Sing,Sing,Sing」から「上を向いて歩こう」まで、多彩な名曲が並びました。
 サックスは金属でできていても、発音の仕組み上、木管楽器に分類されます。そして木管楽器のなかでは比較的新しい楽器です。1846年にベルギーの吹奏楽団長アドルフ・サックスが特許を取った楽器がその原点。つまり発明者の名前にちなんで楽器名が付けられたんですね。アドルフ・サックスは木管楽器と金管楽器の長所を兼ね備えた楽器を作ろうと考えて、この楽器を発明したそうです。機能性と表現力の高さは新しい楽器ならでは。原田さんが「サックスは人の声に近い」とおっしゃっていたように、サックスはニュアンスに富んだ歌うような表現ができると同時に、輝かしくパワフルサウンドを出すこともできます。
 サックスが発明された時点で、すでにオーケストラの木管楽器セクションはフルート属、オーボエ属、クラリネット属、ファゴット属が基本メンバーとして固定されていました。そのためサックスはオーケストラに定位置を確保するまでには至りませんでしたが、吹奏楽、ポップス、ジャズなど幅広いジャンルの音楽で活用されることになりました。もちろん、クラシックで使われることもあります。サックスはジャンル問わずの万能選手と言えるでしょう。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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一流の音楽家が夢のマッチング ドリームデュオ 第2弾

投稿日:2020年06月13日 10:30

今週は日本を代表する名手たちが、ここでしけ聴けないデュオを組むドリームデュオ第2弾。意外性のあるデュオからオーソドックスなデュオまで、多彩な顔触れがそろいました。
 最初のデュオはチェンバロの鈴木優人さんとマリンバの塚越慎子さん。この楽器の組合せは普通では考えられません。チェンバロは本来バロック音楽など古い時代の音楽を演奏するための楽器。ピアノの普及とともに18世紀末にいったん姿を消しますが、20世紀になって古楽復興運動により復活を果たしました。一方、マリンバは20世紀の新しい楽器。雅やかなチェンバロとモダンなマリンバというギャップが新鮮です。でも、一緒になると意外にも心地よい響きが聞こえてきます。フランス・バロック期の作曲家クープランの「神秘的なバリケード」が斬新な音楽に生まれ変わりました。プログレッシブ・ロックの「タルカス」に、チェンバロがすっかりなじんでいるのもおもしろかったですよね。
 チェロの岡本侑也さんとピアノの藤田真央さんはいずれも国際音楽コンクールで脚光を浴びる若き実力者。チェロとピアノのデュオは伝統的な組合せですので、名曲がたくさん書かれています。おふたりが選んだのはドビュッシーが最晩年に書いた難曲、チェロ・ソナタ。チェロとピアノのデュオから清澄で流麗な音楽が生み出されました。
 最後に共演したのは尺八の藤原道山さんとタブラのユザーンさん。こんな楽器のデュオはまずないだろうと思いきや、それぞれの師匠筋がかつて共演していたとは。曲はバッハの「バディネリ」。日本とインドの楽器でドイツの音楽を演奏するという、まったくボーダーレスなデュオになりました。「バディネリ」とは、ふざける、冗談といった意。遊び心のある陽気な音楽に添えられた曲名です。即興の要素もふんだん加わって、世界でただひとつの「バディネリ」が誕生しました。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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ひとり(ソロ)を楽しむ音楽会

投稿日:2020年06月06日 10:30

今週はひとりで演奏する「ソロ」の曲にスポットを当てました。
 ヴァイオリンやチェロのような弦楽器はメロディを奏でる楽器なので、ほとんどの場合、ピアノ等の伴奏が付きます。弦楽器ひとりだけでは音楽にならない……と思いきや、その常識を覆したのがバッハ。さまざまな工夫を凝らして、ヴァイオリン1本、あるいはチェロ1本だけでも、十分に奥行きや立体感が伝わってくる音楽を書きあげました。その代表作が、無伴奏ヴァイオリンのためのソナタとパルティータ、そして無伴奏チェロ組曲です。
 バッハの無伴奏ヴァイオリンのためのソナタとパルティータは、3曲のソナタと3曲のパルティータ(組曲の意)からなります。今回、三浦文彰さんが演奏してくれたのは、パルティータ第3番の「ガヴォットとロンド」。ヴァイオリン1本だけの演奏なのに、ときには和音が響いたり、2本のメロディが同時に鳴っているように聞こえませんでしたか。
 無伴奏チェロ組曲は第1番から第6番までの6曲が書かれています。古川展生さんが第1番よりプレリュードとサラバンドを披露してくれました。特にこのプレリュードはCMなどでもよく使用される人気曲。アニメ「新世紀エヴァンゲリオン」の劇中では、碇シンジがこの曲を弾いていました。
 一方、ピアノはソロで弾く機会の多い楽器です。萩原麻未さんが選んだのはアメリカ民謡「シェナンドー」。これは意外な選曲でしたね。自分自身を見つめなおすような音楽という意味で、「ひとり」にふさわしい楽曲だったと思います。
 TiAさんが歌ってくれたのは「アメイジング・グレイス」。伴奏なしで歌うことをアカペラと言います。アカペラとは本来「ア・カペッラ(礼拝堂風に)」。まさしく祈りの音楽になっていました。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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