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小菅優が3大作曲家のピアノ・ソナタを弾く音楽会

投稿日:2021年03月27日 10:30

今週はドイツを拠点に活躍する国際的なピアニスト、小菅優さんをお招きして、モーツァルト、ベートーヴェン、ショパンのピアノ・ソナタをお楽しみいただきました。3曲のピアノ・ソナタは、小菅さんが「このソナタなくして今の自分はない」とおっしゃる思い入れのある作品ばかり。これら3曲のイメージを小菅さん独自の言葉で表現してもらえたのもおもしろかったですよね。
 モーツァルトのピアノ・ソナタ ハ長調K.330の第1楽章は、小菅さんいわく「失われた幸せ」。なるほど、そういう表現ができるのかと、思わず膝を叩きました。この曲の喜びと悲しみが入り混じった陰影の豊かさはモーツァルトならでは。一見明るくはつらつとした曲調であっても、モーツァルトの音楽には複雑な表情があります。そこに儚さを見抜くのが小菅さん。ニュアンスに富んだすばらしいモーツァルトでした。
 ベートーヴェンは近年小菅さんが力を入れる大切なレパートリー。ピアノ・ソナタ第17番ニ短調には「テンペスト」(嵐)という愛称が付いています。これはベートーヴェン本人による題ではありません。ベートーヴェンの秘書シントラーが作品理解について尋ねたところ、ベートーヴェンは「シェイクスピアの『テンペスト』を読みなさい」と答えた、という逸話に基づいています。ところがシントラーという人はたくさん自分に都合のよいウソをついた人物でしたので、現代ではこの逸話は眉唾ものとみなされています。小菅さんが「テンペスト」第3楽章に感じるイメージは「遁走」。たしかにこの曲にはなにかに追い立てられているような切迫感があります。
 最後はショパンのピアノ・ソナタ第3番の第4楽章。小菅さんはこの音楽に「葛藤の後の救済」を感じるといいます。このように言葉にしてもらえると、曲がいっそう親しみやすく感じられます。パッションにあふれた演奏が雄弁な音のドラマを伝えてくれました。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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ジャンルを超えて!和太鼓と夢の共演~ドリーム・デュオ

投稿日:2021年03月20日 10:30

若い演奏家たちから共演のオファーが次々と舞い込んでいるという林英哲さん。今週は林英哲さんがふたりの若手奏者と共演する異色のデュオをお届けいたしました。
 和太鼓が西洋楽器とデュオを組むことはきわめてまれなこと。どんなレパートリーがあるのか、記憶をたどっても思い当たる曲がありません。今回、林英哲さんと共演したチェロの新倉瞳さんと、サクソフォンの上野耕平さんは、それぞれ新曲を作曲家に委嘱してデュオを実現しました。
 新倉さんが演奏したのは和田薫さん作曲の「巫(かんなぎ)」より。先頃、すぐれた若手チェリストを表彰する齋藤秀雄メモリアル基金賞を受賞した新倉さんですが、デビューが早かったこともあり、今年デビュー15周年を迎えます。チャレンジ精神の旺盛な新倉さんは、この15周年を機に委嘱作品を集めて世界初演を行うコンサートを開きました。「巫」はその際に初演された一曲。巫とは神霊と交わる巫師、シャーマンのこと。祈祷を思わせるチェロの旋律に、英哲さんの神楽鈴と素手で叩く太鼓のリズムが加わると、名状しがたい厳粛な雰囲気が立ち込めます。活発な部分でのチェロと太鼓の応酬も聴きごたえがありました。新倉さんが神楽鈴を鳴らす場面にはびっくりしましたね。
 上野さんは、ロンドンを拠点とする作曲家、藤倉大さんにサクソフォンと太鼓のための「ブエノ・ウエノ」を委嘱しました。藤倉さんはヨーロッパの第一線で大活躍中の作曲家。ザルツブルク音楽祭やルツェルン音楽祭、BBCプロムスなどからも作品を依頼され、昨年は東京の新国立劇場で新作オペラ「アルマゲドンの夢」が世界初演されました。そんな藤倉さんの「ブエノ・ウエノ」は、日本的なようでもあり無国籍風でもあり、古代の儀式を連想させつつも現代の都会的な感覚も息づいているという、複雑な味わいを持った作品でした。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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打楽器奏者の秘密を知る休日

投稿日:2021年03月13日 10:30

今週は和太鼓、ロックドラム、ラテンパーカッションという、ジャンルの異なる打楽器奏者のみなさんにお集まりいただきました。林英哲さん、真矢さん、伊波淑さん、それぞれまったく異なる種類の打楽器なので、はたして共演が可能なのだろうかと思いきや、最初の「一番太鼓」から、ひとつに溶け合った音色が聞こえてきました。
 三人のお話を聞いていると、打楽器奏者は音楽家のなかでももっともアスリート的な存在だと感じます。林英哲さんが言うように「演奏自体が筋トレ」。腕の筋肉がすごい! 太鼓の叩き方を真矢さんに教える場面がありましたが、ダイナミックな構え方からして、スポーツ選手のフォームのようです。アイシングの話など、肉体的なケアに気づかうところもやはりアスリート的です。
 おもしろかったのは伊波さんによるコンガの叩き方についての解説。本場のキューバ人奏者たちが腕を叩きつけるように振り下ろすのに対し、日本人は手首のスナップを使った叩き方が合っていると言います。よく海外のクラブに移籍した日本人サッカー選手が、フィジカルの強さで競うよりも、日本人のアジリティを生かしたプレイで勝負するといった話がありますが、それに一脈通じるところがあると思いました。
 最後に3人で演奏したのは、「運命」~打楽器スペシャルセッション。あのベートーヴェンの交響曲第5番「運命」を打楽器だけで演奏してしまおうというチャレンジでした。「運命」で全曲にわたってくりかえし登場するのが、「運命の動機」として知られる「タタタターン」のリズム。打楽器だけで演奏しているにもかかわらず、なんと、ちゃんとメロディが聞こえてきます! 各々の打楽器がソロを披露する様子は、まるで協奏曲のカデンツァのよう。このパッションはまさにベートーヴェン。打楽器の表現力の豊かさを痛感しました。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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2700回放送記念! 3週連続SP・第3週

投稿日:2021年03月06日 10:30

今週は番組2700回放送を記念する3週連続スペシャルの第3弾。今回は「新たな音楽の発掘を楽しむ企画」をテーマにお届けしました。
 葉加瀬太郎さんによる「題名プロ塾」で一躍脚光を浴びたのがヴァイオリニストの林周雅さんです。番組を見た反田さんからコンサートツアーのメンバーに招かれたり、原田慶太楼さんから東京交響楽団の演奏会に呼ばれるなど、引く手あまたの人気ぶりです。葉加瀬さんに見出されてポップスのほうに行ってしまうのかと思えば、クラシックでも着実に活動の場を広げる林さん。ポップスでもクラシックでも第一線で活躍できるヴァイオリニストへと大きく育ってくれることでしょう。
 「マイ・ハート・ウィル・ゴー・オン~タイタニック・愛のテーマ~」では、Toshlさん、石丸幹二さんのヴォーカルに、林さんのヴァイオリン、山中惇史さんのピアノ、宮田大さんのチェロが加わるという夢の共演が実現しました。Toshlさんの輝かしい声と石丸さんの温かみのある声がひとつに溶け合うと、絶妙な音色が生まれてきます。映画「タイタニック」主題歌としてセリーヌ・ディオンが歌って大ヒットを記録した曲ですが、映画の公開は1997年ですので、もう24年も前になるんですね。古びることのない名曲だと思います。
 7人制吹奏楽「ブリーズバンド」は番組発の新しいスタイルの吹奏楽。7人だからこそ、全員が主役になれるのが特徴です。大人数で演奏するばかりが吹奏楽ではありません。今から約100年前、第一次世界大戦とスペイン風邪の影響でヨーロッパの音楽界が苦境に立たされた際、作曲家ストラヴィンスキーは7人編成の小アンサンブルと朗読、ダンサーで上演可能な「兵士の物語」を作曲しました。これは感染対策というよりは経済的に可能な小編成を意図したものですが、たまたま7人という人数はブリーズバンドと同じ。「兵士の物語」が時代を超える名曲になったように、ブリーズバンドもパンデミックを超えて発展する可能性を持っているのではないでしょうか。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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