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左ききはツライよ・・・の音楽会

投稿日:2023年05月13日 10:30

左ききの割合はおよそ10人にひとりだとか。ハサミや急須のように、右ききを前提に設計されているものは少なくありません。であれば、音楽の世界はどうなっているのだろう……ということで、今週は左ききの音楽家のみなさんに集まっていただきました。
 ギタリストの場合、左きき用のギターを使うという方法もありますが、松崎しげるさんは、右きき用のギターをそのまま左右逆に持ち替えて演奏する派。これだと弦の並びが上下逆になってしまいますが、独自の「かき上げ」奏法を駆使しながら、見事に弾いてくれました。これはすごい技ですね。
 荒井里桜さんは左ききのヴァイオリニスト。ヴァイオリンの場合は普通、左ききでも右ききでも同じように弾きますので、見た目では区別がつきませんが、やはり左ききの方にとって右手による弓のコントロールは大変なようです。逆に左手の技術を要求する超絶技巧系の曲では有利な面もあるというお話にはなるほどと思いました。
 ギターと違って、ヴァイオリンを左右逆の手で弾く人はほとんどいないと思いますが、往年のフィンランドの名指揮者でヴァイオリニストでもあったパーヴォ・ベルグルンドは、左手に弓を持って演奏していたそうです。オーケストラに在籍していた頃は、隣の奏者とぶつかりそうになって大変だったとか。ベルグルンドは指揮棒も左手に持っていました。
 同じように左手で棒を振る指揮者が出口大地さん。出口さんのように左手に棒を持つ指揮者はかなり珍しいと思います。世界的指揮者では前述のベルグルンド、あとはイギリスのドナルド・ラニクルズが代表的な存在でしょうか。客席から見ても、指揮者が左手で棒を振っている姿はかなり新鮮に感じます。
 SINSKEさんは左ききのマリンバ奏者。演奏時のフォームや楽譜の指番号など、意外なところで右ききが前提になっているんですね。新しい作品では左手に超絶技巧が求められる傾向があって有利になるというお話は、ヴァイオリンの超絶技巧と通じるところがありました。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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春から連想する音楽会

投稿日:2023年05月06日 10:30

今週は「春から連想する音楽会」と題して、連想ゲームのような音楽会をお届けしました。ゲスト奏者たちが連想する言葉を数珠つなぎで発表し、それぞれの言葉からイメージされる曲を演奏するという趣向です。
 まず「春」といえば「そよ風」ということで、イメージされた曲は映画「もののけ姫」より「アシタカとサン」。フルートの清澄な音色にギターとチェロの温かみのある音色が加わって、やさしくしなやかな音楽が奏でられました。「そよ風」にふさわしい心地よさでした。
 Cocomiさんが「そよ風」から連想した言葉は「旅」。曲はミシェル・ルグランの「キャラバンの到着」。1967年公開のフランスのミュージカル映画「ロシュフォールの恋人たち」で用いられた名曲です。さまざまなアレンジで親しまれている曲ですが、本日はCocomiさんのフルートと林周雅ストリングスの演奏で。軽快で、気持ちが浮き立ちます。
 村治佳織さんが「旅」から連想した言葉は「ワクワク」。そして「ワクワク」からイメージした曲はファレル・ウィリアムスの「ハッピー」です。村治さんの華麗なギターにストリングスのソロ回しも加わって、カッコよかったですね。
 チェリストの上村文乃さんが「ワクワク」から連想した言葉は「笑顔」。曲はガッロの「12のトリオ・ソナタ第1番」第1楽章です。聴く人を笑顔にしてくれる爽快な音楽でした。ガッロという作曲家は多くの方にとってなじみが薄いはず。むしろこのメロディは、ストラヴィンスキー作曲のバレエ音楽「プルチネッラ」に登場する曲として親しまれていると思います。20世紀の作曲家ストラヴィンスキーは、イタリアの知られざる古楽を題材に用いて、このバレエ音楽を作曲しました。その元ネタのひとつが、このガッロのトリオ・ソナタなんですね。18世紀の作曲家とは思えないほどフレッシュでキャッチーな曲調で、ストラヴィンスキーが目をつけるもの納得です。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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クラシック奏者が演奏したい平成ポップスの音楽会

投稿日:2023年04月29日 10:30

今週はクラシックの奏者たちが選んだ平成ポップスの名曲をお届けしました。近年は若者たちの間で平成に流行したポップスが注目されているのだとか。流行はくりかえすといいますが、現代はインターネットの動画配信やソーシャルメディアが浸透した結果、過去の名曲がリバイバルしやすい状況にあるといえるかもしれません。
 最初に演奏されたのは、ブラック・ビスケッツの「Timing~タイミング」。若いユーザーが多いTikTokの「踊ってみた」動画がきっかけで再ブレイクしたのだそうです。今回はヴァイオリン、フルート、尺八の3人のソリストとストリングスによる演奏で。とても軽やかなサウンドで爽快でしたね。
 廣津留すみれさんが選んだのは宇多田ヒカル「First Love」。シングル・アルバム累計800万枚というメガヒットを記録した名曲です。廣津留さんによれば「意外性のあるコード進行」が魅力。楽曲に時代を超える新鮮さがあるということなのでしょう。弦楽器のみによる編成で、繊細でしなやかなサウンドが印象的でした。
 多久潤一朗さんが選んだのはDREAMS COME TRUE「LOVE LOVE LOVE」。中学生の娘さんも知っているといいますから、本当に世代を超えて受け継がれているんですね。この曲ではチェンバロがとても効果的に使用されています。チェンバロといえばバロック期に流行した楽器。今回はバロック音楽風のアレンジで「LOVE LOVE LOVE」が生まれ変わりました。最後の部分でクープラン「恋のうぐいす」、エルガー「愛のあいさつ」、クライスラー「愛の喜び」がおりこまれているという、愛に満ちたアドリブまで付いていました。
 藤原道山さんが選んだのは広瀬香美「ロマンスの神様」。こちらもTikTokで大流行しました。尺八による演奏はかなり意外でしたが、ノンリード楽器ならではの澄んだ音色が楽曲とマッチしていたように思います。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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坂本龍一の音楽会

投稿日:2023年04月22日 10:30

今週は3月28日に逝去した坂本龍一さんの音楽を、過去の演奏とトークを中心にお届けいたしました。坂本龍一さんが番組に初めて登場したのは1984年。当時32歳の坂本さんが司会の黛敏郎さんと話している映像がありましたが、世代も分野も異なるふたりの日本を代表する音楽家が対話をしているという意味で、これは本当に貴重な映像だと思います。
 坂本さん本人のピアノによる「Merry Christmas, Mr. Lawrence」は1993年の演奏。今聴いても古びていない……というか、むしろ新鮮でみずみずしい音楽だと感じました。曲に漂うノスタルジーが、一段と際立って感じられます。
 「El Mar Mediterrani」では、坂本さんが新日本フィルをエネルギッシュに指揮していました。この曲はバルセロナ五輪開会式のために書かれた作品です。豊かな音楽文化を誇る芸術都市バルセロナだけあって、この開会式にはホセ・カレーラスやプラシド・ドミンゴ、モンセラート・カバリエ等々、レジェンド級の大歌手たちがたくさん登場していたのですが、そこに坂本さんも招かれて自作を指揮していたことにあらためて驚きます。
 「弦楽四重奏曲」第3楽章は、東京藝術大学在学中の19歳の作品。以前「放送2800回記念② 巨匠・坂本龍一からの伝達」の回で同曲の第1楽章をお届けしましたが、この第3楽章は初公開の映像です。ウェーベルンら新ウィーン楽派からの影響がストレートに感じられるアカデミックな書法で書かれています。坂本さんにもこんな時代があったんですね。
 最後の「The Last Emperor」は1993年、2019年、2023年の3種類の演奏による特別編集版でした。時の流れに思いを馳せずにはいられません。1993年と2019年の演奏では坂本さんがピアノを弾いていましたが、2023年でピアノを弾いたのは角野隼斗さん。名曲とは作曲者の手を離れ、次の世代へと受け継がれてゆく作品のこと。これからも多くの若い音楽家たちが坂本さんの作品を演奏し、作品に新たな生命を吹き込んでゆくことでしょう。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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本気でプロを目指す!題名プロ塾第3弾~後編

投稿日:2023年04月15日 10:30

今週は葉加瀬太郎さんによる「題名プロ塾」第3弾の後編。先週の結果を受けて、大森駿音さん、佐伯ミッシェル藍さん、丸山怜子さんの3人の塾生が、葉加瀬さんの最終レッスンを受けました。曲はかつて葉加瀬太郎さんがセリーヌ・デュオンと共演した「トゥー・ラヴ・ユー・モア」。清水美依紗さんの歌との共演です。
 葉加瀬さんが見たいポイントは「歌手を引き立てるオブリガート(歌やメロディを引き立てる対旋律)」と「自分が映えるオブリガート」。前に出すぎてもいけないけれども、歌手に隠れてしまってもいけないという難しさがあると思いますが、3人それぞれが個性豊かなヴァイオリンを披露してくれました。
 最初の大森駿音さんは、しっとりとしたイントロからやさしく歌手に寄り添う様子が印象的でした。葉加瀬さんのアドバイスは、歌のオブリガートに「休み」を入れること。隙間がなかったんですね。アドバイスを受けて、格段に音楽の流れが自然になったように思います。
 2番目の佐伯ミッシェル藍さんは、ヴァイオリンのつややかで深みのある音色が印象的。間奏のところがすごくカッコよかったですよね。葉加瀬さんのアドバイスは、休符の後、歌とハモるよりも同じ音のオクターブ上を弾いてサポートすること。これで歌が一段と映えるというのですが、実際に演奏を聴いてみると納得です。
 3番目の丸山怜子さんはオリジナリティの感じられるアプローチで、クラシカルなテイストがとりこまれていて聴きごたえがありました。アドバイスを受けた後のイントロには、葉加瀬さんから「さっき僕が弾いたのよりいいんじゃない」という褒め言葉まで。
 選考の結果、3人から選ばれたのは、佐伯ミッシェル藍さん。音楽はもちろんのこと、とても楽しんで弾いている姿にも魅了されました。これからの活躍が楽しみでなりません。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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本気でプロを目指す!題名プロ塾第3弾~前編

投稿日:2023年04月08日 10:30

今週は葉加瀬太郎さんによる「題名プロ塾」第3弾の前編をお届けいたしました。5人の塾生のみなさんが、それぞれジャンルの異なるポップスに挑みましたが、さすが多数の応募から選ばれただけあって、みなさん本当にレベルが高い! 最初に演奏を聴くと「わ、うまい!」と感心してしまうのですが、そこに葉加瀬さんの的確なアドバイスが加わることで、さらに一段階レベルアップするのがすばらしかったですね。
 「パート・オブ・ユア・ワールド」ロック版に挑戦したのは大森駿音さん。大森さんがエッジーに(鋭く)弾いていたのに対して、葉加瀬さんの提案は「ファットに(どっぷり)弾く」。お手本を聴いて納得。ロックならエッジーなのがいいというわけではないんですね。
 「美女と野獣」フュージョン版を弾いたのは堀竹優衣さん。スパッと爽快に弾いてくれて、気持ちのよいヴァイオリンでした。葉加瀬さんがそこに求めたのは、フュージョンにふさわしいエレガントさ。これも納得です。
 「とびら開けて」カントリー・ミュージック版では、藤井美帆さんが切れ味の鋭い、ダイナミックな演奏を披露。胸のすくような快演でしたが、葉加瀬さんが求めるのはカントリーらしさ。マイクを活用してグルーヴを出すというアドバイスがありました。マイクを使わないクラシックにはない発想法です。
 「夢はひそかに」スウィング・ジャズ版では、佐伯ミッシェル藍さんの表情豊かでチャーミングな演奏に魅了されました。葉加瀬さんのお話に「歌のように休符を入れる」とありましたが、これはいろんなジャンルの音楽に言えることかもしれません。
 「いつか王子様が」バラード版では、丸山怜子さんが端正でのびやかなヴァイオリンを聴かせてくれました。葉加瀬さんが求めるのはバラードならではの「キュン」とした表情。アドバイス後に見違えるほど演奏が変わってびっくり。
 いったい最後に残るのはだれなのか。後編が楽しみです!

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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葉加瀬太郎ピアノトリオの音楽会

投稿日:2023年04月01日 10:30

今週は葉加瀬太郎さんがピアノの西村由紀江さん、チェロの柏木広樹さんとともに結成したピアノトリオ NH&K TRIO の演奏をお届けしました。「情熱大陸」のような聴きなれた曲でも、ピアノトリオで聴くとまた違った新鮮な味わいがありますよね。
 葉加瀬さんから「室内楽という言葉にとても惹かれている」というお話がありましたが、室内楽の分野では、ピアノ、ヴァイオリン、チェロによるピアノトリオは基本編成のひとつ。モーツァルトやベートーヴェンの時代から数々の名曲がピアノトリオのために作曲されています。同じく代表的な室内楽の基本編成に弦楽四重奏がありますが、多くの弦楽四重奏団が固定メンバーによる常設楽団として活動しているのに対して、ピアノトリオはもっとフレキシブル。かつてピアノのルービンシュタイン、ヴァイオリンのハイフェッツ、チェロのフォイアマンといったスター奏者からなるピアノトリオが「100万ドルトリオ」と呼ばれて絶大な人気を誇ったように、個性の強いソリスト同士が集まっても成立するのがピアノトリオだと思います。
 今回は3人それぞれが作曲した楽曲をピアノトリオで演奏することで、気心の知れたメンバー同士ならではの親密な雰囲気が醸し出されていました。
 西村由紀江さん作曲の「ビタミン」はまっすぐで爽やかな一曲。新年度を迎える今の時期にぴったりの前向きになれる音楽でした。
 柏木広樹さん作曲の「羽根屋」には、どこか懐かしさを感じさせるところがあります。旧知の仲間同士のリラックスした音の対話といった趣。
 葉加瀬太郎さんの「エトピリカ」では、3人の演奏から豊かな詩情が紡ぎ出されていました。ピアノトリオで聴くことで、一段と成熟した音楽として楽しめたのではないでしょうか。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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豪華共演!“2台ピアノ”の音楽会

投稿日:2023年03月25日 10:30

最近、クラシック音楽界で話題を呼んでいるのが2台ピアノの演奏会。人気ピアニスト同士の共演が多く、とても華やかなイメージがあります。今週はそんな2台ピアノの魅力に迫りました。
 小林愛実さんと角野隼斗さんが演奏してくれたのは、ショパンの「小犬のワルツ」。本来、この曲はピアノ1台で演奏される曲ですが、角野隼斗さんの遊び心のある編曲により、新しい姿に生まれ変わっていました。若いスターふたりが楽しそうに共演している姿を見ると、昨今の2台ピアノブームにも納得がいきます。
 小曽根真さんと藤田真央さんは、モーツァルトの2台ピアノのためのソナタで共演。この曲はとびきりの傑作ですね。「のだめカンタービレ」で千秋とのだめが共演した曲として一世を風靡しました。モーツァルトが優秀な女性の弟子と共演するために書いた作品で、奏者間の対話性に富んだ溌剌とした楽想が魅力です。このふたりならではの即興演奏の応酬もあって、一段とスリリングで驚きにあふれた演奏が実現。途中からほとんどジャズになっていましたが、本来のモーツァルトに戻った瞬間のふたりの笑顔が印象的でした。
 ラフマニノフも2台ピアノのための傑作を何曲か残しています。今回演奏されたのは組曲第2番からの2曲。第1楽章を反田恭平さんと務川慧悟さん、第4楽章を反田恭平さんと藤田真央さんによる豪華共演でお届けしました。ラフマニノフがこの曲を「組曲」と題しているのは、おそらくバロック期の古典組曲を意識してのことでしょう。第1楽章は行進曲風の序奏ですが、いかにも幕開けの音楽らしい荘厳さがありますし、最後にテンポの速い舞曲が置かれるのも組曲らしい構成です。反田さんと務川さんの息の合った第1楽章、反田さんと真央さんのエネルギッシュな第4楽章、ともに聴きごたえがありました。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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放送2800回記念④ 反田恭平が描く未来の音楽会

投稿日:2023年03月18日 10:30

今週は番組放送2800回記念シリーズの第4弾として、反田恭平さんとジャパン・ナショナル・オーケストラのみなさんに登場していただきました。
 最初に反田さんが演奏してくれたのは、ショパンの「猫のワルツ」。ショパンのワルツといえば「小犬のワルツ」が有名ですが、「猫のワルツ」もあるんですね。猫が鍵盤の上に飛び乗って走り回っているかのような様子を連想させることから、この愛称が付いたといいます。俊敏だけれど優雅な楽想を持った曲なので、なるほど、猫の愛称はふさわしいのかも。クラシックには猫に関する名曲は意外と少ないので、貴重な一曲です。
 かねてより反田さんは、海外から留学生がやってくるような音楽学校を日本に設立したいと語っています。音楽学校には第一級のオーケストラが必要であるという考えから2021年に設立されたのが、ジャパン・ナショナル・オーケストラ。若い精鋭が集まった腕利き集団で、株式会社として設立されるなど、従来とは違った発想から運営され、話題を呼んでいます。
 今回は反田さんがジャパン・ナショナル・オーケストラを指揮しながら、ベートーヴェンのピアノ協奏曲第4番を演奏してくれました。このようにピアニストがソロを弾きながら指揮をすることを「弾き振り」といいます。特にベートーヴェンやモーツァルトの時代のような比較的小編成のオーケストラの場合、ピアニストが指揮者を兼ねることは決して珍しいことではありません。「弾き振り」であれば、ピアニストの作品解釈をオーケストラとより直接的に共有し、同じビジョンのもとで作品に向き合えるのが利点と言えるでしょう。
 テロップで反田さんの作品解釈が示されていましたが、具体的なイメージで表現されていて、とてもわかりやすかったと思います。第2楽章は祈りの音楽。この瞑想的な第2楽章と、喜びがはじける第3楽章のコントラストは実に鮮やか。オーケストラが立奏しているのもカッコよかったですよね。生命力と高揚感にあふれた見事な演奏でした。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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放送2800回記念③ 巨匠・小曽根真から未来の巨匠・藤田真央への伝達(メッセージ)

投稿日:2023年03月11日 10:30

今週は番組放送2800回記念第3弾として、ともに世界を舞台に活躍する、ジャズ・ピアニストの小曽根真さんとクラシック音楽界の若きスター・ピアニスト藤田真央さんの共演をお楽しみいただきました。異なるジャンルの音楽家同士とは思えないほど、ふたりの息がぴたりと合っていましたね。
 最初に演奏されたのは、モーツァルトのピアノ・ソナタ第15番の第1楽章。原曲はピアノ学習者にも広く親しまれています。これを「ペール・ギュント」などで知られるノルウェーの作曲家グリーグが2台ピアノ用に編曲しています。本来、この編曲では1台がモーツァルトのオリジナルそのまま、もう1台はグリーグが付け加えたパートを演奏するようになっているのですが、ここではさらに奏者の大胆な遊び心が加わって、モダンな装いの21世紀版モーツァルトが誕生しました。
 続いて演奏されたのは、ラフマニノフのピアノ協奏曲第2番の第3楽章より。原曲はピアノとオーケストラのための作品ですが、今回は2台ピアノによる演奏で。モーツァルトのみならず、ラフマニノフでもこんなに自由な演奏が可能なんですね。次になにが起きるのかわからないドキドキ感があって、とても新鮮な感動がありました。それにしても、厚みのあるピアノの響きがゴージャス!
 最後は小曽根さん作曲の「オベレク」で、真央さんがジャズのフィールドに挑んでくれました。リハーサルを重ねるうちに、真央さんの新しいアイディアが加わることで、作曲者である小曽根さんも気づかなかったような楽曲の可能性が開かれたというお話が印象的でした。クラシック音楽でもバロック音楽や古典派の時代には即興の要素があったわけですし、演奏者によって作品の可能性が広がっていくのはあらゆるジャンルの音楽に共通して言えることでしょう。ふたりの音の対話はスリリング。まさに今そこで音楽が生まれている瞬間を味わうことができました。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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