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オーケストラと夢をかなえる音楽会〜夢響2023 後編

投稿日:2023年09月23日 10:30

 今週は先週に引き続き、オーケストラと共演する夢をかなえる「夢響」の後編をお届けしました。4名の参加者の方々が三ツ橋敬子さん指揮東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団と共演。コンサートホールの舞台に立つだけでも相当緊張しそうなものですが、みなさん本当に堂々たるステージ姿で、とてもオーケストラとの共演が初めてとは思えません。感服しました。
 最初に登場した金子暖さんは小学5年生。将来の夢はショパン・コンクールのファイナリストだといいますから、頼もしいかぎりです。曲はグレツキの「若きショパン風協奏曲第2番」の第3楽章より。ショパンを模したスタイルで書かれた作品だけあって、まさに雰囲気はショパン・コンクールのファイナル。コンクールさながらの華やかさと高揚感がありましたね。
 ウインドシンセサイザーという意外な楽器で応募してくださったのは日下志友彦さん。ずっとひとりで練習してきたので、人と合わせるのは初めてだといいますが、まさか初共演の相手がプロのオーケストラになるとは。曲はおなじみの「宝島」。カッコよかったですよね。本人が心から楽しんでいる様子が伝わってきて、聴く人に元気を与えてくれる演奏だったと思います。
 益田彩乃さんは今回唯一のボーカルでの共演。「リトル・マーメイド」の主題歌「パート・オブ・ユア・ワールド」を歌ってくれました。のびやかで透明感のある声とオーケストラのサウンドがぴったりとマッチしていて本当に素敵でした。「スペシャル・ドリーマー賞」は納得でしょう。
 高校1年生の紺野あすかさんはアルトサクソフォンで、トマジ作曲の「バラード」に挑戦。本格派の選曲でしたが、実に見事な演奏で聴き惚れてしまいました。今回は抜粋でしたが、ぜひ全曲を聴いてみたくなります。大きな可能性を感じます。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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オーケストラと夢をかなえる音楽会〜夢響2023 前編

投稿日:2023年09月16日 10:30

 コロナ禍により2019年以来開催が見送られていた人気企画「夢響」がついに復活しました。プロの音楽家であっても決して容易ではない「オーケストラと共演する」という夢を叶えるのが「夢響」。多数の応募者から8名の出場者が選ばれ、今週は4名の出場者が三ツ橋敬子指揮東京シティ・フィルと共演を果たしました。
 トップバッターの村上亮さんは学校の音楽の先生。曲はショスタコーヴィチのピアノ協奏曲第2番の第3楽章より。村上さんは勤務時間前に指のトレーニングのために有名な教則本「ハノン」を練習しているとおっしゃっていましたが、この曲には「ハノン」の引用が出てきます。というのも、これはショスタコーヴィチがピアニストの息子のために書いた作品。お父さんから息子への「しっかり練習しておけよ」というエールが「ハノン」の引用に込められているのでしょう。臆することなくオーケストラと共演を果たした村上さん。めちゃくちゃカッコよかったです。
 高校生の西村大地さんはトランペットでサラサーテの「ツィゴイネルワイゼン」に挑戦。原曲はヴァイオリンのための名曲ですが、トランペットの輝かしい音色で聴いても効果抜群ですね。ゆっくりしたメランコリックな部分と、速いテンポの活発な部分との対比が鮮やか。オーケストラとの共演という幼少時からの夢を、見事な演奏でかなえてくれました。
 安達心春さんは小学2年生。楽器に「りぼんちゃん」と名前を付けているのがかわいいですよね。曲はヴィヴァルディのヴァイオリン協奏曲ト長調から第1楽章。ヴィヴァルディならではのはつらつとした躍動感と生命力が伝わってきました。演奏後、「続きの2楽章と3楽章も演奏したかったです」と話してくれましたが、気持ちはこちらも同じ。ぜひ続きも聴きたかった!
 「音楽人生の集大成をオーケストラとの共演で示したい」とおっしゃるのが、テナーサックス原野敏さん。サックス歴はなんと56年! なんともいえない味わい深い「ダニー・ボーイ」でした。やっぱりオーケストラといっしょに演奏すると映えますね。ダンディでした。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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ベトナム公演・後編〜 豪華共演!ベトナムと日本のトップピアニストの音楽会

投稿日:2023年09月09日 10:30

 今週は先週に続いて、日本と外交関係樹立50周年を迎えたベトナムよりお届けしました。今回は両国のトップピアニスト、ベトナムのグエン・ヴィエット・チュンさん、日本の反田恭平さんのおふたりに演奏していただきました。
 まず反田さんがソロで演奏したのは、ショパンのワルツ第5番作品42。数あるショパンのワルツのなかでも、この曲がとくに好きだという方も少なくないのでは。優雅できらびやか、それでいて陰影豊か。洗練された味わいがあります。
 ベトナムのピアニストといって、まっさきに思い出されるのは、1980年にアジア人で初めてショパン国際ピアノコンクールで優勝したダン・タイ・ソンさんでしょう。グエン・ヴィエット・チュンさんは、2021年、そのダン・タイ・ソンさん以来、41年ぶりとなるショパン国際ピアノ・コンクールの本選出場を果たしました。今年5月には東京初のリサイタルも開いています。
 反田さんとチュンさんが2台ピアノで共演したのは、20世紀ポーランドを代表する作曲家ルトスワフスキの「パガニーニの主題による変奏曲」。この「パガニーニの主題」とは、パガニーニが独奏ヴァイオリンのために書いた「24の奇想曲」第24番の主題を指しています。この主題はこれまでに数々の作曲家たちによって、変奏曲に仕立てられてきました。有名なのはリストのピアノ曲「パガニーニによる大練習曲」第6番でしょう。ブラームスの「パガニーニの主題による変奏曲」やラフマニノフの「パガニーニの主題による狂詩曲」もよく演奏されます。ルトスワフスキも変奏曲の伝統にのっとって、パガニーニの主題を用いたわけです。モダンな響きも加わって、斬新な変奏曲になっていました。
 最後にふたりが連弾で弾いたのは、ブラームスのハンガリー舞曲第5番。よくオーケストラのアンコール曲として演奏される人気曲ですが、もともとはピアノ連弾用に書かれた作品です。反田さんとチュンさんの軽快な演奏は、まさに踊りそのものでしたね。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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ベトナム公演・前編〜ベトナムと日本の伝統音楽を聴く音楽会

投稿日:2023年09月02日 10:30

 今年、日本とベトナムは外交関係樹立50周年を迎えました。今回は「題名のない音楽会」ベトナム公演といたしまして、ベトナムの首都ハノイのオペラハウスよりお届けしました。このハノイオペラハウスは100年以上の歴史を誇る劇場で、パリのオペラ座がモデルになっています。フランス統治時代に建造されたとあって、内装もヨーロッパの劇場にそっくり。小ぶりな劇場ですが、とても装飾的でゴージャスです。
 最初に演奏されたのはホー・ホアイ・アン作曲の「古都フエの女王」。ベトナムの伝統楽器で編成されたスック ソン モイ伝統オーケストラから、新鮮な音色が聞こえてきました。テルミンのような音色の竹素材の伝統楽器はダン・バウ。もともとはアコースティックな楽器で非常に音量の小さな楽器だったそうですが、現在ではエレキギター同様のピックアップを用いて、音を電気的に増幅しているのだとか。音色になんとも言えない味わい深さがあります。
 同じく竹製の伝統楽器、ダン・トゥルンの音色も印象的でした。木琴のような乾いた軽快な音がするのですが、音に丸みがあって温かみを感じます。チン・コン・ソン作曲の「美しい昔」では、LEOさんの箏にダン・トゥルンや、奏者の口を共鳴器として用いるク・ニ、竹笛のサオ・チュックが加わって、まったく聴いたことのない響きが生み出されていました。箏以外の楽器にはなじみがないにもかかわらず、なぜかノスタルジーが喚起されます。
 おしまいは坂本龍一作曲の「Merry Christmas Mr. Lawrence」。ベトナムの楽器と日本の箏で演奏しても、やっぱりこの曲は名曲ですね。原曲には東洋的なメロディをシンセサイザーで演奏することで、異文化の出会いというテーマが込められていると思います。ベトナムの伝統楽器と日本の伝統楽器の共演にふさわしい楽曲だったのではないでしょうか。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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古くて新しい!もう1つのショパン国際コンクールの音楽会

投稿日:2023年08月26日 10:30

 今週は第1回ショパン国際ピリオド楽器コンクールで第2位を獲得した川口成彦さんをお招きして、ピリオド楽器でショパンを演奏していただきました。ショパンが生きていた当時のピアノはこんな音色をしていたんですね。現代のピアノとはずいぶん違うと感じられたのではないでしょうか。
 ピアノは時代とともに大きく姿を変えてきた楽器です。どんな作曲家もその当時の楽器のために曲を書いたのですから、作曲家の真の姿を知るためにはピリオド楽器について知ることが不可欠。そんな考え方が広まり、2018年、ポーランドの国立ショパン研究所は第1回ショパン国際ピリオド楽器コンクールを開催しました。あの有名なショパン国際コンクールを開催する国立ショパン研究所が、ピリオド楽器奏者のためのコンクールを開いたとあって、音楽界で大きな話題を呼びました。そして今年、第2回のコンクールが開催されようとしています。5年に1度の開催は本家ショパン・コンクールと同じです。
 川口さんのお話にあった、ピリオド楽器でわかるショパンの特徴のひとつは「静けさ」。当時の楽器ならではのモデレーターを使った演奏を披露してくれましたが、音のニュアンスががらりと変わりました。柔らかく幻想的な響きがします。現代のピアノにも弱音ペダルはありますが、仕組みも効果も違っています。
 もうひとつの特徴は「語り」。ピリオド楽器は「音の子音」が豊かだといいます。これは少し難しい表現ですよね。言語における子音は、kとかpとかtといった母音以外の音を指していますが、楽器の音にも子音があるというのです。これは発音の瞬間に乗るノイズ的な成分が音のキャラクターを作り出すということなのでしょう。現代のピアノの均質で滑らかな音とはまたちがった、まるでおしゃべりをするかのような多様な発音が楽器から聞こえてくると感じたのですが、いかがでしょうか。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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まったく楽譜がない!手の合図だけで演奏する音楽会

投稿日:2023年08月19日 10:30

 今週はハンド・サインを用いて即興演奏を行う音楽集団el tempo(エル・テンポ)のみなさんをお招きしました。率いるのはシシド・カフカさん。まるでオーケストラの指揮者みたいにジェスチャーでメンバーに指示を出します。身体言語を駆使しながら求める音楽表現を伝達するという意味では指揮者に近いと思うのですが、決定的に違うのは楽譜が存在しないという点でしょう。
 最初は演奏を見ても、シシドさんがなにをやっているのか、まったくわかりませんでしたが、ひとつひとつのハンド・サインの意味を説明してもらうと、なるほど、ハンド・サインにメンバーが反応していることがよくわかります。このハンド・サインによる即興演奏の仕組みを考案したのは、アルゼンチン出身のミュージシャン、サンティアゴ・バスケス。シシドさんが偶然その演奏を目にして衝撃を受けたことが、el tempo結成のきっかけとなりました。
 それにしてもハンド・サインの種類が120から130種類もあるというのですから、驚かずにはいられません。これをすべて覚えるのは至難の業では。サインを出す側もさることながら、受け取る方が即座に反応しているのがすごいですよね。「えーと、これはなんのサインだったけなあ?」などと、のんびり考えている時間はありません。
 ハンド・サインのなかには直感的に理解しやすいものもありましたが、指を16分音符に見立ててリズムフレーズを指示する「フィンガー・リーディング」のように、指の数まできちんと読み取らないといけないものもあって大変です。
 一方でこのハンド・サインの魅力は、簡単なサインであれば、だれでもすぐに参加できるところ。この日、初めてハンド・サインを知ったはずの客席のみなさんが、「コール&レスポンス」のサインに手拍子でこたえてくれました。これはすばらしいですよね。舞台と客席が一体となった即興演奏に、大きな可能性とエネルギーを感じました。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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豪華アーティストがディズニーソングを歌う音楽会

投稿日:2023年08月12日 10:30

 今週はToshlさん、ダイアモンド✡ユカイさん、山崎育三郎さん、そして石丸幹二さんの豪華アーティスト陣によるディズニーソングをお楽しみいただきました。
 最初にToshlさんが歌ったのは「アナと雪の女王2」より「イントゥ・ジ・アンノウン~心のままに」。Toshlさんのパワフルでのびやかな高音はこの曲にぴったり。まさに歌詞にある通り、未知の旅に踏み出そうとする期待感や高揚感がひしひしと伝わってきます。Toshlさんの輝かしい声とオーケストラの厚みのあるサウンドが一体となったゴージャスな響きにしびれました。
 山崎育三郎さんが歌ったのは「美女と野獣」より「ひそかな夢」。実写版映画「美女と野獣」のためにアラン・メンケンが書いた作品で、ベルを手放す野獣の想いが描かれています。これは切ない曲ですよね。山崎育三郎さんの情感豊かな歌唱が心に染みます。
 ダイアモンド✡ユカイさんはエリック・ミヤシロ・バンドと共演して、「トイ・ストーリー」より「君はともだち」を歌ってくれました。シリーズ1作目からダイアモンド✡ユカイさんが歌うおなじみの主題歌です。「老若男女みんなが笑顔になる曲」という選曲理由には納得。ディズニー名曲には聴く人を選ばない魅力があると思います。作詞・作曲はランディ・ニューマン。古き良きアメリカを思わせるノスタルジックな曲調にユーモアが入り交じったテイストが魅力です。テューバも効いていましたよね。
 石丸幹二さんは「リトル・マーメイド」より「アンダー・ザ・シー」で、夏の暑さを吹き飛ばしてくれました。海の生き物たちのご機嫌な暮らしぶりが歌われていて、ついつい「夏休み」感に浸ってしまいます。
 おしまいは「美女と野獣」。Toshlさんと石丸さんのデュエットは貴重です。男声ふたりで歌っても、やはりこの曲は盛り上がりますね。澄明なToshlさんの声と温かみのある石丸さんの声の組合せが最高でした。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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クラシックでも盆踊りはできるのか?の音楽会

投稿日:2023年08月05日 10:30

今年の夏は久しぶりに盆踊りが活発に開かれそうです。盆踊りといえば「炭坑節」や「東京音頭」「ソーラン節」などが定番曲でしたが、近年は「ダンシング・ヒーロー」など歌謡曲やJ-POP、さらにはアニメソングなど、多様な楽曲が使用されるようになってきました。案外と音楽の幅が広いのが盆踊り。だったら、クラシックでも盆踊りが可能なのでは? そんな発想から、日本盆踊り協会特別顧問の鳳蝶美成さんをお招きして、前代未聞のクラシック盆踊りにチャレンジしてみました。
 では、どんな曲なら盆踊りにふさわしいのか。そこで着目したのが、盆踊りの役割です。鳳蝶さんによれば、盆踊り本来の役割は祖先をもてなし供養し、先祖の霊や無縁仏を送り出すこと。となれば、クラシックでふさわしいのはレクイエム、すなわち「死者のためのミサ曲」しかありません。19世紀後半のフランスで活躍した作曲家フォーレの代表作であるレクイエムより第4曲「ピエ・イエズス」が選ばれました。数あるレクイエムのなかでも、とりわけ清澄な名曲です。これを和洋折衷の盆踊りスタイルに生まれ変わらせたのが「レクイエム音頭」。鳳蝶さんと日本民踊鳳蝶流による斬新な踊りが、新しい世界へと誘ってくれました。
 かつて盆踊りには男女の出会いの場という側面もありました。その点でぴったりなのは、モーツァルトのオペラ『魔笛』より「パ・パ・パの二重唱」。このオペラには試練を乗り越えて男女が結ばれるというテーマがあるのですが、物語の道化役がパパゲーノ。意志薄弱で頼りないパパゲーノが、お似合いの相手パパゲーナを見つけてめでたく結ばれます。ふたりの出会いの場面で歌われる「パ・パ・パの二重唱」が「パ・パ・パ音頭」に変身。男女が入れ替わるフォークダンス風の盆踊りには驚きました。
 おしまいはベートーヴェンの「第九」による「歓喜の歌音頭」。やはり踊りの基本は喜びでしょう。振付けは跳ねる、回るの動作が加わってダイナミック。やはりベートーヴェンにはこれくらいの力強さが似合いますね。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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シン・バロックの音楽会

投稿日:2023年07月29日 10:30

バロック音楽とは17世紀から18世紀半ばにヨーロッパで栄えた音楽のこと。クラシック音楽の歴史のなかでもとりわけ古い時代の音楽です。「温故知新」と言いますが、そんなバロック音楽にこそ現代に通じる新しさが潜んでいるのでしょう。今週はバロック音楽に精通した鈴木優人さんと、新時代の旗手、角野隼斗さんの共演で、「シン・バロック」の可能性を探ってみました。
 1曲目はバッハの「2声のインヴェンション」より第1番。ピアノ学習者の方には懐かしい曲かもしれません。本来はひとりで演奏する曲ですが、今回は鈴木優人さんと角野隼斗さんの連弾で。途中からどんどん即興が入ってきて、インヴェンションが新しい姿に生まれ変わりました。角野さんがチェンバロを弾く姿は貴重ですね。同じ鍵盤楽器といっても、ピアノとチェンバロでは発音のメカニズムがまったく違います。
 バッハの「2台のチェンバロのための協奏曲第3番」は、オーケストラなしで2台のチェンバロによる演奏。こちらも名曲です。同じ曲を原曲の「2つのヴァイオリンのための協奏曲」として親しんでいる方も少なくないのでは。今回は即興の掛け合いが入る特別仕様の演奏でした。時代を超越したスリリングな現代版バッハの誕生です。
 ピアソラの「リベルタンゴ」ではレガールという蛇腹付きの珍しい楽器が用いられました。発音原理が共通するだけに、鍵盤ハーモニカとの相性は抜群。時を超えたふたつの楽器の共演によるピアソラは新鮮でした。
 クラークの「トランペット・ヴォランタリー」は式典など、さまざまな機会に耳にする曲だと思います。晴れやかな冒頭部分から一転して、中間部はまさかのプログレ風。松井秀太郎さんのトランペット、角野さんのチェンバロ、優人さんのポジティブ・オルガン&レガールの組合せによる音色の妙を堪能しました。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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呼吸(ブレス)が大事な音楽会

投稿日:2023年07月22日 10:30

今週は世界水泳選手権2023福岡大会の応援企画として、元競泳日本代表の松田丈志さんをお招きし、音楽と水泳における呼吸(ブレス)の大切さについて迫ってみました。
 まずは松田丈志さんとフルート奏者の多久潤一朗さんが、どちらの息が長く続くか、コップにストローを入れて対決したところ、多久さんがよもやの勝利……というか、反則勝ちとでもいうべきでしょうか。管楽器奏者ならではのテクニック、「循環呼吸」を用いて悠々と息を吐き続けてくれました。「鼻で吸った息を頬にためて、頬の筋肉で空気を押し出す」というのですが、説明を聞いてもできる気がしません。
 一曲目の「ultra soul」では、その多久さんのフルートが多彩な奏法をくりだします。突風のような音を出すのは「ジェットホイッスル」。いろいろな曲で使われますが、たとえばブラジルの作曲家ヴィラ=ロボスには、その名も「ジェットホイッスル」という作品があります。音が連なる長いフレーズでは「循環呼吸」を活用。息を吸う音は聞こえましたが、音楽は実に滑らかで、つなぎ目が感じられません。さらには楊琴(ヤンチン)風、尺八風、ビートボックス風など、驚きの奏法のオンパレード。フルートって、こんなにいろいろな音が出せるんですね。
 現在大活躍中のバリトン、大西宇宙さんは、「オー・ソレ・ミオ」でたっぷりとしたロングトーンを披露してくれました。深くまろやかな美声を聴くと、この歌声にいつまでも浸っていたいと思ってしまいます。オペラでもしばしばこういったロングトーンが客席を沸かせます。
 おしまいは林周雅ストリングスによるモーツァルトの「アイネ・クライネ・ナハトムジーク」。弦楽器のアンサンブルであっても、こんなにも呼吸が大切な役割を果たしていたんですね。タイミングを合わせるだけではなく、音色や音量など、音楽のニュアンスまで息で伝えているとは。驚きました。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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