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オランダ・ベルギー・ルクセンブルク 春のベネルクス3カ国の旅編 撮影日記

ハーレムからチューリップ畑の中を南下
農業先進国オランダ
オランダ西部、北ホラント州の州都ハーレムからロッテルダムへ向かう。平日の急行列車、車内には地元の人よりも旅行者の姿が目立つ。ここ数日、晴天続きのオランダ。樹々の隙間から陽が差し込む度に、車内を光と影が行き来する。撮影には向かない状況だが、雰囲気は最高に良い。
突如、車内が光に包まれた。慌ててカメラの絞りを調整していると、乗客からワッと歓声があがる。車窓一面に広がるチューリップ畑。そう、そこは初日にロケハンをしていた場所。良かった。花はまだ刈られていなかった。それどころか、より鮮やかな色で広がっている。
取材を申し込んでいたチューリップ畑に行ってみると、ちょうど花刈りの真っ最中。チューリップというと、日本人の多くは卵の上を割ったような形の赤い花を思い浮かべると思うが、色や形、花びらの数など6千を超える品種が存在する。訪れた畑にも見たことのない種類が並んでいたのだが、その中に一際目をひくものが。薄いピンク色と濃いピンク色の花びらがバラのように幾重にも重なっている。品種改良した新種で名前を募集中だというので、花びらが“十二ひとえ”のようだから「きもの」はどうかと提案すると、えらく気に入ってくれた。もし今後「きもの」が世界中で流行したら自慢したいと思う。
オランダは近年、精密農業先進国として世界で注目されている。精密農業とはICT(情報通信技術)やAIを活用して収穫量や品質などの管理を行う手法のこと。オランダは九州ほどの小さな国土にも関わらず、世界第2位の農産物輸出国。その背景には政府支援の下で進められている研究開発にある。日本でもオランダの技術を取り入れている企業や農家も多いそうだ。
伝統というと、昔ながらの手法を守り継いでいるものに目が行きがちだが、現代の手法で伝統を“生かしていく”ということも重要だ。農業だけではない。アルクマールで行ったチーズ市では、昔ながらの取引を再現したショーを開くことで、観光客を呼び寄せ新たな収益を生んでいる。伝統をそのまま守るのではなく新たな方法で活用していく。当たり前のことかもしれないが、この国ではそれがとてもしっくりと馴染んでいて、私には新鮮に見えた。
ディレクター 廣澤 鉄馬
新種のチューリップ
アルクマールのチーズ市