世界の車窓から

トップページ > 撮影日記

オランダ・ベルギー・ルクセンブルク 春のベネルクス3カ国の旅編 撮影日記

首都ルクセンブルクからベルギーへは景勝ルートを走る
森と渓谷の国ルクセンブルク
ヨーロッパで最も古いショッピングアーケードのひとつ、ブリュッセルのギャルリ・サンチュベールで撮影していた時のこと。
翌日からベネルクスの旅3カ国目となるルクセンブルク大公国での撮影に入ろうとしていた我々に、耳を疑うようなニュースが飛び込んできた。なんとルクセンブルクの前大公が亡くなり、葬儀のため街の中心部が立ち入り禁止になるというのだ。葬儀が開かれるのは2日後。ちょうど街の撮影を予定している日だ。そもそもルクセンブルクの撮影は土日と重なっていたため、列車のダイヤが少なく、さんざん悩んだ挙句にひねり出したスケジュール。それを急遽組み替えなくてはならないのか…。ギャルリ・サンチュベールの店に置かれた試食用のチョコレートが急にしょっぱく感じてきた。
翌日、本来ならベルギーとルクセンブルクの国境の街アルロンの撮影を行う予定を変更し、一気にルクセンブルクへと移動。半日足らずで街の撮影をすることに。きっと街中物々しい雰囲気になっているのだろうと思いながら駅を出ると、意外にも穏やかでのんびりとした空気が流れている。半旗が掲げられ、街のシンボルのノートルダム大聖堂は葬儀の準備で撮影できなかったが、幸いにも他は問題なく撮影できるようで、ほっと胸を撫で下ろす。
ルクセンブルクは、神奈川県と同じくらいの大きさで、人口およそ61万人の小国。知名度こそ低いが非常に魅力溢れる国だ。1970年代初頭の石油危機以降、金融サービス業中心の産業構造に転換し、今では世界屈指の経済大国となった。確かに街の人たちは皆どこか上品で、立ち居振る舞いも優雅に見える。
何より心を掴まれたのは、首都ルクセンブルク市の景観だ。ここは「北のジブラルタル」の異名をもつ頑強な城砦都市。渓谷、川、断崖を利用した天然の要塞が、侵略や戦争から街を守ってきた。渓谷には中世の面影を残す街並みが広がり「その古い街並みと要塞群」は世界遺産にも登録されている。自然と歴史的建造物が織りなす絵画のような風景。“中世にタイムスリップしたような”とはありふれた言葉だと思っていたが、歩いていると本当にそんな感じがしてくる。今回は慌ただしいロケになってしまったが、ルクセンブルクの美しい風景はしっかり心に刻んだ。またの来訪を心に誓い、日暮れの街を後にする。
ディレクター 廣澤 鉄馬
ルクセンブルク市のボックの砲台と旧市街
要塞跡は観光スポットになっている