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オランダ・ベルギー・ルクセンブルク 春のベネルクス3カ国の旅編 撮影日記

シント・トロイデンのウィルデレン醸造所
旅への感謝
ルクセンブルクから国境を渡り、ベルギーワロン地方の中心都市リエージュへ向かう。この路線は山間部の川沿いを走る景勝ルート。山あいに点在する集落、山裾に広がる牧草地、確かに美しい風景だが、木々が車窓を遮り撮影するのはなかなか難しい。
美しい景色を逃すまいと、撮影の杉山さんが鋭い眼光でカメラを構える。彼はカモシカのような細く長い脚と無尽蔵の体力の持ち主。撮影の合間もスマホで写真を撮っている根っからのカメラマンだ。逆側の席ではビデオエンジニアの遠藤さんが亀のようなどっしりした体で窓の汚れを拭いている。美しい映像にこだわって細かい仕事もこなす頑張り屋。車掌から「彼を窓拭きで雇いたい」とスカウトされるほどだ。コーディネーターはオランダ人のマイケさん。気配り上手で相手の微妙な心情を汲み取れる、日本人より日本人っぽいオランダ人だ。
午後6時、リエージュに到着。もう夕方だが、スケジュールを考えると少しでも撮影しておきたい。ここは古くから鉄鋼業で栄えた街。今は観光業にも力を入れ、至る所で建物の修復工事が行われている。撮影場所に悩んでいると、運転手のフェリーさんが「任せろ」と車を走らせた。彼は巨漢で強面、黒スーツにサングラス。ただ者でない風貌だが、気は優しく仕事熱心。その彼が我々を待つ間に下見してくれていたのだ。なんと心強い運転手だろうか。
そうした皆の協力もあり、ここまでロケは概ね順調に進んだ。だが1つだけ心残りがある。それはビールの取材だ。ベルギーでビールは外せない存在だが、予定が合わずなかなか取材できないでいた。すると、マイケさんが沿線の街シント・トロイデンにある醸造所*の取材を取り付けてくれた。そこは国際的なコンテストで金賞に輝いたこともある17世紀から続く歴史ある醸造所。併設のバーは多くの人たちで賑わっていた。お祝いムードの人たち、仕事帰りの人たち、各々が思い思いにグラスを傾けている。
ベルギービールは1500種を超える多彩さや、その発展の歴史、ビール造りへの情熱などが評価され、2016年にユネスコの無形文化遺産に登録された。醸造所のオーナーは「我々にとってビールは生活の一部。それこそがベルギーのビール文化なのだ」と、酔いしれる人たちを見ながら満足げに話してくれた。
オランダ、ベルギー、ルクセンブルク。3カ国合わせても日本の面積に満たない小さな国々。しかしそこには、豊かな文化があり、自国への大きな愛と誇りが満ち溢れていた。
*ウィルデレン醸造所:Brewery & Distillery Wilderen
ディレクター 廣澤 鉄馬
醸造所のオーナー
ルクセンブルクからリエージュを目指す