世界の車窓から

トップページ > 撮影日記

花とアルプス 初夏のスイス登山鉄道の旅編 撮影日記

三名山を眼前に進むユングフラウ鉄道
スイス登山鉄道と圧巻のユングフラウ
今回のスイス編では、数多くの登山鉄道を紹介している。
登山鉄道というのは、自走で山を登っていく列車のこと。急な斜面では2本のレールだけだと滑り落ちてしまうため、真ん中にもう1本、歯車の形をした「ラックレール」が敷かれ、電車の下に取り付けられた歯車と噛み合う事で逆走するのを防いでいる。
この「ラックレール」の上を走ると、独特の振動が伝わってくる。なんだか列車が一生懸命、山を登っている感覚が伝わってきて心地良いのだが、撮影する側からすれば足下が安定せず撮りづらい。なるべく振動を足で吸収しながら、手ぶれを押さえようとするカメラマン。東京の満員電車で鍛えられた足腰が、こんなところで役立つとは思わなかったとこぼしていた。
今回、登山鉄道の中でも一番楽しみにしていたのが、インターラーケンからユングフラウヨッホへ向かう列車。標高567メートルのインターラーケン・オスト駅を出発して、目指すのは標高3454メートル。とんでもない標高差を、わずか2時間ほどで登っていく。
撮影の日は、運良く朝から雲一つ無い晴天だった。期待で胸が高まる。2つ目の駅、クライネ・シャイデック駅(標高2061メートル)が近づくと、アイガー、メンヒ、ユングフラウのスイスを代表する3つの名峰が目の前に現れた。その堂々たる姿は、まるで3体の巨人のようだ。
これほど「雄大」という言葉がピッタリな山並みは見たことがない。まさに自然が長い時間をかけて作り出した大絶景に言葉を失った。
電車は、アイガーの山腹に掘られたトンネルへと入っていく。全長7.1キロ。当初はユングフラウの山頂に駅を作ろうとしたそうだが、さすがに困難だと判断して、少し麓の平らなヨッホ(ドイツ語で「肩」)の場所に現在のユングフラウヨッホ駅を作ったという。その作業は想像を絶する困難だったに違いない。何百人もの観光客を乗せて悠々と3454メートルまで登っていく列車に揺られながら、工事を成し遂げた人々に敬意を表するとともに、スイス人の意地のようなものを感じた。
ディレクター 岩田有正
ラックレール
アルプスの麓を走る登山鉄道 シーニゲ・プラッテ鉄道