世界の車窓から

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花とアルプス 初夏のスイス登山鉄道の旅編 撮影日記

朝のニーゼン山とシュピーツ駅
スイス絶景探しの旅
スイスの撮影は3週間に及んだ。
これまで「世界の車窓から」では、スイスを何度も訪れている。真夏や冬場など季節も様々だ。おそらく、過去にスイス編を担当したディレクターの大半が悩まされたであろう、「スイス基準」というプレッシャーが撮影中ずっと重くのしかかっていた。
スイス基準、つまり「スイスは美しくて当たり前」なのだ。
確かにスイスは美しい。車窓からの眺めはどこを切り取っても絵になる。しかし約2分間の番組で美しい景色をただ見せるわけにはいかない。“得も言われぬ絶景”を、視聴者の方達は期待しているだろう。
スイスの美しさを際立たせるため、こだわったのは山の撮り方だ。山が綺麗に写るかどうかは、太陽の位置が重要。逆光だと真っ黒になるし、順光過ぎても美しくは撮れない。とはいえ電車の走る時間は限られている。山の向きや太陽のルートを調べてベストな時間帯を割り出し、時刻表を確認して撮影のタイミングを決め、最後は天気に望みをかける・・・という事を幾度となく繰り返した。
登山鉄道の撮影では、始発の列車に乗って山頂まで上がり、お昼過ぎには下山するというのが基本的なスケジュールだった。なぜなら、山の天気はだいたい午後から崩れる事が多いからだ。ユングフラウヨッホ駅なんかは、晴天に恵まれ撮影がすぐに終わったため、滞在時間はわずか1時間。現地ガイドさんにも「え、もう降りるんですか?」と驚かれた。観光で訪れた際にはゆっくりしたいものである。
一方で、ピラトゥス鉄道の撮影では始発で山頂にたどり着いたまま、夕方まで降りる事が出来なかった。霧が濃く、展望台からの景色が見えなかったのだ。下界が晴れるのを待つこと約9時間、山頂付近は雲がどんどん形を変えながら風に流れていく。その時、思いもよらない幻想的な光景が現れた。登ってきた列車のちょうど真上だけ雲の切れ間ができ、スポットライトのように光が差し込んだのだ。まるで山全体が大きな劇場のように、絶景を作り出した瞬間だった。
本当の絶景というのは、偶然が重なった瞬間にだけ見られる事が多いように思う。
まだ誰も見たことがない絶景を探しに、皆さんもスイスを訪れてみてはいかがだろうか。
ディレクター 岩田有正
9時間待ったピラトゥス鉄道
晴天に恵まれたユングフラウ鉄道