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ベトナム南北縦断1800キロの旅 撮影日記

手漕ぎボートで川下り
チャンアンのボートツアー
ベトナムに来て2週間、旅も終盤に近づいてきた頃、北部の街・ニンビンを訪れた。ここは石灰岩質の奇岩が連なる風光明媚な場所。中でもチャンアンと呼ばれる地域は、手漕ぎボートで川下りしながら優美な自然を楽しめる近年人気の観光地だ。この日は現地のドローンカメラマンを頼んでいた。彼の名はチーさん。どことなくサッカーの吉田麻也選手に似た30代の男性で、チャンアンでは過去に何度も撮影をしたことがあるとのこと。これは頼もしい。
だがいざボート乗り場の事務所に向かうと、ある問題が浮上した。事前に許可を取っているのに、なぜか撮影はダメだと言われる。ロケに同行してくれている外務省のズオンさんが、許可証を手に交渉してくれていたが、どうも厳しそう。するとズオンさんが「ちゃんと許可証はあるので問題ありません。機材はリュックの中に隠して、ボートに乗りましょう!」と提案してくれた。なんと熱い台詞だろう。言われた通り最小限の機材をリュックに入れて、うまくボートに乗り込んだ。
ボートでは、定員の関係で2班に分かれることになった。私はチーさんとズオンさんと一緒のボートだった。コーディネーターの新妻さんがカメラマンの平林さん・青木くんたちの方に乗ったので、チーさんへの指示は私が行わなければならない。英語は苦手なので不安だったが、翻訳アプリを使ってやりとりすることを思いついた。「岩肌を撮って下さい」とか「高く上がって下さい」とかいう文言をベトナム語に翻訳して伝える。その度にチーさんは顔色一つ変えず「OK」と呟き、指示通りの映像を撮ってくれる。意外と何とかなるものだ。
一つ誤算だったのは、コースをまわる時間。なんと最低でも2時間半はかかるという。早く漕がないと次の予定に間に合わないため、皆でゼーゼー言いながら漕ぐはめになってしまった。幸い、2時間ちょっとで陸に戻れたのだが、ほどなくして皆が口をそろえて「太ももが痛い」と言い出した。言われてみると確かに太ももが張っている。漕ぐ腕よりも、踏ん張る足に負担がきたようだ。そんな中、去年還暦を迎えた新妻さんだけが「僕は全然痛くありませんよ」と言っていて、場は和やかな笑いに包まれた。
ディレクター 寺村 南希
岩肌
ドローンを操縦するチーさん