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ポーランド編 撮影日記

「美しいヘレナ」ことpm36-2
不滅の蒸気機関車
ポーランドを走る蒸気機関車の大半は期間運行の観光路線だが、唯一、生活路線を年中走っている所がある。ポズナンとウォルシュティンをつなぐ路線だ。ウォルシュティンには大きな機関区があり、日に2往復、平日のダイヤに蒸気機関車を組み込んでいるのだ。これに乗らない手はない。 冷え込む朝のホームで列車の到着を待っていると、深い霧の中からゆっくりとその姿を現した。黒光りしたお馴染みのフォルムが、もくもく煙をあげながら近づいてくる。圧倒的な存在感。無条件に格好良い。汽車から次々と乗客たちが降りてくる。そのほとんどが通学や通勤での利用者だ。この路線はあくまで生活路線。蒸気機関車の横をフォーマル姿の人たちがごく自然に歩く様は、なかなかお目にかかれない光景だ。
ウォルシュティンの機関区には、計12台の機関車が置かれている。全てしっかり整備された現役のものばかり。中でも有名なのが、pm36型の蒸気機関車だ。動輪直径2m、最高時速130km。ポーランド製の蒸気機関車で最も高性能と言っても良いだろう。元々2台作られたが、現存するのは2号機のみで、2号機は「美しいヘレナ」の愛称で知られる。しかし、有名になったのは実は1号機の方。1号機は流線型のカバーがボディを覆っていて、その高いデザイン性と優れた性能が評価され、1937年に開かれたパリの技術博覧会でグランプリを獲得したのだ。その快挙にポーランド中が大いに湧いたそうだ。当時は蒸気機関車が隆盛を誇った時代。利用客も今より多かったらしく、どんな時でも通信出来る様、鉄道専用の電話局まで設置されていたと言う。
機関区にはたくさんの人が見物に訪れていた。子供から大人まで男女問わず、目を輝かせている。こんなに世代性別を越えて愛されるものが他にあるだろうか。時代の変遷と共に数を減らしている蒸気機関車だが、彼らがいる限り今後も無くなる事はないだろうし、そう願いたい。
ディレクター 廣澤 鉄馬
石炭をくべる機関士
流線型のフォルムが美しいpm36-1