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ポーランド編 撮影日記

ビャウォヴィエジャの森に横たわる大木
復元の美学
ポーランド北東部の湖水地方を抜け、ベラルーシにほど近いビャウィストクの街に到着した。ここは世界遺産ビャウォヴィエジャの森の玄関口。ビャウォヴィエジャの森は、ヨーロッパに残された最後の原生林と言われ、今回のロケで最も楽しみにしていた場所の一つだ。
現地ガイドに案内され、森の中に足を踏み入れる。鬱蒼と茂る樹々の間から、ひんやりと湿った空気が苔の匂いと共に流れてきた。風で揺れるかすかな葉の音と鳥の声以外は何も聞こえない静寂の世界。なんだかその世界を壊しそうで、つい小声で話してしまう。木は思ったより若い。湿地で地面が緩く、台風ですぐ倒れてしまうらしい。それでも古いものは樹齢600年を超えるという。森の奥へと歩を進めると、眼前に巨大な黒い固まりが見えた。折れた巨木の根元の様に見える。だとすると他の木とは段違いの太さだ。大物発見とばかりに近づいてみると、そこには目を疑う異様な光景があった。黒い固まりは土で、そこから横にまっすぐ木が生えている・・・と思ったら、どうやら木の根っこが周囲の土ごと持ち上げて倒れたようだ。すると、ガイドがその木の前で説明を始めた。「私たちの役目はこの原生林を保護する事。でもそれは原生林を破壊から守ったり、整備したりする事ではない。本来の原生林の姿というのは、人が手を加えなくても、自らの力で再生していくものだ。その本来の姿を守っていくのが使命だと思っている。」
僕はそれを聞いて、はっとした。その精神はポーランドの国そのものに当てはまるからだ。この国の人々は、戦争で破壊された街を元通りに復元してきた。ワルシャワはその代表例であり、壁のひび割れ一つまで忠実に再現されているそうだ。それはつまり本来の自分たちに対する誇りの表れ。ワルシャワの歴史地区が世界遺産に登録されたのも、その情熱が評価されての事とも言われている。ビャウォヴィエジャの森は、そんなポーランドの本来の姿を大切に守る精神を僕に教えてくれた。
ディレクター 廣澤 鉄馬
ビャウィストク駅に停車中の列車
壁のひび割れまで再現された首都ワルシャワ