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  reported by
宮嶋泰子

世界水泳ローマ、シンクロの全競技が終了しました。
チーム・フリー演技では日本は6位でした。


連日の灼熱地獄と日本のあまりに悪い成績に呆然としています。
虚脱感・・・


メダルを獲るのは厳しいとわかってはいました。
でも4位、どんなに悪くても5位はキープするだろうと言うのが事前の読みでした。


見事に裏切られました。
カナダとイタリアの下、6位という成績です。


このままの成績では2012年のロンドン五輪に出場できなくなってしまいます。


以前にもこのコーナーでお伝えしましたが、オリンピックでチーム演技にエントリーできるのは8カ国だけです。5大陸の代表と、残り3カ国です。欧州、アジア、オセアニア、アフリカ、アメリカ大陸のそれぞれの代表と残りの3カ国です。


欧州代表は開催国の英国とすでに決まっています。
そうなると残り3つの枠を、ロシア、スペイン、イタリア、フランス、ウクライナなどと日本が競い合うのです。


メダルを獲るのが当たり前だった日本のシンクロ。
それが、オリンピック出場も危ういとは・・・
一体、なぜこんなにがたがたになってしまったのでしょうか。


まずその前に、ローマで起こったことをしっかりチェックしておきましょう。
元世界チャンピオン立花美哉さんに振り返っていただきます。






元世界チャンピオン立花美哉の眼 その9 
7月25日「チーム・フリー」


立花美哉さん  

1位 ロシア:




ロシア

チームテクニカルは8人中7人が新人でしたが、このチーム・フリーにはダビドワ、ロマーシナ、イシェンコが入りました。


「凄い!」の一言です。
ラストの足技は、構成も同調性も、審判に最後に点数を握らせるキーポイントになっています。あれはなかなかできない。タチアナ・ポクロフスカヤ万歳!


タチアナ・ポクロフスカヤコーチならどんなに選手が入れ替わってもやってくるだろう、そう思わせるほどの指導力があります。


ポクロフスカヤコーチから指導を受けるロシア選手たち

北京五輪の時と比べると、技の決まりやスピード感は甘さが出ましたが、演技を見たときに、「これって何のフォーメーションか?」と悩まぬことがないほど、隊形がクリアーでした。これが凄い!



2位 スペイン:




スペイン

「恐怖の館」を表現。水着には骸骨の絵が描かれています。
お化粧も死人のように、口紅は暗い紫色です。


彼女たちが徹底したいものは、ものすごく感じ取れる内容でした。
ただ、ロシアとの勝負をかけるにあたり、スポーツ的な技の切れや、泳ぎのスピード感がかけていたのは残念です。


強いて言えば、ショーに近い感じがしますね。


印象に残る部分は、振り付けに関してたくさんあります。
ただ、ロシアを上回るときには、技のクリアーさ、本当のテクニックを見せるものが必要なのかなと思いました。



3位 中国:




中国

黄河。中国の壮大なイメージを表現。


スペインより中国のほうが良いのではないかと思ったほどです。
出来としては五輪のときよりも正確性同調、切れ、完遂度は低くなってしまっています。
しかし、構成の面で見せ場が非常に豊富です。


なおかつスポーツ的なところを持ち合わせているので、スペインと同じ点数を上げたジャッジがいたのも頷けます。


決勝より予選のほうが切れがありました。
構成が彼女たちの恵まれた身体を生かしたプログラムであることは間違いありません。


観客から大歓声を受け、得点に対して、「低い」とブーイングが出たほどです。


中国



4位 カナダ:




カナダ

12干支 チャイニーズアストロロジー
いろんな動物が次から次に出てきます。


北京五輪のときと同様のものをやっていますが、あのときよりも良くなっています。
一つ一つの足技に切れがある。そこが見違えるように変わりました。


構成に関して好き嫌いがあるでしょう。


凄いなと思ったのが、北京に比べると脚一本上げるスピードが上がっていることです。
技の切れがシャープになって、北京ではだらしなかった部分が良くなっています。


どんな試合会場に行っても、カナダが必ずチューブトレーニングやインナーマッスルを鍛える陸上トレーニングをしている姿を見かけてきましたが、まさのその効果が現れていると言うことでしょう。


カナダ

北京五輪の前からコーチが変わりました。シルクドソレイユにいた方です。
その方の10歳年上の姉が一緒にコーチをしています。知る人ぞ知る、カナダ黄金時代を率いていたコーチです。
姉妹コーチでカナダは本気になっています。



5位 イタリア:




イタリア

イタリアの生活を表現。曲はゴットファーザーとアルトマイズ

リフトの高さ、スピード、バラエティーに富んでいます。
ただ構成はシンプルで、フォーメーションの並び、同調性、技の完遂度、すべてあいまいでした。

ただ、この大会の流れに乗っているイタリアが日本を上回ったと思うしかない。この勝敗を分けたのは、3日目のソロからイタリアが表彰台に上り、流れをつかんだことがあげられるでしょう。


インタビューゾーンでは「次はカナダを倒したい」と言っていたそうです。



6位 日本:

 
日本

この大会は日本にとって、小さなスキを見せてはダメな大会なのに、本日のフリーの演技は、非常に大きなスキを数箇所見せてしまいました。これはではチームの弱さを見せてしまっています。


今のスキを具体的に言うと、「これって何をやりたいんだろう、これって何の形?」と見ているものが迷うほどクリアーにできていません。コーチが作ろうとした形ができていないのです。あわせ切れていない、仕上げ切れていないという状態です。
毎日演技を見ているものはいざ知らず、ジャッジや素人が初めて見た時にわからないでしょう。
それが今回イタリアに負けてしまった原因だと思います。


世界の流れとして、フリーとテクニカルでは構成の仕方が違うべきだと思います。それぞれに目的が違うので、構成が変わってくるのは当然です。日本のフリーの構成は、非常にテクニカルルーティーンに近い作り方で、フリールーティーンならではのハイライトが少ないように感じます。


誰もが印象に残る見せ場、遊びが見られません。
今の流れではこうした構成の作品にはジャッジは点を出してこないように感じます。



7位 フランス:




フランス

朝の庭にいろんな虫たちが
出てくる様子を楽しく演じました。


決勝では、予選から一点あがりました。アメリカとウクライナを越しました。
日本のすぐ後ろの順位です。。


凄く素敵なルーティーン。
技の切れの甘さ、同調性の甘さはありますが、何かに挑戦していって、一つ一つ積み上げていると言う感じがわかりました。



8位 ウクライナ:


スパルタカス
スピード感もなくいいところがあまり見えませんでした。



・米国:


7つの大罪がテーマSeven Deadly Sins
アメリカらしい内容でした。個人的にはこの作品が嫌いではありません。
出だしの一連は非常に美しい。
ただ、演じる上で、技のきれとか同調性のあいまいさ、フォーメーションの正確性に欠けているのが非常にもったいないですね。



・北朝鮮:




北朝鮮

2000年のシドニー五輪、2001年の福岡世界水泳でロシアがやった「禿山の一夜」を使いました。最初のリフトからロシアが使っているものをそのまま使っているので、これはまねをし過ぎかなと思います。


練習に比べると技の切れが悪くて、もう少しできるのにと思った。



・イギリス:

 
イギリス

アメリカンインディアンがテーマ
水着はインディアンの羽を現しています。


感心するのは着実にコーチが選手を育てているのがこの1年間でよくわかった。
今の泳ぎに技のきれとかスピードが加わってくるとまた違って見えるだろうなと思われます。



・ブラジル:


ブラジル

日系移民100周年にちなんだテーマで、水着には日の丸、五重の塔が描かれています。
日本の高貴さややさしさを現したいといっています。リフトは折り紙を表現。


ブラジルのジャンパーは素晴らしいです。まるでゴムマリのように跳ねる、飛ぶ。
あのスピードはなかなか出せません。


それプラス、中盤に足の裏に直接乗って立っている部分があります。全く支えなしで立っています。あれにはびっくりです。あんなリスクの高い技は、今大会一番の驚き。人間業じゃない。そのくらい凄いです。恐ろしく運動神経がいい選手が乗っているんでしょうね。


結果、スコアーの詳細はこちらからご覧ください↓
世界水泳・公式結果掲載サイトです。


表彰式






世界水泳、シンクロナイズドスイミング競技を振り返って


立花美哉さん  

一番素晴らしいと思ったのは、どんなに選手が変わろうと、ロシアのタチアナ・ポクロフスカヤは最低限のところまで選手を育てているということ、それが素晴らしいと思いました。


選手が若返ったことを言い訳にしている日本と、それを克服しているロシアの違いをものすごく感じました。関係者はロシアをよく見るべきでしょう。


決勝では必ずピンクを着るタチアナ・ポクロフスカヤコーチ

大会のジャッジに関しては、良いものにはいい点数が出てきていたので、ジャッジも入れ替えようとしていることを感じました。決勝以外は先入観を持たずにやろうとしているのがよくわかって、見る側としても大変興味深かったです。


それは、日本もチャンスがあるということです。
見違えるように日本人のよさを取り戻すことと、スキを作らないこと。
変われば日本だってチャンスはあります。


一度与えてしまった印象をぬぐうまでには時間がかかるけれど、それを上回る成長がかぎになるでしょう。


とにかく選手の時間をもっと大切にしてあげて欲しいです。
シンクロ関係者は、選手一人ひとりの人生を握っていることを本当に考えて欲しいです。
自分が選手として全うして恵まれていたので、そう思います。


私自身、ワールドカップで4位に2回もなって、今、本当にそう思います。


93年のローザンヌワールドカップで、初めてシニアの試合に出た18歳のときのことです。川瀬さんとデュエットを組んで4位になってしまいました。


試合後、私1人が、コーチ全員とジャッジと委員長に呼ばれて、3時間攻められ続けました。


「今回の敗因は全部あんたや」と言われました。
自分がどうしていいかわからないほど混乱しました。
泣きまくって、最後、顔を拭けとタオルまで投げつけられました。


そんなことがあったから、本当に考えました。
若さと経験がないのは、いっさい理由にならないと。


あの時、みんなに徹底的に言われてよかったと今では思っています。
あれがあったら今の自分があるのです。
何があっても這い上がろうとおもいました。


そこまではっきりさせることも、あるときには必要かもしれません。


立花美哉









<宮嶋 泰子>
私はシンクロナイズドスイミングの専門家ではありません。
ただ、長い間シンクロを見つめてきた者として、いくつか思うことがあります。


海外の選手たちの練習を取材することも多いので、日本の特殊性がわかるということもあります。この緊急事態に、気づいたことを思い切って書いてみたいと思います。


シンクロの強豪国では今、二つのやり方が主流です。


一つは、ロシアに代表されるような、コーチ主導主義。
この場合のシンクロは90%以上がコーチの力だと思います。


立花さんと一緒に世界チャンピオンになった武田美保さんが、引退後、選手たちの練習を見ながらポツリとつぶやいたことがあります。


「選手のときは、全く気づかなかったけれど、シンクロはほとんどコーチが作るものなんですね。コーチの力がこれほど物をいうとは・・・」と。


ロシアをよく見てください。
立花さんも指摘していましたが、選手が次から次へと変わっても、王者の座を守り続けているのですから。
それは指導者の力です。


1997年から世界のトップに君臨する
ロシアチームを率いるポクロフスカヤコーチ


ダビドワ&エルマコワに続き、
イシェンコ&ロマーシナも立派なデュエットに
作り上げたダンチェンココーチ

もう一つはスペインに代表される選手たちのアイディアで作っていくシンクロです。


もし、「もう指導者にあれこれ指図されるのは嫌だ!指導者に頼るのではない自分たちで創作していける楽しいチームを作りたい」と思うのであれば、スペイン型を目指すべきかもしれません。


スペインには選手たちが自由にアイディアを出し合える環境が整っています。自分たちで作った演技を自分たちでモニターチェックしながら、コーチとともに構成を考えていく選手たち。おそらく世界中で一番、モニターを見ている時間が長い選手たちではないでしょうか。


アナ・タレスコーチは、選手たちのアイディアを上手にまとめて、芸術性をもとめてより良い振り付けを探っていく役割です。選手たちの中に眠る力を引き出すのがとても上手です。


アナ・タレスコーチ(スペイン)

ただし、アイディアを出すことは子供のころから常にやっていなければ、急に出てくるものではありません。これまで言われるままのことをやる訓練をし、覚えることを主眼とした日本の教育を受けてきた日本人には最も不得意な分野と言わざるを得ません。


何百年と外国のものを取り入れてまねをしてきた日本。
ある脳科学者によれば、日本人は創造力をつかさどる脳が著しく劣っているそうです。
そうかもしれないと頷いてしまうことが悲しいですね。


また、自分たちであれこれ作り上げる楽しさのためには膨大な時間が必要です。
スペインの選手たちは、まるで家族のように、一年中ナショナルトレーニングセンターで合宿をしています。もちろんベテランになれば近くでひとり暮らしをしていますが。
彼女たちは、繰り返し演技をしては、モニターで確認して、どうやればよいかを話し合い、作品を作り上げていきます。時間がなければとてもできません。


日本では一年中、同じメンバーで合宿をすることは、ほぼ不可能と言っていいでしょう。大阪や東京の大学に通う学生たちがほとんどで、今でさえ学校に通う時間のない選手たちばかりなのですから。


スペインチームの練習風景

また、海外に行って感じるのはコーチとジャッジの関係です。
コーチが主軸になってしっかりと選手を育て、ジャッジはたまに顔をだして客観的な意見を言います。ジャッジがコーチに命令したりすることはありません。そこに上下関係は皆無です。


また、強豪国でジャッジが大きな権限を握っている国はほとんどありません。あくまでも選手を育て、作品を作るのはコーチですから、現場の意見が優先されます。
ロシアのポクロフスカヤコーチを取材したときに実に興味深いことを言っていたのを思い出します。


「選手を選ぶ最後の決断をするときには、才能のある子よりも、がんばる子を選ぶ」と言うのです。
最終的には心です。
そしてその心というのは、まじかで常に見ていなければわからないものです。


ロシアに取材に行くと、すべて「タチアナに聞いて」と言われます。ヘッドコーチのタチアナ・ポクロフスカヤの意見がまず尊重されているのがよくわかります。


1997年からロシアに金メダルをもたらし続けている、その実績をみなきちんと評価しているのです。


日本にはメダルを獲り続けてきた素晴らしい伝統があるはずです。
なぜその土台を利用しないのか、不思議でなりません。


私は放送局で働くものとして、今回の結果に頭を抱えています。
シンクロが弱くなってしまうと、今後中継がなくなってしまうのではないかと、内心心配しています。


中継がなくなると、他の競技でも例があるように、さらにレベルが低下して、衰退してしまう可能性もあるのです。


お願いです。日本シンクロを再生させてください。


世界水泳ローマ2009公式HPはこちら >>
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