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  reported by
宮嶋泰子

現地7月18日、いよいよ世界水泳ローマのシンクロナイズドスイミングが始まりました。
初日はチームのテクニカル予選です。
テクニカル・ルーティーンと言うのは、決められた要素(エレメンツ)を順番に入れながら構成を作って演技をしていくもので、選手としてはエレメンツが失敗しないかとても不安になる嫌な種目だそうです。


そんな中、今回世界水泳で初の金メダルを狙うスペインチームが、最初の試合中に、水中スピーカーから音楽が聞こえなくなるトラブルによって、演技中断というアクシデントがありました。
しかし、演技後選手たちにインタビューをしてびっくりでした。
「こんなことそうあることじゃないし、めいっぱい楽しんだわ!」
「2度もできるなんて素敵なことよ」
「曲をとめて、最初からやりなおすなんて、いつもナショナルトレーニングセンターでやっていることと同じじゃない。ぜんぜん動揺なんてしないわ」
見事なプラス思考です。
これぞスパニッシュウェイ。
ケ・セラ・セラ!
人生なるようにしかならない、楽しんでいこう!ですね。


放送席解説の原田さん(中央)と角澤アナ(左)

実況は角澤照治アナウンサー、解説は北京五輪デュエット銅メダリスト原田早穂さん、そしてインタビュアー宮嶋泰子で放送をお送りしていますが、実は私たちには強力なアドバイザー、立花美哉さんです。
その立花さんの眼で今日も、試合を分析していただきます。


テクニカル・ルーティーンの採点は、決められた要素に対する評価がエクスキューションと呼ばれ、全体の印象がオーバーオールインプレッションと言われて点数が出されます。


それでは、立花さんに初日のチームテクニカル予選を分析していただきましょう!






元世界チャンピオン立花美哉の眼 その2 
7月18日「チーム・テクニカル予選」


立花美哉さん  

総評:
北京からの入れ替わりでどの国も苦戦していることがわかります。
その中で、ロシアは8人中7人が変わっているにもかかわらず、最低限のミスで抑えてくるコーチ力の圧倒的な違いを感じました。


世界の差が本当に僅差になってきたことを痛切に感じます。
エジプトでさえ、北京五輪に比べて上達しており、上位チームの点数の差もなくなってきています。
今後は大会毎に順位がめまぐるしく変わっていくことが予見されますね。
日本にとっても下に食われるだけではなく、上に上がれる可能性を秘めているということ
と解釈していきましょう。
それでは演技を行った順に、それぞれの国の出来を振り返っていきましょう。


★ 米国


米国

予選では1番の出番だったのが米国です。かつての黄金時代を知るものとしては、エクスキューション(要求される要素への評価)に9.0で出てしまったことに寂しさを感じました。
五輪の演技だったので、構成はトップレベル。しかしそれを泳ぎこなす選手たちの力が不足しています。
小さな同調性のミスが多々あり、切れやスピード感が感じられませんでした。


EX: 9.2 9.3 9.3 9.0 9.5
OI: 9.3 9.4 9.3 9.4 9.4



★ イタリア


イタリア  

地元の大声援に後押しされて、一人ひとりのパワーがプールからあふれんばかりに出ていました。存在感が凄いです。
構成がまだ難易度の密度が足りないかなと思います。
エレメンツの正確性はまだ欠けていますが、今回エクスキューションのスコアーでは日本を上回りました。その進歩には脱帽です。


EX: 9.4 9.5 9.5 9.4 9.5
OI: 9.2 9.4 9.4 9.5 9.4



★ 中国 


中国

北京と同じ演目なので、そのときと比べると同調性やスピード感がかなり欠けているのが目に付きました。
ただ、面白かったのは観客から「ビューティフル!」と言う声が何度もかけられていたことです。
選手たちの脚の線がきれいなのと、それを巧く見せる構成になっていることを再認識しました。
ロシアやスペインのようなばたばたしたものではなく、演技の密度をゆるくしたことで、より脚の美しさが際立って見えるのだろうと見ながら納得しました。
ロシアが一番だからと言って、ロシアのまねばかりしていては自分たちのいいものはできません。自分たちの良さは何かを考え、それを生かす構成を考えていくことがもっとも大切なのだと再認識しました。
点数を見たときに、スペインのエクスキューションと同じ点数を上げているジャッジがいました。これは今後怖いですね。そういうイメージができてしまったと言うことでしょうか。


EX: 9.6 9.7 9.6 9.5 9.6
OI: 9.5 9.5 9.7 9.7 9.6



★ 日本


日本  

出だしのカデンスアクションは構成が面白いので観客受けも好かった。しかし、クリアーな部分もありつつ2ラップ以降は同調性の乱れやパターンの不確実性が目立った。日本の「技術はしっかりしている」と言うこれまでのイメージは今回は見られなかった。
エクスキューション(規定要素の確実性を見る)では9.2を出したジャッジがいた。平均すると9.4と言うスコアーだったので、もう一度何を求めていくかを再考する必要があるだろう。
逆に言えばオーバーオールインプレッションで中国よりも高得点を出しているジャッジが2名いたことは、構成的に評価できるところがあると判断してよいだろう。


EX: 9.5 9.4 9.4 9.2 9.4
OI: 9.6 9.6 9.7 9.6 9.5



★ スペイン


スペイン  

音楽が中断してしまうハプニングがあったにもかかわらず、それを逆手に取り生き生きと演技していたのが印象的でした。
後半のエレメンツで同調性が乱れたので、エクスキューションでスペインとしては低い9.6が出てしまいました。


EX: 9.7 9.7 9.6 9.7 9.7
OI: 9.8 9.8 9.8 9.8 9.8



★ カナダ


カナダ  

上半身の高さ、特にエッグビーターがクリアーで非常に印象に残りました。
練習に比べ、本番の出来がとてもよかったです。
特に出だしの脚でカデンスをしたときに、脚のひざを入れるときに、見ているものにも力をめいっぱい入れているのがわかるほど力強かったです。
ただ難点を言えば、この演目は美しさを追求するシンクロのテーマとしてふさわしいか疑問です。
オーバーオールインプレッションで9.3が出てしまうのはそのせいでしょう。
メイクでも眉毛を濃く描き、もみあげを作って、男性らしいポーズをいくつも入れています。
過去のシンクロのテーマには決してなかった力強い男性を表現するプログラムですが、賛否両論があると言ってもいいでしょう。
今の時代はテーマがあったほうが泳ぎやすいし見やすいですが、そのテーマが演目を披露する地域で好まれるものかどうかをしっかりリサーチする必要もあるでしょう。


EX: 9.5 9.6 9.4 9.6 9.6
OI: 9.5 9.3 9.6 9.6 9.5



★ ロシア


ロシア  

前半の1ラップめのスピード感は見事でした。
観客の顔が左から右に動くのを感じたほどすばやい動きでした。
北京からの選手はナセキナだけで、他は全員新しい選手です。
したがって、北京に比べると同調性の乱れ、不確実性はもちろん見られますが、マイナス点をつける部分を最低限に抑えてくるのがロシアで、そこがポクロフスカヤ監督の腕によるものであることは明らかでしょう。
他の国との大きく違うところはまさにそこです。


EX: 9.8 9.8 9.8 9.8 9.8
OI: 9.7 9.7 9.9 9.8 9.9







<宮嶋 泰子>
皆さんいかがでしたか?
私も立花さんのお話を、なるほどなるほどとうなづきながら聞いておりました。
さすが元世界チャンピオンは見るところが違いますね。
さて、それではここで、採点競技には欠かせないジャッジ構成をご紹介いたしましょう。
この得点はどこの国の審判が出したのかと細かく見ていくと、国のせめぎあいがわかって、よりシンクロを楽しめますよ。

ジャッジ構成
EX: 1.GRE  2.CHN  3.ARU  4.ESP  5.USA
OI:  1.GER  2.DOM  3.JPN  4.BRA  5.FRA

世界水泳では予選の順位は直接決勝に持ち越されるものではありません。
しかし、翌日の決勝の参考にはなると思われるので、記載しておきます。

1位 ロシア
2位 スペイン
3位 中国
4位 カナダ
5位 日本
6位 イタリア
7位 米国
8位 ウクライナ
9位 フランス
10位 北朝鮮
11位 ブラジル
12位 オランダ

以上12カ国が決勝に進みます。

私が個人的に興味深く見たのは、9位で決勝に進んだ北朝鮮です。
4年前のモントリオールの世界水泳で、スクール水着で練習し一躍日本中のアイドルとなったワン・オックンも健在です。
2005年のモントリオールの時にはチームは13位で、あと一歩で決勝には残れませんでしたが、回を重ねるごとにランクを上げてきています。
技術を見るエクスキューションで二人の審判が9点台を出し、コーチが感涙に咽んで倒れそうになり、選手が支えるという大変珍しいシーンに出くわしました。

 
北朝鮮はあいかわらずジャンプが得意

それでは、明日はチーム・テクニカル・ルーティーン決勝です。
新生マーメイドジャパンはどこまでやれるのか、お楽しみに。

 

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