このページについてのご感想  
トップ > 世界水泳2009
 
 
  reported by
宮嶋泰子

朝8時から夜8時までローマのプールのスタンドに座り、各国の練習を見ながら、立花美哉さんにお話をうかがいました。


立花さんといえば、北京オリンピックのシンクロ解説が大評判でしたので、その分析力の確かさは皆さんご存知の通りです。
2001年世界水泳福岡、デュエットで日本初の世界チャンピオンとなった立花さんは、2004年のアテネ五輪で銀メダル獲得後引退し、米国へコーチ留学をされていました。


選手時代からの冷静な眼、さらには留学で培った世界を見る眼で、シンクロ界を分析して私たちにさまざまなアドバイスをくださいます。
これから、連日続く大会の模様を立花さんに分析していただきながら見ていきたいと思います。


立花さんと一緒にシンクロをみるととにかく面白い!
シンクロって奥が深い!
こうやって見れば100倍楽しめること請け合いです。






元世界チャンピオン立花美哉の眼 その1 
7月17日「公開練習を見て」


立花美哉さん  

★カナダ:
外でランドドリルをしているところから見て、この試合にかけている気迫を感じました。
練習のときはまだばらばらしているところも見られ、日本の関係者が「あまりよくないわね」と言っていたのですが、本番で果てしなくパワーが出る選手たちなので、侮ることはできないでしょう。


今大会では日本を破ると言う大きな目標を持って臨んできています。
気迫があるチームは人の心を動かすので、一番怖い相手だと思います。
私たちも現役時代、「気迫」が一番大切だとよく言われてきました。
強い選手の周りには人を寄せ付けないオーラが出ます。
その意味でカナダはやるべきことはやったと言う感じがあふれ出ています。
練習を見て、今日一番勢いを感じたチームです。

 


★中国:
各国の練習を比べてみても、線の美しさが一番あります。
仕上がり具合や切れ感、技の正確性、後半の同調性などは北京オリンピックのときに比べてかなり劣っていますが、オリンピックのときと同じプログラムなので、銅メダルを取ったチームであると言う先入観が審判にもあるでしょう。


双子の蒋姉妹のデュエットに関しては、テクニカル・ルーティーンを見ましたが、彼女たちの持ち味の美しさが、要所要所で生かされているプログラムになっています。
後半の脚技で脚の長さをアピールしたり、エレメンツの立ち泳ぎが高くてクリアーであることなど、好感度が見える部分が数箇所ありました。
ただ、ロシアやスペインと比べるとプログラムの内容が詰まっていないので、すっきり感はあるものの、物足りなさは残ってしまいます。


中国のフリーコンビネーションは必見です。
選手たちは中国国内でも屋外プールで練習をしてきているので、かなり日焼けしています。あの白い水着がとても美しく映えるでしょう。
バレエ白鳥の湖と言う演目を水中で再現した構成力の高い振り付けになっています。
過去ここまでバレエの演目を忠実に演じたものはなかったでしょう。
シンクロファンならずとも一見の価値はあります。
昨年12月のマドリッドのワールドトロフィーでこの演目を見たジャッジの一人は、「感動して涙が出そうになった。シンクロもとうとうこの域まで来たのよ。」と言っていました。
水中バレエ、舞台で演じられている美しい物語を見るような満足感があります。

 


★ロシア:
ロシアのデュエットのテクニカル・ルーティーンは北京五輪後にエルマコワが引退したことで、ダビドワとロマーシナが組んでいます。しかし、パートナーが変わったという違和感が全くありません。
ロシアの素晴らしさはマイナス点をつけられない演技をすることです。
このプログラムに関しては、方向性としては北京五輪の時と同じで、目新しさはありませんが、完成されているものなのでマイナスする部分が見られません。


チーム・テクニカル・ルーティーンは北京五輪の演目と同じですが、メンバーはナセキナ1人を除いて全員が新人に代わりました。
それにもかかわらず、ポクロフスカヤ監督が目指すものはきちんと表現されていることに驚きを感じました。
選手が変わってもここまでできると言うのはまさにコーチ力です。
素晴らしいの一言です。

 

チーム・フリー・ルーティーンではリフトについてひとつ感じたことがあります。
北京までジャンプを一手に引き受けていたアンナ・ショリナが引退したことで、ジャンプするリフトに関してはすべて内容が変わり、難易度が低いものになっていました。
たとえば、以前はひねりを加えて後方宙返りをしていたものが、今はイシェンコを立たせるだけのスタックに変わってしまっています。
あのロシアでさえ、リフトは誰でもできるものではないという問題を抱えているということがわかり大変興味深かったです。


ソロはフリーもテクニカルも前回の世界水泳メルボルンのソロテクニカルの優勝者イシェンコが泳ぎます。
この世界水泳ローマで一番の戦いとなるのがソロ・フリーでのイシェンコとスペインのメングアルの対決でしょう。
イシェンコはかなり意識して芸術面を高めてきています。
イシェンコの長い手足を存分に生かせる白鳥の湖を選んできたと言うことにそれが現れていると言っていいでしょう。
強化していきた芸術面にプラスして、もともとイシェンコが持っている技術力が十分に生かせる構成になっている。
イシェンコはリスクが多いオリジナルフィギュアを入れています。
たとえば、レッグブースをしてからスピンにつなげるなどの高等テクニックがそれです。
ソロでこれだけ力が拮抗している二人が戦うというのは、大変興味深いですね。


<余禄>1994年、同じこのローマで行われた世界水泳の時には、ロシアがまだ台頭していない時代だったにも関わらず、ロシアのセダコワが黒鳥を演じて予選1位通過と言う誰も予想しない結果がありました。
また日本の奥野史子さんの「夜叉」の演技に対して決勝の芸術点で、1人以外はすべての審判が10点を出したということがあります。
アメリカ全盛期のことだ。
最終的に優勝したのは米国のベッキー・ダイロンとなり、奥野さんが日本選手として初の銀メダルを獲得しました。
このように、ソロは事前に読めない要素がたくさんあります。
フランスのデデューの例もあるように、国によって順位が決まるのではない面白さがあります。



★スペイン:
ジェマ・メングアルのソロの練習を見ましたが、彼女の手先から出ているエネルギーはたぶんこのプールの観客を引き込むでしょう。
これがいわゆるソリストなんだと言うことを実感しました。
ロシアのイシェンコとの勝負では、ジェマのほうが大人で、その魅力が出ていますが、テクニックになるとイシェンコのほうが上手です。
対決が今から楽しみ。
世界地図が変わる瞬間は一番面白く、興味がつきないです。


チームのフリー・ルーティーンは「恐怖の館」というテーマで、アフリカに比べると正直驚きはすくなかったです。ただ、スペイン独特だと思った構成は、最初の1ラッププールを横切るだけで、リフトが4つも入っていることです。
その4種類のリフトは全く違うもので、ジャンプもあり、人が人を持ち上げるものもありと、バラエティーに富んでいることに驚かされました。
チームフリーの面白いところは、ただまじめに泳ぐだけではなくて、人をどれだけ楽しませるかという構成力にかかっていると思います。
そういう意味ではスペインらしさが存分に出ています。
ロシアとの勝負をかけてこの新しい演目を作ったと思われますが、ロシアのフリーの完成度が高いので、どこまでスペインが立ち向かえるか、興味のあるところです。

 

フリーコンビネーションはロシアが出場しないことから、中国とスペインの一騎打ちになると思われます。
全くカラーが違うものなので、この勝負も面白いでしょう。
美しさを表現する白鳥の演技か、人を乗せるレッド・ツェッペリンの曲か、このローマの屋外プールで真昼間に行われる試合でどちらが人をつかむか、興味深いです。



★日本:
チームのテクニカル・ルーティーンについてまずお話しましょう。
大会の最初に行われるのがこの種目です。
テクニカル・ルーティーンは決められた要素が採点されるものですが、そのテクニカルルーティーンとはいえ、何をもって戦うのかという作戦が国それぞれにあります。
スペインは映画ハッピーフィートの音楽で人を乗せるプログラムです。
ロシアは前半のスピード感と完成度の高さが見ているものに感じられるプログラムです。日本は何で戦うのか、そのあたりをもっと明確にするとよりよいのではないかと見ていて思いました。

 

その他、練習を見ながら、よいと思った点を挙げてみましょう。
最初のカデンスアクションと呼ばれる、同じ動作を連続して行う部分がいいですね。
水面から脚を出してジャンプし半回転するスラストトワールは、高さはちょっと微妙ですが、クリアーさにおいてはどの国よりもあります。
部分部分のクリアーさはカナダなどにくらべてもあるので自信を持っていって欲しいです。


日本の選手たちに言いたいのは、おどおどせずに出て欲しいということ。
不安を持たずにこの試合に臨んでいる選手など1人もいないはずです。
今、持てる力をすべて出すように張り切って欲しいです。
それが人を引き付けられるかどうかなのですから。

 

世界水泳ローマ2009公式HPはこちら >>
---------------------

8/4 <武内絵美>
最終日・前夜
---------------------

8/3 <武内絵美>
イタリアのヒロインが
お隣に!
---------------------
7/31 <武内絵美>
人生初!決勝実況を
終えた吉野アナ
---------------------
7/30 <武内絵美>
「実況チーム」の
表情とコメントです!
---------------------
7/27 <宮嶋泰子>
このままではロンドン五輪に出場できなくなってしまう
立花美哉の眼 vol.9
---------------------
7/27 <宮嶋泰子>
18歳デュエット乾&酒井
立花美哉の眼 vol.8
---------------------
7/24 <宮嶋泰子>
ソロの女王は誰か
立花美哉の眼 vol.7
---------------------
7/23 <宮嶋泰子>
水の舞台
フリーコンビネーション
立花美哉の眼 vol.6
---------------------
7/22 <宮嶋泰子>
乾&小林が踏ん張る
立花美哉の眼 vol.5
---------------------
7/21 <宮嶋泰子>
歴史の地ローマで…
立花美哉の眼 vol.4
---------------------
7/21 <宮嶋泰子>
日本危ういスタート
立花美哉の眼 vol.3
---------------------
7/21 <宮嶋泰子>
シンクロ界の今を読む
立花美哉の眼 vol.2
---------------------
7/21 <宮嶋泰子>
公開練習から
立花美哉の眼 vol.1
---------------------
7/21 <加藤泰平>
世界水泳、こちらもお見逃しなく!!
---------------------
7/18 <宮嶋泰子>
いよいよ世界水泳ローマが始まります
---------------------
7/18 <宮嶋泰子>
シンクロ取材暦25年。心に残る6選手は… vol.3
---------------------
7/17 <宮嶋泰子>
シンクロ取材暦25年。心に残る6選手は… vol.2
---------------------
7/16 <宮嶋泰子>
シンクロ取材暦25年。心に残る6選手は… vol.1
---------------------
7/15 <宮嶋泰子>
日本期待の18歳デュエットに密着
---------------------
7/2 <久保田直子>
テレ朝1Fに『六本木ヒルズ・マーメイドプール』出現!
---------------------
   
↑ページトップへ
    
このページについてのご感想  
トップ > 世界水泳2009