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  reported by
宮嶋泰子

今回ほどソロの決勝の行方がどうなるのか楽しみだった大会はないかもしれません。
技術の王道を行くロシアのイシェンコか、表現力で観客をとりこにするスペインのメングアルか。


ソロ・テクニカルの女王ロシアのイシェンコ


初の個人金メダルを狙うスペイン・メングアル

すでにロシアのイシェンコは完璧とも言えるテクニックでこの世界水泳ローマのソロ・テクニカルのチャンピオンとなっています。しかしまだソロ・フリーのチャンピオンとなったことはありません。


一方のメングアルは、前回ソロ・フリー女王になれるかと期待されましたが、デデューが復活してきて、その夢はもろくも崩れ去りました。それだけに、今回にかける思いはひとしおです。


メングアルが優勝するためには技術力の底上げが必要と、テクニックを徹底的に見てきたのが、日本人コーチの藤木麻祐子さんでした。


藤木さんは2003年に単身スペインにわたり、今年、7シーズンめになります。
藤木さんにとっても、この大会は金メダルを狙う最大のチャンスとなりました。


ローマに乗り込んでからも二人で夜11時過ぎまでプールで練習する姿を見かけたほど、彼女たちがソロ・フリーにかける気持ちガ痛いほどわかりました。


クラシックな白鳥の湖で王道をいくイシェンコ
レイ・チャールズの曲で情感こめた表現をするメングアル


決勝では二人とも持てる力をすべて出し切り、得点を見つめる私たちも肩に力が入ってしまったほどです。


結果は、イシェンコが0.5ポイントの差で逃げ切りました。
ジャッジたちは王道をいくロシアの路線を選択したということでしょう。


それでは今日も、元世界チャンピオン立花美哉さんとともに、ソロ・フリーの模様を振り返っていきましょう。






元世界チャンピオン立花美哉の眼 その7 
7月23日「ソロ・フリー」


立花美哉さん  

1:ロシア
ナタリア・イシェンコ 23歳

 
ナタリア・イシェンコ

<予選>
テクニックが際立っています。それもリスクが大きいテクニックが多くあります。
たとえばオリジナルのスラストをしてからスピンに入るなど、高い難度のオリジナルフィギュアが多く入っており、テクニックの高さをみせつけています。
今回はそれプラス、白鳥の湖で、手足の長さを巧く使ってアーティスティックな面も表現しています。


<決勝>
一番凄いと思われるのは2ラップめの中盤ぐらいからレッグブースから入り、スピンの繰り返しに入るところです。あの完成度は素晴らしい。正当な技で戦うことができるし、オリジナリティーのある脚の使い方でも勝負ができることをしっかり示しています。


前年度に比べると勝負のできる幅が大きく広がりました。



2:スペイン
ジェマ・メングアル 32歳

 
ジェマ・メングアル

<予選>
メングアル特有のひざ関節の柔らかさを使った構成。
出だしのレッグブースの高さは、スピード&高さ&しなやかさがあり、驚かされました。
メングアルのカラーを前面に押し出しているソロ構成となっています。


イシェンコに0.5ポイント及ばなかったのは、リスクの大きいテクニックが少し感じられなかったからでしょう。


動きは面白くて、彼女しかできないものを感じましたが、テクニックは感じられず、後半スピードや演じ方が落ちてきて、アーティスティックの得点が伸びなかったと思われます。


インタビューゾーンで、「後半で水を飲んでしまった」と話していましたので、後半の演じ方が緩やかに感じたのはそのあたりに原因があるのかもしれません。


<決勝>
テクニカルメリットでは、イシェンコとメングアルは同点となりました。
アーティスティックでイシェンコに及びませんでしたが、これは構成において多様なものが入っているという意味でイシェンコが勝ったと考えられます。


身体の使い方や、体を使った表現の仕方はイシェンコが持っていない、メングアルならではの表現の仕方だと思います。


ひざの関節の使い方、手足を絡めた表現など卓越していますが、そのイメージが強すぎてバリエーションが少なく感じてしまったのかもしれません。


メングアルもイシェンコも二人ともトップにふさわしい選手だと思った。文句なし。
金メダルが二つ欲しい。



3:イタリア
ベアトリーチェ・アデリッジ 20歳

 
ベアトリーチェ・アデリッジ

<予選>
緩急のつけ方は巧いと感じました。


足技に関して、特にスピンなど荒さがあって正確ではありませんが、ソリストとしての存在感は十分にあると感じました。ジャッジや観客を食ってしまうような演じ方。これが彼女の素晴らしさでしょう。


<決勝>
予選3位で通過し、イタリア初のメダルがかかっていただけに、決勝はものすごいプレッシャーの中で泳いだと思われます。決勝前の練習では、スピンが倒れたまま修正できず、泣き出す一コマもあったほどです。


実際本番もスピンは軸が甘かったが、体全体から出る執念は感じられました。


結局、イタリアシンクロ始まって以来のメダルを獲得しました。
世界水泳ローマ大会におけるイタリア旋風はアデリッジから始まったと言っても過言ではないでしょう。



4:カナダ
クロエ・アイザック 18歳

 
クロエ・アイザック

<予選>
昨年のジュニア選手権でソロの2番に入っており、18歳の乾&酒井とともに試合をした選手です。


それでここに食い込んでくると言うのは、将来が怖いと思いました。
若いので、まだまだ将来時間があるという点では伸びていくのが楽しみ。


ブドローガニオンにソロテクニカルで銅メダルを取らせ、フリーで新人を売り込む、カナダの対策を感じました。


<決勝>
予選よりも断然良かったです。
技を行いながら進み方もとてもよく、スピード感が感じられ、いい泳ぎでした。
スピンもとても丁寧に軸を取ろうとしていました。


ジュニアからシニアに上がって、シニアで泳ぐ大変さを感じたことでしょう。
ジュニアで見たときには「こんなに凄い選手がいるんだ!」と驚いたことを覚えていますが、シニアの中に入って演技をすると、とくに目立つ選手ではなくなってしまいます。改めてシニアのレベルとジュニアのレベルが違うことを思い知りました。



5:日本
足立夢実 20歳

 
足立夢実

<予選>
彼女のいいところは軽やかさであったり、飛び跳ねることだと思います。
もっと売りをしっかりわからせる構成にしたほうが、彼女の良さが際立ったことでしょう。


スピンの軸も少しぶれがあって、もったいなかった。


<決勝>
予選のときよりも、一つ一つの技を丁寧にこなそうとしている印象がありました。


ただ、爆発的な力や、彼女が一番売りにしている「エアー夢実」の、空中に止まるようなスラストはそれほど目立つものではありませんでした。世界はそれぐらいは当たり前という感じでやっています。


外国選手はもっとパワフルで、体も大きいので、「エアー夢実」という印象をこの試合からは受けられませんでした。


技術を探り探りやっているように見えるところが、思い切りの良さの欠如と映ってしまいました。



6:ウクライナ
ロリータ・アナナソワ 17歳

 
ロリータ・アナナソワ

彼女は年齢的に17歳。ジュニアのレベル。
まだまだ荒削りのところが目立ちますが、技にスピードが感のある演技だったので、今後が楽しみ。


思いきりが凄くいい。
途中スラスト、スピンなどたくさんやっているが、ちょっと軸がぶれようが、探らず、スパッとやるのが気持ちいい選手です。




7:ギリシャ
ナタリア・アントプル 19歳



やせていると言うこともありますが、とても身軽。
演技の中の足技で簡単に浮上してお尻まで見せてきます。
上半身の動きでも何気なく脚まで浮上してきます。その軽さには驚きました。
演技自体はパリッとしませんでしたが・・・。



8:フランス
クロエ・ウィルヘルム 20歳



デデューの引退後の新しいソリスト。昔は倒立が立てずにとても苦労していたようでですが、ここに来てできるようになってきています。
彼女のいいところは脚の強さ。鋼のような脚の強さがあります。



9:北朝鮮
ワン・オッキョン 19歳

 
ワン・オッキョン

最初のレッグブースの高さはトップクラス。胸が見えていました。
小柄な彼女だからできる動きの速さは見事。脚が飛んでいってしまうのではないかと思わせるほど速かったです。
ただ、力みすぎな部分と構成が洗練されていないのが残念でした。
そのあたりで8.5が出てきてしまうのだしょう。
演じると言う意味でまだまだ上位には入らないでしょうが、テクニックはある選手です。



10:イギリス
ジェンナ・ランダール 20歳



脚に余韻のしなりがあって、その美しさが見える選手。
ただ、イタリアの選手が持っているようなパワーや、押しなど全くないです。



11:チェコ
ソナ・ベルナルドワ 33歳



ものすごくベテラン。
丁寧にこなそうという気持ちが感じられました。
スピード感がかけてパワー不足ではあるが、ベテランのがんばりを感じて嬉しいです。



12:韓国
ヒュンスン・パク


凄く力強く
てスピード感がありました。
脚のシメや脚の伸びやかさがないので、美しさにかけてしまうのかなと思えました。
彼女のコーチは韓国の元ソリスト。


以上12カ国、決勝での結果の順位でお伝えしました。








<宮嶋 泰子>
ソロ・フリールーティーンの結果、その詳細はこちらからご覧ください。↓
世界水泳・公式結果掲載サイトです。


この大会必ず表彰台にあがってきた中国ですが、まだソリストが育っていないのか、中国はこの種目には選手をエントリーしてきませんでした。


中国のイメージを損なってしまう順位で終わるくらいならば、出場しないほうがましという、国の戦略が感じられました。


足立さんはがんばりましたが、159センチの身長は、ローマの高い高い空の下、強い光を反射して青く光るプールの中では、小さく感じてしまったのは残念でした。


また、日本の選手たちの力不足に対して、「まだ若いから」と言う言葉を日本のコーチたちは使いますが、今回ソロに出てきたメンバーを見て、その言葉が通じないことを痛切に感じました。


世界は17歳から代表で出てきているのです。もちろん33歳のベテランもいますが。


足立さんにはもっと力があるはずなのにと思うと同時に、足立選手の3倍はあるんじゃないかと思えるイタリア選手の太ももをみるにつけ、日本選手の小ささがあらためて気になりました。


外のプールで戦うときの作戦が、選手選考、構成、選曲すべてにおいて必要であることを強く感じざるを得ませんでした。


イタリアのソリスト・ベアトリーチェ 


日本の足立夢実

メンガルは演技直後のインタビューで「芸術点が9.8っておかしいんじゃない?」と吼えていましたが、少し時間がたって、悔しさがこみ上げてきたようです。


この演技が9.8っておかしくない?
と吼えるメングアル


表彰台で涙をこらえるメングアル

藤木コーチが「さぼり」というメングアルですが、この1年は見違えるようによく練習をするようになり、藤木さんも心から「金メダルを取って欲しい」と思っていたようです。


表彰式の様子をじっと見つめる藤木さんの横顔から、ここまで来る過程の濃密な時間が読み取れるような気がしました。


表彰式


藤木麻祐子コーチ

ところで、ローマは連日の酷暑。
特にこの日は40度近くまで気温があがり、みんなぐったりです。


CCTV中国電子代のアナウンサーが、実況途中でトイレに言ってはいけないと思い、お水を飲まずに熱中症にかかり、病院に運ばれる事態が発生しました。


同時に、CCTVのもう1人のスタッフは日焼け止めを塗らずに外で作業をしていたために、腕や脚がやけど状態になって、これまた病院に担ぎ込まれることになったそうです。


ボランティアスタッフは30分ごとにお水を運んできますが、どれだけ飲んでも、蒸発してしまうのか、あまりトイレにも行かなくて良い状態です。


中国電子台のアナウンサーの話は、私たちにとっても他人事ではありません。
それまで中継コメンタリーボックスではパラソルや覆いを一切つけてはいけないとお達しが出ていたのですが、そんなことを言っていられない状態になっていました。


そこで、こんなふうにお手製の屋根を作り、モニターなどの機材が焼けてしまわないようにダンボールで覆いを作ったのです。

         


ビニールシートコメンタリーボックスの
森下アナと解説の原田早穂さん


お隣さんも同様です          


私宮嶋もぐったりです…

まだまだ競泳終わりまで炎天下での熱さとの戦いは続きます。

世界水泳ローマ2009公式HPはこちら >>
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8/4 <武内絵美>
最終日・前夜
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8/3 <武内絵美>
イタリアのヒロインが
お隣に!
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7/31 <武内絵美>
人生初!決勝実況を
終えた吉野アナ
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7/30 <武内絵美>
「実況チーム」の
表情とコメントです!
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7/27 <宮嶋泰子>
このままではロンドン五輪に出場できなくなってしまう
立花美哉の眼 vol.9
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7/27 <宮嶋泰子>
18歳デュエット乾&酒井
立花美哉の眼 vol.8
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7/24 <宮嶋泰子>
ソロの女王は誰か
立花美哉の眼 vol.7
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7/23 <宮嶋泰子>
水の舞台
フリーコンビネーション
立花美哉の眼 vol.6
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7/22 <宮嶋泰子>
乾&小林が踏ん張る
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公開練習から
立花美哉の眼 vol.1
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7/21 <加藤泰平>
世界水泳、こちらもお見逃しなく!!
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7/18 <宮嶋泰子>
いよいよ世界水泳ローマが始まります
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7/18 <宮嶋泰子>
シンクロ取材暦25年。心に残る6選手は… vol.3
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7/17 <宮嶋泰子>
シンクロ取材暦25年。心に残る6選手は… vol.2
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シンクロ取材暦25年。心に残る6選手は… vol.1
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7/15 <宮嶋泰子>
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テレ朝1Fに『六本木ヒルズ・マーメイドプール』出現!
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