それにしても、乾さんと小林さんは、この逆風の中、よく4位に踏みとどまってくれました。 デュエットを泳ぐ選手が決まったのが、5月のゴールデンウイークのさなか、日本選手権最終日です。それも発表されたのは3人でした。 さらに、3人をどう組み合わせて泳がせるかが決まったのは5月末です。 二人一組で実質的なデュエットの練習が始まったのが6月に入ってからです。 世界水泳まで1ヶ月半でどうやって本番に間に合わせろと言うのでしょう。 コーチに指名された小川雅代さんも死に物狂い。 引き受けてしまったからにはと、意地でがんばっていました。 選手も同様です。 小林千紗さんと乾友紀子さんは同じ井村シンクロクラブの所属で、選手選考のための試合として指定された3月のドイツオープンと5月の日本選手権の二試合を制したデュエットです。 当然この二人が世界水泳の日本代表と思いきや、3人が選ばれた後の告知では、この二人の組み合わせはありませんでした。二人で勝ち取ったと信じた代表の座なのに、ふたを開けてみたら、二人の組み合わせがなかったと知ったときの選手の気持ちはいかようでしょうか。 選手は「選ばれた手」と書きます。 誰が選んだ手でしょうか。 選手は「手」ではありません。 選手にも心があります。 小林さんと乾さんは「二人で泳げる喜びを噛みしめながら演技をしました」と、演技後のインタビューゾーンで語ってくれました。 この半年間彼女たちの葛藤を見つめてきた者として、その言葉の重さに涙をこらえることができませんでした。