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チュニジア~地中海と歴史都市をめぐる旅~ 撮影日記

ベジャ近郊 100年の歴史を持つ鉄道橋を渡る
北部の旅で出会った夕景
チュニジア国鉄の長距離列車に乗って北部へ出発。この鉄道はフランス植民地時代につくられたもの。目指す北西部の街ベジャの手前には、立派な鉄道橋があり、ダイナミックな車窓風景を狙えるチャンスと意気込んでいた。
しかし、この日はトラブル続きだった。朝9時過ぎチュニス発の列車に乗る予定が、駅につくと運休になったという。次の列車は午後1時。冬は、日の入りが早く午後5時にはもう真っ暗。ベジャまで2時間はかかるので、到着後の街の撮影時間だけが気がかりだった。さらに、1時発の列車は40分遅れの出発となり、不安は募るばかり。
乗り込んだのは、なかなか年季の入ったディーゼル列車。出発前の窓拭きでは落ちない汚れやひび割れ、日よけがひっかかって塞がれているところもあり、撮影用の窓の確保に苦労する。車両間のドアが開け放たれていたのは幸いだった。(あとで分かったが、壊れて閉まらなくなっていただけだった。)チュニスから25キロ程走ったところで、ディーゼル機関車が故障したときは頭を抱えた。今は国の経済が不安定で、鉄道まで十分にお金がまわらないのが現状のようだ。
救援の機関車を先頭に、遅れに遅れて走る列車だが、車内はいたって穏やか。そして、何より風景が美しい。チュニジア北部には、豊穣の大地が広がっているのだ。地中海性気候の恩恵を受け、野菜や果物など豊富な作物が育ち、小高い丘は緑の牧草地と小麦畑で覆われている。北アフリカに植民都市を築いたローマ帝国の大事な食糧庫だったのも頷ける。
もう成り行きにまかせるしかない、と腹をくくったところへ、思いがけず飛び込んできたのが、素晴らしい夕景だった。空と大地が赤く染まり始め、なんとも形容しがたい光線が車内に差し込む。平地でひらけているからか、少しひんやりとした空気のせいか、光の種類が違う。ドアの横で風にあたる男性の顔を照らしながら沈む夕日、ただその光景にみとれてしまった。スケジュールのことはもう忘れていた。偶然出会えたこの車窓の景色は、今も目に焼き付いている。
ディレクター 太田 健亮
北部の旅は年季の入ったディーゼル列車で
車窓には予定外の夕景