カナダ東部 秋の紅葉とメープル街道の旅編 撮影日記

- 展望車両からの夜明け
- 夜行列車の醍醐味
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今回のロケで楽しみにしていたことの一つが寝台列車に乗車すること。車内の様子をじっくりと撮影できるからというのもあるが、何よりも私自身、列車に夜通し乗ることが生まれて初めての経験なのだ。オーシャン号の途中駅、ニューブランズウィック州のモンクトンから乗り込んで、いよいよ夜行列車の旅がはじまった。
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オーシャン号にはリクライニング式の普通座席で一晩を過ごすエコノミークラスと、ソファー席がベッドに変わる個室の寝台車クラスがある。今回、私たちは寝台車クラスに乗車した。トイレに洗面台、収納、エアコンやシャワールームまで完備されており、ベッドの寝心地も申し分ない。一泊するための部屋にしては充分すぎるほど居心地が良い部屋だ。
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この日は早朝からのロケに加えて、夜の列車内での撮影もあって疲労困憊していた。けれども、すぐに寝てしまうのはもったいないと思い、コーディネーターのMさんが差し入れしてくれた酒を飲みながら車窓をぼんやりと眺めることにした。暗闇の中、時折見える家の灯りはどこか寂しく感じられ、同時に心が癒されていくような不思議な感覚を覚えた。これが夜行列車の醍醐味なのだろう、と旅情に浸りながらいつのまにか眠りについていた。
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翌朝、目が覚めると列車はケベック州へと入っていた。撮影開始は朝の5時、ラウンジに集合するという話だったのだが、時間になっても誰もあらわれない。時間を伝え間違えたのか、それともみんなそろって寝坊しているのか、などと考えているうちに、ふと昨晩Mさんが言っていたことを思い出した。寝る前に時計を1時間戻しておくこと、これをすっかり忘れていた。ニューブランズウィック州のある大西洋ゾーンとケベック州のある東部ゾーンで-1時間の時差があるため、現地時間ではまだ朝の4時なのだ。
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仕方なくロケハンがてら最後尾の展望車両に向かうと、360度ガラス張りの車窓に、夜明け前の青とオレンジのグラデーションに染まった空が広がっていた。静寂さに包まれた列車から見る幻想的な景色は本当に美しく、時間を忘れて見入ってしまった。そこには初乗車にして既に夜行列車の旅にはまってしまいそうな自分がいた。
- ディレクター 深谷 純

- 寝台車クラス

- エコノミークラス