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オーストリア編 撮影日記

秋を告げる牛達の行進
チロル地方の伝統
撮影9日目。ザルツブルクから西へ進み、チロル地方の中心都市インスブルックを目指す。標高も少しずつ高くなり、列車はどんどん山の中へ入っていく。やがて牧草地と牛たちを車窓に見かけるようになり、牧畜が盛んな山岳地帯のチロル地方らしい風景になった。
ザルツブルクから急行列車で2時間弱、ザールフェルデンに到着。四方を山に囲まれたこの街で、1879年に建てられた山小屋を訪ねた。夏の間、牛を涼しい山の上に連れていき、牛飼いが寝泊りするために使われてきた山小屋。現在は観光ホテルに改築され、アルプスと街を見下すテラス席はハイキング客で賑わっていた。オーナーのフランツさんは15年前に買い取り「チロル地方の文化に触れるきっかけになれば」と家族で切り盛りしている。飾られている写真の中にフランツさんが若い頃に参加している牛おろし祭りの写真があった。牛おろし祭りは、山で無事に過ごせたことを自然や神に感謝する祭り。花飾りをつけた牛たちがカウベルを鳴らしながら行進して村へ帰ってくる、チロルの秋の伝統行事だ。
2日後、我々は牛おろし祭りが開催されるインスブルック近郊のペルティサウ村にいた。30頭の牛たちが、12キロの山道を5時間かけて帰ってくるという。山道を歩く牛を撮影するため、ぬかるんだ一本道を歩いていく。2キロほど進んだ所で、太いカウベルの音が聞こえはじめた。1分もすると牛たちの群れに飲み込まれ、突進してくるようで怖かったが、一緒に歩きながら間近で撮影ができた。頭にはオーナー手作りの花飾りがつけられ牛への愛情が華やかさになっていた。山道を全速力で走って追い抜いては撮る、を繰り返し、村に帰って来た時には汗だくだった。全ての牛が無事に村へたどり着き、人々はビールを飲んで歌い踊り、祭りは盛り上がりを迎えた。
アルプスに囲まれた村の牧草地で、帰ってきた牛たちが心地良さそうに草を食んでいた。その様子を見つめる民族衣装の孫とおじいさんがいた。これからもこの祭りは永遠に続いていくはずだ。
ディレクター 小林祥大
花飾りはオーナーの手作り
ザールフェルデンの山小屋