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オーストリア編 撮影日記

センメリング鉄道のハイライト、カルテリンネ橋を渡る
センメリング鉄道を越えて
オーストリア周遊の旅。最後は第二の都市グラーツからウィーンまで約200キロの距離を走る。この路線には1854年に開通し世界で初めてアルプス越えを果たした、全長41Kmのセンメリング鉄道の区間がある。オーストリア帝国時代から現在まで、ウィーンとアドリア海をつなぐ重要な幹線の一部を担ってきた。古い山岳鉄道ということで、ローカル列車が走る姿をイメージしていたのだが、実際にはオーストリアを代表する高速列車レイルジェットがダイヤのほとんどを占める。我々もグラーツとウィーンを2時間半で結ぶレイルジェットに乗車した。
センメリング鉄道の高低差は460メートルほどで、山肌にそって何度もカーブを繰り返し、ゆっくりと進んでいく。世界遺産にも登録されているこの路線、トンネルや石造りの高架橋はアルプスの風景と調和し、なかでも二層になっているアーチ構造のカルテリンネ橋は特に美しかった。しかし、車窓からはその姿をよく見ることはできず、これはもったいない。オススメしたいのはセンメリング駅で途中下車をすること。駅にある地元のボランティアによって運営されている博物館を観賞し、ブライテンシュタイン駅まで5キロのハイキングコースを散策すると良い。コースの途中には展望台があり、大パノラマの中にカルテリンネ橋を走る列車を見ることができる。撮影隊もこの展望台からアルプスの山々を走る真っ赤なレイルジェットをカメラにおさめることができた。
ウィーンへ向かうレイルジェットは、センメリング峠を下りると平野部に入る。やがて車窓が田園風景から高層ビルの建ち並ぶ都市へと変わっていく。もう帰らなくてはならない。この旅で出会った偶然の出来事、人々の笑顔、アルプスに抱かれた大自然の美しさが思い出され、感謝の気持ちでいっぱいになった。9月下旬のウィーン中央駅に着くと、新学期を迎えたばかりのワクワク感はなくなり、すっかり空気が冷えている。オーストリアを駆け抜けた1ヶ月の間に短い秋が深まっていた。
ディレクター 小林祥大
オーストリア国鉄が誇るレイルジェット
博物館には当時の難工事を伝える資料が残されている