世界の車窓から

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ベトナム編 撮影日記

ハイヴァン峠の海側を走る列車
北緯17度線
北へ向かう列車の右には海、左には山が、度々姿を現して目を愉しませる。ベトナムの国土はかなり山が多い。ホーチミンとハノイの2大都市周辺こそ広いデルタ地帯が広がる穀倉地帯だが、両都市の間はラオス・カンボジアとの国境を成すチュオンソン山脈の東斜面。海沿いに堆積した細長い平野に都市は連なり、それを鉄道が結んでいる。時折、海岸にまで山が迫る場所を通るときは、トンネルやカーブが続き、車窓に変化を与えてくれる。
フエから乗車した列車は北緯17度線を越えて、かつて「北ベトナム」こと、ベトナム民主共和国だった地域に入る。この近くには、アメリカ軍の基地の跡や、戦死したベトナム人民軍兵士の墓地・地下トンネルなど、37年前の戦争を伝えるものが何カ所か今も保存されている。残念ながら、列車から見えるのは国境だった川だけ。しかし穏やかに流れる水面を見つめていると、かえって何かを訴えかけているような気がしてくる。
アメリカがベトナムにあそこまで介入したのは、南ベトナムが落ちれば東南アジアがすべて共産主義化するし、そうなれば日本も危ないという「ドミノ・セオリー」によってだが、結局そういう展開にはならなかったし、ソビエト連邦自体がわずか16年後には崩壊してしまうという、その後の歴史を生きてみると、200万人以上ともいわれるベトナム人の犠牲者はいったい何だったのか、あまりにもやるせない。
17度線を越えた列車は、日没の少し後にドンホイに到着。ここで途中下車。
ディレクター 中村博郎
ドンホイ駅に到着
かつて国境だったベンハイ川