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ベトナム編 撮影日記

ビントゥアン駅に到着した列車
袖触れ合うも多生の縁
ベトナム人はフレンドリーな性格らしい。例えば、列車内で子どもをあやしている人がいて、当然その子の親か親戚だろうと思うと、そうでもない。たまたま近くの座席になっただけの初対面の人だったりする。他にも、大笑いしながら会話していたり、食べ物を分け合っていたりと、偶然同じ列車に乗り合わせたというだけなのに、打ち解けている乗客たちをよく見かける。列車のスタッフまでもが、小さな子が泣き止まなくて困っているお父さんに、ソフトシート車両の空いている席を提供するなど、ほのぼのとした人情が残っていて嬉しくなる。
それは、撮影隊に対しても当てはまる。異国の列車で撮影となると、車内で珍しい物を食べる人々というシーンが期待されるが、ベトナムには見たことのないお菓子や料理がふんだんにある。でもフレンドリーな彼らは、まずは私たちに「食べろ、飲め」と勧めてくる。「いえ、みなさんが食べているところを撮影したいんです」と説明するも、とりあえず、こちらがその「ヒナ鳥になりかけの卵」などを食べて「焼酎」などを飲み干さないうちは話が進まない。
似たことを、ハードシートで眠る乗客たちにも感じる。長時間乗るけど、寝台のお金は払えないという乗客は、対面式の座席と床を分け合って横になる。でも座っている人にとっては足場が邪魔とかいろいろとあるだろうし、誰がイスで誰が床かという損得もあると思うのだが、あまり「迷惑」「遠慮」「権利」「恐縮」などとは無縁な、ザクっとした「お互い様」感覚なのではないかしらん。生きていくには、そういうことも必要かも。
ディレクター 中村博郎
ソフトシートの座席へ案内された親子
食べているのはヒナ鳥になりかけの卵