世界の車窓から

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スペイン・ポルトガル 〜初夏のイベリア半島横断の旅〜 撮影日記

一両の国際列車
国境を越え、ポルトガルへ!
スペイン側の国境駅、バダホス駅から出る国際列車は1日2本の各駅停車で、国境越えのルートとしてはかなりマイナーだ。撮影隊は朝からワクワク、準備万端だったが、駅に向かう途中で列車が止まっているらしいと情報が入った。
列車が止まる、というのは「世界の車窓から」の“ロケあるある”として、先輩方から散々エピソードを聞いていた。実は、今回の撮影期間中もポルトガル国鉄のストが予定されており、運行本数が減る可能性があるということだった。ここまでの撮影では大きなトラブルもなかったため、「ついに来たか!」という気持ちだった。しかし、詳しい事情を聞くと、この日列車を止めたのは、予想していたストではなく“馬”だった。不運な馬が列車と衝突し、その復旧作業のため丸一日運休するとのこと。さすが家畜も多い農業国ポルトガル…と感心している場合ではない。本日の予定が白紙になり、さすがに焦り始める。しかし、ベテランスタッフのアドバイスもあり、瞬く間に予定を入れ変え、翌日に乗車することが決まった。
そして翌日、待望の国境越え列車は、白と緑の可愛らしい車両がたった一両。予想以上のローカル感にテンションが上がる。撮影日程を変更したせいで、出発は夕方6時過ぎと遅い時間になってしまったのだが、これが大正解だった。一日を終え、帰宅する地元の人たちが乗車した車内と、夕暮れの車窓はなんともいえない風情があった。一両だけでの列車なので、乗客や運転手さんとも仲良くなり、のんびりした時間が流れる。ここで出会った美術学校の学生さんは、撮影中の車内の様子をスケッチし、別れ際に、その素敵な絵をプレゼントしてくれた。“撮影の成功を祈っています”と温かいメッセージが添えられており、予定していた列車を逃したからこその出会いに胸が熱くなった。
この日の撮影は大成功、ポルトガルの旅も素晴らしいものになることを確信した。
ディレクター 中村有里沙
夕暮れの車窓
車内をスケッチする学生