世界の車窓から

トップページ > 撮影日記

ローマ発 真夏のイタリア縦断1500キロの旅 撮影日記

褐色のパッチワークの中を走る
シチリア島 褐色の大地
シチリア島メッシーナから紺碧のイオニア海沿いを南下すること1時間20分。エトナ山の麓にある、この島第二の都市カターニアに到着した。古代ギリシャ時代から発展した港町で、旧市街では平日の朝、新鮮な魚介が並ぶ魚市場が開かれている。のぞいてみると、魚が入った重そうな箱を屈強なシチリア男たちが運び出し、開店準備を始めていた。一見怖そうな彼らだが、カメラを向けると「チャオ~」と人懐っこい笑顔で迎えてくれる。こうした人々の笑顔もイタリアの魅力の一つだ。
カターニアからは、島の中央を斜めに横切るようにひた走る。エトナ山の麓を離れると、景色が一変した。収穫が終わった小麦畑や牧草地がパッチワークのような濃淡を見せながら、どこまでも広がっている。進めど進めど褐色の大地だ。島の真ん中にあることからシチリアの“へそ”と言われる街エンナを過ぎた頃、「面白いことがわかるよ」と運転手が運転席に案内してくれた。列車が右へ左へカーブを描きながら進んでいく。それは、かつてこの一帯が貴族たちの領土だったため、敷地内を線路が突っ切るわけにはいかず、境界線を縫うように線路が敷かれたからだと言う。今まで知らなかった列車のエピソードを聞いた途端、車窓に流れていた褐色の大地がすごく特別なものに見えてきた。ガイドブックにはなかなか載っていない、こうした話に出会うことができるのが、本当に列車旅の醍醐味だ。
メッシーナを出発し、シチリア島の東側をVの字を描きながら走ってきたシチリア島の旅。褐色の大地の隙間から再び見えてきた青い海が、この旅がもうすぐ終わることを教えてくれる。終点のパレルモはシチリア最大の都市。古代から様々な民族の支配下に置かれ、9~11世紀にこの地を治めたアラブやノルマン文化が交じり合った、独特の街並みが今も残っている。イタリアなのに、イタリア半島とは異なる異国情緒に溢れていた。ローマを起点にフィレンツェ、ナポリ、シチリア島まで、イタリアを縦断する中で、その土地その土地ならではの様々な表情に本当に魅せられる旅となった。まだまだ出会いきれていないイタリアの魅力に後ろ髪を引かれながら、再訪を誓いイタリアを後にした。
ディレクター 福良 美佳
カターニアの魚市場
パレルモのヌオーヴァ門の彫像