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チェコ・スロバキア編 撮影日記

タトリ山地を背景に列車は行く
紡がれる国民の誇り
国旗に描かれ、国歌にも歌われるスロヴァキアの象徴、タトリ山地。北部の国境線に連なるカルパティア山脈で最も高く、この国で初めて国立公園になった山岳リゾート地だ。
山懐を走るタトラ電鉄の山岳列車に乗車する。開通はおよそ百年前と歴史は古く、鉄道が村々を結び、多くの観光客が集まるようになった。撮影時期は夏休みのため、子連れの家族が目立つ。乗客に話を聞くと、「良い子にしていたから」「学校の成績が良かったから」という理由でご褒美に連れてきているのだと言う。この地が今も国民の誇りであり、子どもたちにもその思いが紡がれている。そんな瞬間に触れた感動に浸りながら山を登っていく。
目指すのはタトリ山地で3番目に高いロムニツキー・シュテート山の頂。標高は2634メートルに達する。天気に恵まれなかった今回の旅。3日に1日しか晴れないという山頂は、案の定、霧が覆って真っ白な世界が広がるだけだった。茫然としながらも、岩肌に残る雪、高山植物、展望台など撮れるものは撮っていく。すると、一組のカップルがロープウェーで登ってきた。なんでも「わざわざポーランドから来たので、折角だから」とのこと。どこで誰と出会うかで旅は一転する。真っ白な世界に二人の彩りが加わると、それも画になってしまった。
チェコとスロヴァキアを周遊する1700キロの旅。山や畑、草原といった牧歌的な風景が流れる車窓には、時折、木材を運ぶ列車、道路の建設工事などを目にする。工業国として発展する2ヵ国。喜ばしくもあるのだが、自然と共に伝統も失われていくようで寂しく感じた。しかし、旅を進めると、それが杞憂だと気付く。中世から残る建築物の前で水遊びする子ども、50万人規模のミサを夜通しテントで過ごす若者、足場を組んで聖人像を修復する老夫婦。チェコとスロヴァキアの国民が持つ歴史や伝統への誇りは私が思うよりもっと深いことを、旅で出会うそんな光景が教えてくれた。
ディレクター 小峰 康平
沿線で修繕される聖人像
子どもたちで賑わうタトラ電鉄の車内