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チェコ・スロバキア編 撮影日記

羊を追いかけるカメラマン
カルパティア山脈に残る伝統
列車が走るのはスロヴァキア北部、ポーランド国境沿いに連なるカルパティア山脈の麓だ。山間部には自然豊かなこの国の伝統文化が色濃く残っていた。今回は、旅の中で出会った幾つかを紹介しようと思う。
まずは、ユネスコ無形文化遺産に指定される民族楽器「フヤラ」。2m近くもある笛は700年以上の歴史を持ち、元々は羊飼いが連絡を取るために使われていた。指穴は3つしかないが、吹き方で音色を変え「会いましょう」「終わりにしよう」などの意志を伝えていたのだそうだ。演奏してくれたスロヴラさんは製作者でもあり、ワークショップや演奏会を積極的に行っている。「私にいつも安らぎをくれるフヤラの伝統を守っていきたいんだ」と教えてくれた。
そして、山間には多くの羊飼いが暮らしている。撮影は、まず探すことから始まった。羊がいれば羊飼いがいるはず、と、車で山中を走り回る。しかし、目にするのはどれも柵の中にいる羊。それでは画にならないので、さらに山の奥へ。1時間ほど走ると、念願の羊飼いのおじさんと出会った。話を聞くと、乳搾りの時間はすぐだそうだ。間に合って良かった。まもなく丘の向こうから、大量の鈴の音とともに羊の群れがやってきた。その数、360頭。羊飼いは木の杖を振りかざし、自在に牧羊犬を操って羊を追いかけさせる。まさに圧巻の光景、これこそ求めていた画だ。
搾られた羊の乳からはスロヴァキア名産のチーズ「ブリンザ」が作られる。撮影後に、近隣のレストランでジャガイモと小麦粉の団子に羊のチーズ(ブリンザ)を使ったスロヴァキアを代表する郷土料理「ハルシュキ」を食べる。これは、旅の間、必ずと言って良い程レストランメニューに載っていた。酸味が効きつつ、チーズの濃厚さが全面に出た素朴な味わいで、ビールと共に食べると美味しい。量の多さに少し胃がもたれたが、スロヴァキアを堪能できる喜びが勝っていた。
ディレクター 小峰 康平
スロヴァキアの文化遺産フヤラ
伝統料理のハルシュキ