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バングラデシュ編 撮影日記

ベンガル言語運動記念日のダッカ市内
旅のはじまり
この番組が、バングラデシュを取材するのは、今回で2回目となる。前回は1990年。実は、その時担当したのもこの私。23年ぶりに再び訪れることになった。首都ダッカの空港に降り立った時から、当時との相違は歴然。23年前、空港に駐機する飛行機はごく僅か。確かバングラデシュ国営航空の2機だけだったと記憶する。ところが今回は、各国の飛行機がずらり。首都の空港の体裁を整えているではないか。
ダッカ市内もすっかり変貌していた。23年前、道路を埋め尽くしていたのはリキシャ。黙々とリキシャを漕ぐ男たちの風貌が、まるで哲学者のように感じられた。ところが、今回は道路の主役が自動車に交代していた。洪水のように押し寄せる車、車、車。喚き散らすクラクション。車線などおかまいなしに、十数cmの隙間があれば、我先にと割り込んでくる。ここでカメラマンが名言を吐いた。東京には、かつて「江戸しぐさ」という暗黙のマナーがあった。ダッカにも独特のしぐさ、「ダッカしぐさ」があると。スレスレで走るのに、接触しているところを見かけない。日本なら、イライラしてしまうところだが、ダッカのドライバーは比較的冷静。まるで無法地帯に見えるダッカの道路にも、なにがしかの「しぐさ」が感じられる。渋滞にもお国柄が滲むものだ。
アジアはいま大きく変貌している。かつて、世界の最貧国と言われたこの国も、経済は堅実に推移。それを確かめるべく、ダッカのコムラプール駅から車上の人と成る。向かうは、第二の都市チッタゴン。23年前、バングラデシュの列車は、ダイヤなど無いに等しいくらい大幅に遅れていた。今回は30分ほどの遅れで発車。かなり改善された。乗り込んだ急行列車も落ち着いた雰囲気。予想外の展開に戸惑っていると、途中の駅から人がなだれ込んで来る。バングラデシュはこうでなくては。圧倒的な人の存在感。隣の人の体温を肌で感じるバングラデシュならではの旅がはじまった。
ディレクター 浦野俊実
コムラプール駅で出発を待つ列車
列車になだれ込む人々