世界の車窓から

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バングラデシュ編 撮影日記

狭い足場でペンキ塗り
2つの橋
首都のダッカから西部へ行くには、ジャムナ川という大河を渡らなければならない。私は、23年前の1990年、「世界の車窓から」の取材でバングラデシュを訪ねている。その際、ダッカからラジシャヒまで移動する途中で、ジャムナ川を渡っているはずだが、全然覚えていない。その部分の記憶が欠如している。当時、ジャムナ川に橋は無くて、おそらく渡船か何かで渡ったのだろう。その後1998年に、日本の協力で建設されたジャムナ橋が開通し、今はバングラデシュの大動脈になっている。
23年振りに、ラジシャヒ〜クルナ間の列車に乗った。特別に機関車に乗せてもらう。普段は機関車に乗る機会などあり得ないので、取材冥利に尽きるというものだろう。バングラデシュの西部は、東部と線路の幅が異なる。東部は狭軌だが、西部は広軌が多くなる。実は、ラジシャヒとクルナ間の線路は、19世紀、バングラデシュがまだインドだった頃、イギリスの植民地時代に敷設された。東インド会社は、植民地経営のためインドのコルカタ、当時のカルカッタからヒマラヤの麓のダージリンまで線路を敷設したのだが、ラジシャヒからクルナへ向かう区間の一部は当時のものである。この広軌の線路には、19世紀から20世紀にかけて世界を動かしたインドやイギリスの歴史が浸み込んでいる。
行く手に懐かしいハーディング橋が見えて来た。懐かしいというのは、23年前ここで撮影したからだ。こちらは明確に覚えている。ハーディング橋は、バングラデシュ国内ではポッダ川と呼ばれているガンジス川にかかる鉄橋で、イギリス人技師らの手によって建設された。鉄骨むき出しの建造物でありながら、エッフェル塔のように優雅で、フォルムに気品がある。ハーディング橋では、ペンキ塗りの真っ最中。ペンキを塗り替えることで腐食を防ぎ、できるだけ長持ちさせようというのだ。ハーディング橋が完成したのは1912年。100年後の今も、老朽化を感じさせずにガンジスの流れに立つ姿に、凛とした美しさを感じた。
ディレクター 浦野俊実
大河にかかるジャムナ橋
真っ赤なフォルムのハーディング橋