世界の車窓から

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バングラデシュ編 撮影日記

屋根の上からも撮影
幻の黒ブルカ
車窓の取材では機関車に乗る機会が必ずと言っていいほどある。今回の取材でも機関車によく乗った。運転室というのは、ある意味、聖域のような空間だから、「乗った」というより、「乗せてもらった」というべきだろう。運転室を見ていても、お国柄が感じられる。
バングラデシュの機関車には、いろんな人が乗ってくる。弁当を届けに来た運転手の奥さんが乗っていたこともあった。日本だったら言語道断。そんな運転手はクビになっているに違いない。我々取材班を乗せる際にもお国柄が滲む。機関車の撮影許可はあらかじめ取得しておく。バングラデシュでは機関車に乗る区間を決めなかった。撮影の進行状況を見計らって、機関車に乗りたくなったら、運転手さんと直接交渉。交渉と言ったって、ベンガル語を話せるコーディネーターがその場にいないことが多かったのでジェスチャーだ。手振りでそこに乗りたいと示す。それでも喜んで乗せてくれた。バングラデシュの運転室は、ガラス窓で区切られた聖なる個室ではなく、オープンスペースなのだ。但し、一般の観光客が乗せてくれと言っても、願いを受け入れてくれるかどうかは定かではない。
機関車の取材では、ひとつ心残りがあった。女性が運転する機関車とすれ違ったのだ。ジェ、ジェ!伝統衣装の黒いブルカを風になびかせて颯爽と機関車を運転している。しびれるほどかっこいい。僅か10秒ほどのすれ違い。しかも、スタッフの中で見たのは私だけ。白昼夢かと目をしばたたいたりしたが、確かに女性運転手。イスラム教の国ということを考えあわせれば重要なテーマ。取材を急遽申し込んでアレンジをしてもらう。しかし、時間切れ。女性運転手はバングラデシュ全体で10人ほどいるそうである。 それにしても、撮影したかった。風に揺れる黒ブルカと機関車の残像が、いつまでも脳裏をよぎった。
ディレクター 浦野俊実
機関車の先頭にはたくさんの人が
伝統的な黒いブルカ