世界の車窓から

トップページ > 撮影日記

バングラデシュ編 撮影日記

屋根の上も満員のローカル線がいく
風に吹かれて
バングラデシュで最後に乗った路線は、サンタハールからボグラを通り、ディナジプールへ向かうローカル線だった。今回取材した中では、この区間が一番混み合っていた。尋常な混み具合では無い。機関車はおろか、機関車と客車の連結部、客車の屋根にまで人が鈴なりだ。機関車の周囲には、幅40cm位の人が立てるステップが張り巡らされているのだが、そこも立錐の余地が無い。機関車にまで人を乗せるなんて、厳密にはルール違反だろう。駅に着く度に、運転手が剣幕をたてて注意する。しかし運転手は、乗客に「降りろ」とは言わない。運転席から前方が見えるように「座れ」と指示しているのだ。
機関車に人が乗るのは、バングラデシュでは常態化している。運転手も、しょうがないとは思いつつも大目に見ているらしい。時速90kmの風をまともに受けながら、機関車の先頭に乗っている男にインタビューを試みる。「運賃は払ったのか?」「払ってない」という返答。実は、機関車に乗る客は、決まって無賃乗車である。「これでいいのか?」と運転手に問い質すと、「彼らは貧乏なんだからしょうがないのさ」という答えが返って来た。何という「緩さ」、でもこれがバングラデシュなのだろう。
列車の屋根にも昇ってみた。屋根の乗客も無賃乗車だ。屋根の上は意外と安定している。しかも、風が心地いい。癒される。屋根には車窓というものが無いので、過ぎゆく風景をまるごと体感できる。でも、ふと思う。今後、このような光景はいつまで見られるのだろうか、と。将来、鉄道インフラが整備され、列車の本数が増発されれば、混雑は解消され、満艦飾の列車が見られなくなる日が来るかも知れない。乗客の安全のためには、その方がいいことは分かっている。それでも、この光景は無くなって欲しくない。満艦飾の列車は、いつまでも走っていて欲しい。風に吹かれながら、そんな気がした。
ディレクター 浦野俊実
機関車での撮影は一苦労
混雑するローカル線の駅