

2007年4月5日
日本の認知症患者は推計170万人。団塊の世代の高齢化が進めば、20年後には高齢者の10人に1人が認知症になると言われている。決定的な治療法がない一方で、新しい研究や取り組みが続々と始まっている。認知症治療と介護の最前線を取材した。
アルツハイマー型の認知症の下島鈴枝さん(80)。毎朝、自分がどこにいるのかわからなくなる。頭の中では夫と暮らしている下島さんだが、夫は3年前に他界している。下島さんは夫の死がきっかけで認知症になり、夫を探し求めて徘徊を繰り返した。
下島さんの脳の画像を見てみると、記憶をつかさどる海馬が萎縮している。そのため、何かを新しく記憶することができない。現在認可されている薬は、症状の進行を遅らせる効果を期待できるが、完治は望めない。
そんななか、先月、アルツハイマー病を根本的に治すワクチンの効果がマウスの実験で確認された。アルツハイマー病の原因物質は、海馬の神経細胞を死滅させるβアミロイド。新しいワクチンを投与すると、そのアミロイドが取り除かれる。国立長寿医療センターの田平武研究所長は「マウスもアルツハイマー病になると認知機能が落ちるが、このワクチンを使うと認知機能が元に戻った。残念ながら、すぐ人間どなたにでもという段階ではない。最低でもあと5年くらいはかかる」と話す。
決定的な治療法がないなか、岐阜県の介護施設「グループホーム結」では、認知症の進行を遅らせることに成功している。お年寄りは認知症のため、なぜこの施設に来たのか覚えていない。お年寄りに安心してもらうために、ここでは2年前から聞き取り調査をし、その情報を介護に生かしている。この方法は「センター方式」と呼ばれ、今、全国に普及し始めている。家族構成、思い出の場所、大事な人とのエピソードなど、聞き取りは幼年期にまでさかのぼる。個人の歴史を知ることで、それまで無意味に見えた行動が、大切な意味を持った意味ある行動だということがわかってくる。
聞き取り調査の結果、下島さんには巻き寿司を作る特技があることがわかった。そこで、下島さんが得意になれる時間を増やすため、スタッフは献立に巻き寿司を増やした。作ったことを覚えていなくても、そのときの喜びは心に残る。その積み重ねが心を満たし、穏やかな気持ちに変えていく。