

2007年5月10日
35年前、奈良県明日香村にある高松塚古墳(7世紀末〜8世紀初頭)で、日本で初めて極彩色の壁画が発見された。「戦後最大の発見」と謳われた古墳の壁画に、日本中が沸き立った。そして今回、古墳の石室を解体して壁画を石の壁ごと吊り上げるという考古学史上前代未聞の試みが行われた。
石室には、鎌倉時代にあけられたとされる盗掘口がある。北の壁には"玄武(げんぶ)"が描かれていて、亀とヘビが絡み合う様子がかろうじて残っていた。東西の壁には守り神とされる神獣の"白虎(びゃっこ)"と"青龍(せいりゅう)"が描かれている。さらに、石室の四隅には男女4人ずつの人物群像が描かれていて、鮮やかな衣装を身にまといながら被葬者に寄り添うように配置されていた。その中で、最も脚光を浴びたのが西の壁に位置する女子群像で、世に言う「飛鳥美人」だ。うっすらと古墳の湿り気を帯び、慎ましやかにたたずむ様子は「水も滴る濡れ色の美しさ」と謳われた。当時、文化庁は壁画を内部で現状のまま保存することを決定する。しかし、それは同時に劣化との戦いでもあった。
発見当初、白虎は鮮明に輪郭を残していたが、3年前にその胴体部分が消滅しかけていたことが判明した。さらに機材の転倒で壁画が損傷したり、防護服を着用せずに作業していた事実も明るみになった。飛鳥美人の目じりにも黒カビが発生し、壁画が描かれた漆喰は今にも崩れそうになっている。1300年もの間、万葉の輝きを湛え続けた飛鳥美人は、30年あまりで変わり果てた姿となってしまった。
そして今月10日、飛鳥美人修復のため石室の解体作業が行われた。壁画を壊さぬように、石壁を吊り上げるクレーンなどの機具も100回以上改良を重ねてきた。取り外された16枚の石壁は、振動を吸収するトラックで慎重に運ばれ、保存・修復される。今回の解体作業には、2年間で10億円もの予算が投じられている。
では、約1300年前にこの美女に見守られながら眠りについた人物とは誰なのか?発見当初、石室には棺の底板がかろうじて残っていた。今回、飛鳥資料館の地下に収蔵されている貴重な棺を撮影することができた。漆に塗られた底には、遺体を安置した跡らしきものが薄っすらと残っているように見える。棺には遺骨がほとんど残っておらず、頭部がどちらを向いていたのかなど詳しいことは判っていない。