

2007年9月5日
4700万人が加入している国民健康保険は、自営業や農業、漁業に従事する人、退職した人のセーフティーネットだった。しかし今、その保険料が大幅に値上がりして払えず、各地で『無保険者』になる人が続出している。
病気になっても病院に行けず、"患者になれない"人々の現実―――。
国保累積赤字50億円を抱え、約1万人の無保険者がいると見られる福岡で、その厳しい実態を取材した。
国民健康保険証を持っていない後藤孝一さん・54歳。内装工事を請け負う個人事業主だが、仕事が激減して収入が少なくなり、保険料の滞納を余儀なくされた。後藤さんには、市販の薬さえ十分に買う余裕はなく、薬が必要な場合には友人から分けてもらっている。長年、重い資材を運んできた後藤さんは、手首や足首に慢性的な痛みを感じているが原因はわからない。医療費がかかるために検査していないからだ。そして病気のときは、ひたすら横になって痛みをこらえると言う。長引けば、仕事にも行けないので収入が減ってしまうのだ。
後藤さんの収入は、月に約17万円。そこから倉庫の家賃や車、工具の維持費などの経費を除くと、手元にはほとんど残らない。後藤さんは副業で新聞配達をしていて、その収入が月に6万円。これが生活費に充てられている。
「病気をしたときは、10割(負担)でやったほうが得だと思って、健康保険に入っていないのが現実」と後藤さんは言う。
国民健康保険の加入者は、かつては自営業や農業、漁業で働く人が支えていた。しかし現在は、高齢者やパート、アルバイトなど低所得者が大半を占める。福岡市の場合、国保加入者の66%が年間所得100万円以下だ。
54歳になって体力に自信がなくなってきた後藤さんは、保険料の支払いについて相談するため、役所を訪れた。年間所得を100万円とすると、過去2年間に滞納した分を加えた50万円を払う必要がある。後藤さんが保険証を手にするには、予想を超えた金額が必要だった。今、大きな病気をしたらどうする?という記者の問いに、後藤さんは「俗に言う"孤独死"しかないでしょう」と答えた。
保険料が上がり、今年から滞納している人もいる。
和田さん(仮名)・62歳は、階段から落ちて両膝の半月板を損傷して無職になった。和田さんは、アルバイトをする息子と暮らすことにした。