

2007年10月10日
医療の高度化で急増する外科手術。そこになくてはならないのが麻酔科医だ。今、全国で行われている全身麻酔は年間210万件だが、それに対して麻酔科医の数はわずか6000人しかいない。
今年3月、全国で始めて認められた麻酔科医の過労死の判決。死亡した医師の1ヶ月の残業は184時間にもおよび、1日の睡眠時間は4時間にも満たなかった。
深刻な人手不足が引き起こした1人の麻酔科医の死―――。今、医療現場で何が起きているのか、その現状を追った。
記録的な猛暑だったこの夏、全国で3000人を超える熱中症患者が病院に運ばれた。
大阪三島救命救急センターでは、8月の1ヶ月間で36人の熱中症患者を受け入れた。この日、運び込まれたのは83歳の女性で、熱中症による意識障害があった。
麻酔をかけるだけが麻酔科医の仕事ではない。熱中症ややけどなどの治療は、全身を管理する麻酔科医の仕事なのだ。麻酔科医の西原功医師(44)が、体温を急速に下げるために4度に冷やした点滴を注入する。この冷やした点滴により、40度あった体温がわずか40分で通常の体温まで下がった。
本来の仕事である麻酔以外にも医療の高度化とともに麻酔科医の仕事は増え続けている。
三島救命・救急センターにこの日4人目の救急患者が搬送されてきた。自転車で走行中に車と接触し転倒した51歳の女性。頭を強打して意識はほとんどなく、脳挫傷の疑いがある。この患者は都市部の別の病院から転送されてきていて、状況を説明するために脳外科医が付き添ってきた。その病院には常勤の麻酔科医がおらず、女性が搬送されてきたのが非常勤の麻酔科医が帰った後だったために手術ができなかったという。
麻酔科医不足により都市部の中核病院でも緊急手術ができず、患者の転送を余儀なくされている。このような転送が年に数十例あると西原医師は言う。
三島救命救急センターで手術が始まった。麻酔科医の西原医師が、体の状態をチェックしながら麻酔薬を注入。そして、人工呼吸器と器官をつなぐチューブの挿入に移る。誤って食道に入れて死亡事故につながることも多く、麻酔科医が最も緊張する瞬間だ。全身麻酔により、自発呼吸ができない患者にかわり、麻酔科医が呼吸・血圧・体温などの全身管理を行う。麻酔科医がいることによって、外科医は執刀に集中できるのだ。