

2007年11月23日
2年前、世界自然遺産に登録された北海道・知床半島。残された自然環境の貴重さから"日本最後の秘境"とも言われている。
人の往来もほとんどできない半島の先端部に、漁師たちが泊まりこんで働く「番屋」と呼ばれる小屋がある。流氷がなくなる4月から11月まで、13人の漁師が定置網漁を行っていた。ところが番屋には、野生のヒグマが頻繁に姿を見せるという。
そんな話を聞いた直後、我々の目の前にヒグマが現れた。その距離は、ほんの10数メートルほど。ヒグマはしばらくうろついた後、静かに山へ帰っていった。
ヒグマは国内では北海道だけに生息し、中でも番屋周辺は密集地域だった。番屋から1キロほどのところを流れる川に行ってみると、当たり前のようにヒグマの姿があった。このとき、川は産卵のために遡上するカラフトマスで溢れていた。ヒグマは大きな体を躍らせて巧みにマスを追い詰め、旺盛な食欲で何匹も食べ続けていた。
10月中旬、川に遡上する魚が少なくなった頃、漁師たちはサケの加工作業をしていた。すると、番屋の裏山にヒグマが現れた。その距離は7メートルほど。しかし、ヒグマはこちらを気にする様子もない。次第にヒグマは番屋に近づくが、ところが漁師たちも気にする様子を見せない。「忙しくて、全然気が付かなかった。気にしていたら仕事にならない」とある漁師はいう。
なぜ漁師たちは番屋に留まるのだろうか。定置網は番屋の目の前に張られていて、引き揚げる作業は全員総がかりの大仕事だ。漁師たちが人里離れた番屋に留まるのは、常に海の状態を確認するためだった。
しかし、ここにいる限り『ヒグマとどう向き合うか』が突きつけられる。漁師たちの束ね役で、40年以上もここで働く大瀬初三郎さん(73)は「30年前、最初は俺たちも怖かった。町役場にハンターを要請して、駆除してもらったこともあった」という。
しかし、大瀬さんはあるとき、ヒグマの反応に気が付いた。「こっちで怒鳴ってやると逃げていくようになった。これなら大丈夫だから(駆除せずに)追い払ってやればいいと思った」と大瀬さんはいう。長い時間をかけてヒグマを知り尽くしているからこそ、できることだった。
そして大瀬さんは、ある重要なヒグマの習性を見出した。番屋には、漁師たちの食事をつくるための賄いの女性がいる。