

2010年10月26日
多くの人は、人生の最期を病院ではなく、住み慣れた自宅で迎えたいと思っている。しかし、実際には難しいのが現実だ。そんな中、独り暮らしの高齢者や、治療困難な患者を最期の時まで往診でみる医師のチームが大阪にある。
大阪市内にある「中村クリニック」。ごく普通の街の診療所だが、院長の中村俊紀医師(43)には、あるこだわりがある。クリニックには、自力で玄関まで歩けない患者たちの自宅のカギが保管されている。中村医師のこだわりは往診。治療困難な患者を自宅で最期までケアする“終末期医療”だ。中村医師は、大阪大学医学部で学び、心臓病の遺伝学的治療で博士号を取っている。11年前にクリニックを開業。その後、医者仲間に呼びかけ、12人のチームで往診するようになった。現在、独り暮らしや家族との同居の患者ら合わせて280人ほどを診ている。中村クリニックの診察券には、携帯電話番号まで書かれ、いつでも連絡が取れるようにしている。
中村医師は、「家に行ったほうが患者さんの全体像が見える。患者さんの家族、本人の言葉を聞いて、往診にやりがいをだんだん見出してきた」と話す。独り暮らしの神徳寛さん(67)。胃がんと膀胱がんの末期で、2009年10月から中村医師が往診している。神徳さんに結婚の経験はなく、親戚づきあいもほとんどない。唯一の楽しみはお酒。神徳さんは「酒が飲めておいしく感じるときが、やっぱり生きているなって気がする」と笑顔で話す。末期がんの患者が、お酒を飲むことについて、中村医師は「神徳さんの場合、酒を止めたら病気が良くなるとか寿命が長くなるというパターンではない。楽しみを奪うのは良くない」という。
かつて塗装の仕事をしていた前川恵さん(74)は、肺真菌症で肺の一部を切除していて、常に酸素を必要としている。奥さんとは離婚して、今は独り暮らし。子どもは年に数回訪ねて来る。自衛官の息子が自慢の前川さん。話を聞いてあげるのも、中村医師の大切な仕事だ。ある日、たまたま訪ねていた長男の修一さんから、前川さんの様子がおかしいと連絡が入った。別れた奥さんも駆けつけていた。前川さんは、酸素を欲しがっていた。しかし、中村医師は、酸素ボンベからの量を急に増やせば、自分で呼吸をしなくなり、逆に危険だと判断した。