ドイツ編 撮影日記

- 戦時型蒸気機関車 52型
- ロマンチック街道で宇宙と歴史を体感する
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ロマンチック街道の沿道にクレーターがある。南ドイツのネルトリンゲン、周囲を城壁に囲まれた中世の面影を宿す町が、クレーターの中に形作られている。駅構内に掲げられた町の鳥瞰図を見ると、確かに円形をしている。町の中心に建つ大聖堂に登って上から見てみよう。薄暗い塔の中をぐるぐると登っていくと、何と一匹の猫に出迎えられた。まさか宇宙人ならぬ宇宙猫でもあるまい。塔の最上部から俯瞰すると、確かに町は丸い形をしている。赤い瓦屋根の家並みが美しい中世の町とクレーターというのは、不思議な取り合わせではないか。
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町の一角に博物館があるというので行ってみた。クレーター専門の珍しい博物館で、世界中から来訪者が絶えない。ネルトリンゲンが収まっているのは「リースクレーター」というもので、およそ1500万年前の隕石の衝突で出来た。その際の衝撃で、最大400km四方まで岩石が飛び散ったというからそのエネルギーは凄まじいものだったにちがいない。何しろ隕石は、恐竜を絶滅させてしまうほどの威力があるのだから。中世の人たちは、ここがクレーターだということは勿論知らなかったはずで、眺めが良くて敵の襲来を見つけやすく、丸く城壁を囲むのに都合がいいから町を造ったのではないだろうか。
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クレーターの町ネルトリンゲンには、ドイツ往年の「52型」という名蒸気機関車が保存されている。その特別運行日、約束の午前8時に車庫に行くと、すでに火入れが終わり、もくもくと煙を吐き出していた。実に大きい。これまで車窓の取材で何度も蒸気機関車を見てきたが、その中で一番大きいのではないだろうか。車庫から出て回転盤に載った52型は、威風堂々たる姿だ。車体が大きいのは、製造時の時代の要請があったからだと後で知った。
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52型は「戦時型機関車」といい、1942年に第二次大戦で機関車の大量生産が必要となって生まれたのだった。戦車などの兵器はもとより、強制収容所へ死の運搬を課せられたのもこの機関車である。戦後は、西ドイツやロシア、ポーランドなどヨーロッパ各地で活躍したという。特に東ドイツでは、1980年代まで現役で、戦後を走り抜いた。52型ほど人間界の酸いも甘いも見つめてきた機関車は、他にないのではないだろうか。ネルトリンゲンからの蒸気機関車の旅は、太古の昔から現代史という時の流れを感じるものとなった。
- ディレクター 浦野 俊実

- 黒煙を上げてゴトゴト進む

- クレーターの町ネルトリンゲン